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初めてのデートで初めての恋愛映画。これってもしかして恋愛脳?

 翌日、朝の九時前。

 余裕を持って駅前についた俺は、目立つオブジェクトの前で天宮を待っていた。


「少し早かったかな⋯⋯」


 現在時刻は八時半を過ぎたところ。

 今日は雲ひとつない快晴で、駅周辺にはチラホラと人が増え始めていた。


 約束の時間まで少しあるが、大人しく待っていよう。


「沢渡さん」


 暇つぶしにスマホを取り出したと同時。

 横からふわ、とフローラルな香りがした。

 反射的に顔を上げる。


「――――」


 驚きのあまり、瞬きすら忘れていた。

 約束より早く来たことではない。


 ――天宮の、とびきりの可愛さに。


「どうしたんですか、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」


 呆然としていると、天宮が訝しげに見てくる。

 俺は未だ思考が上手く働かなくて、なんて言えばいいのか戸惑っていた。


「い⋯⋯いや、なんでもない」


 誤魔化しつつ、横目で天宮を盗み見る。


 間違いない。

 今日の天宮は、とんでもなく可愛い。


 俺は口元を手で押さえ、上から視線を落としていった。


 色素の薄いセミロングの髪がハーフアップになっていて、結び目に大きなリボン。

 化粧の類は使っていないのだろう。

 素の美人な顔に、可愛さを演出する髪がまた似合っていた。


 次は――服装。

 細いスタイルを強調するチェックのワンピースに、大人っぽさを引き立てるブラウンコートはこの季節に最適だ。


 正直、胸が高鳴った。

 主観ではあるが、現実とかけ離れた幻のごとき容姿。

 人間にしてはあまりに美しく、造り物なんて言葉じゃ形容できない繊細さ。


 周囲にいた人々が息を飲むほど、彼女は綺麗だった。


「あ⋯⋯い、行くか」

「? はい」


 自分の顔が急速に赤くなっていくのを実感し、思わずそっぽを向いてしまう。

 天宮からわかりやすく顔を背けたせいか、天宮は訝しげに見てきた。


 そんな視線から逃げるように、俺は先導して駅へ入っていく。


「そういえば大丈夫だったか? 来る時」

「陽葵さんの事ですか。ええ、特に気配は感じませんでしたよ」

「そうか⋯⋯なら、いいんだが」


 改札を通り、一番線に向かう。


 やはり、俺の考えすぎだったのだろうか。

 一応、家から駅まで俺も気にはしていたんだがそれらしき人物はいなかった。


「油断は禁物です。いつどこで見られているのかわかりませんから」

「わかってるよ。ただ、駅前でこんだけ目立つと見つけるのも難しいんじゃないかと思ってな」

「それも踏まえてのデートです。これからが本番ですよ」


 階段を降りながらそんなやり取りをしていると、あくまで恋愛脳の思考ではない、と釘を刺されてしまった。

 わかってはいるのだが、偽装にしたってデートは緊張してしまう。

 なんたって人生初の体験なんだからな。


「⋯⋯なにを勘違いしているのかはわかりませんが」

「なんだよ、急に」

「わたしは異性とのデートをした事がありません。こう見えて少し緊張しています」


 やや赤面しながら言う天宮。

 な、なんだよそれ⋯⋯不意打ちすぎる。


 だって、そんな顔――






 *






「結構人が多いな」

「休日ですからね。それに、ここはいつでもそうです」


 行き交う人々を眺めていると、天宮が辺りを見回す。

 俺たちが来たのは大型ショッピングモール。

 服や靴などの店舗はもちろん、日用品から娯楽、様々なレストランがある県内でも大規模のモールだ。


「⋯⋯どうだ、いるか?」


 俺は天宮に耳打ちをする。


「いえ、今のところは⋯⋯おそらく、これほどの人混みではわたしたちを見つけることはできないかと」

「そうか」


 一通り周囲に目を配らせた天宮が、俺を見る。


「俺からも見えないな。陽葵の身長が低いってのもあるが、それ以上に人手が多すぎる」


 もし陽葵が俺たちをつけてきたのたとすれば、きっと今は見失ってるはず。

 陽葵ほどの身長では、すぐに埋もれてしまうからだ。


「気を取り直して、行きましょう」

「ああ」


 一旦陽葵のことは置いて、俺たちは映画館へと向かう。

 今日のスケジュールはこうだ。


 まず昼前に映画を見終え、それから昼食。

 その後買い物をしながら時間をつぶす、と言った流れだ。


 そのため、まずはチケットを購入しに行く。


「ところで、なにを見るか決めてきたか?」

「はい、一応」


 発券機の列へ並び、上映中映画の広告映像へと視線をやる。

 天宮が決めた映画⋯⋯サスペンスホラーとかだろうか?

 天宮に似合ってるし、なにより好きそうだ。


 そして、俺たちの番。

 なんの映画を選ぶのか横から見ていると――。


「恋愛映画にします」


 天宮は無表情で俺にそう言い、操作を進めていく。


「⋯⋯⋯⋯は?」


 思わず、調子外れな声が漏れ出た。

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