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三章 16.敵の真相

 肩口の傷の痛みは増す一方で、激痛が頭まで響いてくる。ポーチから出した回復薬を傷口にぶっかけたが、それも気休めで良くなる気配は一向に無い。

 ようやく見つけた敵の主犯だが、長引けば俺の体はもたないだろう。つまりは、速攻で片付けて補足しなければならない状況という訳だ。


「まずいな、多分あいつはこの世界に来て一番の強敵だ……」


 だが、残念ながら目の前の敵はこれまで戦ってきた魔物や勇者一族よりも一段上に位置する強者である。油断していたとはいえ不意打ち程度で俺がここまでの負傷をするということは、それだけ奴が強いという証であった。

 下手に手を抜けば確実に負ける。全力で戦っても今のこの傷じゃ何処までやれるか分からない。赤い髪をなびかせるこの強者を相手に、俺は勝機を見出さなければならなかった。


「弱い者から順に倒していこうと思ったんだが、そう上手くはいかないか」

「……ひぐっ!」


 赤髪の男から放たれる鋭い殺気にあてられ、リリフィナは喉を潰す様なか細い悲鳴を上げた。恐らく本人も本能で、奴がどれほど危険な存在か感じ取ったのだろう。


「……な、舐めないで――」

「落ち着け。あいつの相手は俺がする、リリフィナ下がって後ろの区長とその娘っ子を守ってろ」

「……でもリーシャンも今の傷じゃ戦えない!」

「平気さ、これくらいの修羅場なら俺は昔から何度も潜り抜けてきてる。大したことねぇよ……」


 守りに徹するよう指示を出すが。リリフィナは俺の傷の大きさを鑑みて戦えるわけがないと心配してくる。

 まぁ彼女の言葉も最もだろう。だが、俺も魔王と呼ばれるようになる前までは、よくこんな感じの大怪我をしながらいくつもの死線を乗り越えてきた。苦しい場面なら何度も経験してきたんだ。

 だからこそ、ここで負けるほど俺はヤワでは無いと断言出来る。


「ご主人様、私も戦う」

「馬鹿言うな、お前の今の役目は後ろのあの要人の護衛だろ?だったらその責務を全うしとけ」

「分かった、でも無理そうなら手伝うから」

「あいよ」


 久しぶりに再会したドロシーも俺の傷を心配して共に戦うよう進言してくるが、それも却下だ。正直リリフィナだけであの赤髪の男から区長達を守りきるのは不可能だろうし、俺も完全に攻撃を庇いきれる自信はない。

 だからこそ、最後の防波堤としてドロシーには陣取ってもらわなければならないのだ。


「話し合いは終わったか?なら、そろそろ死んでもらうぞ」

「誰がこんな所で死ぬかよ!」


 いい加減待つのも限界とばかりに、再び赤髪の男から短槍が飛んでくる。

 だがそう何度も同じ攻撃を食らうほど俺はぬるくない。飛来する槍を回し蹴りで弾き飛ばしつつ、地に足を着くと同時に強く蹴り出して一瞬で距離を縮め近接戦に持ち込んだ。


「怪我人の癖にいい動きをしやがる……!」

「ははっ、この程度怪我のうちに入るかよ!」


 殴り合いの速さなら負けるつもりは無い。急接近しての連撃を前に、赤髪の男は手も足も出ず回避するので精一杯と言う様子だ。

 しかし、精一杯とはいえ避けられるというのは誤算だった。まさか俺の攻撃の速度を見切る奴が現れるとは。


「ちっ、いつまでも調子に乗ってんじゃねぇ!」

「うおっ!剣まで持ってんのか。さっきから思ってたけど、一体どこから武器出してんだよ?」


 いつまでも殴り続ける俺を煩わしく思ったのか、赤髪の男はどこからともなく赤く透き通った剣を取り出し斬り込んでくる。

 それも魔石で形成された剣だ。ずっと思っていことだが、こいつやさっき倒した連中もそうだけど普段は手ぶらにしか見えないというのに、どこから武器を取り出しているというのか。

 恐らくその秘密に、こいつらを倒す鍵があるはずなんだが。


「誰が教えるか馬鹿が」

「ならお前を倒して吐き出させてやるまでだ」

「やれるものならやってみろ!」


 先程まで近接戦では俺が押していたが、剣を出してからはなかなか踏み込むことが出来ず今度は俺が回避する側に回る。

 このまま近接戦を続けていても拉致があかないな。こうなったらトイブラスターで一気に終わらせるか。


「おらよ、こいつは防げねぇだろ」

「む、その武器は……甘いな、そいつは既に学習済みだ!」


 攻防の僅かな隙をついて距離を取り魔弾を撃ち込んだのだが、その動きは読まれていたらしく赤髪の男も魔石を投げつけることで相殺された。


「な、なんだ……?今魔石が手のひらから飛び出したように見えたんだが……」


 だが、相殺されたことよりも気になったのは、奴がノーモーションで高速の魔石を放ってきたことだ。赤髪の男は投げる予備動作など一切見せずに、まるで手のひらから魔石を射出するかのように放ってきた。

 はたしてそんな芸当が人間に可能なのだろうか。


「こいつらもしかして……いや、でも有り得ないだろ……」

「何ブツブツ言ってやがる、考える余裕なんか与えるかよ!」


 手のひらから射出される魔石、そしてどこからともなく現れる武器の数々。この違和感の正体に一つの可能性が脳内に浮かんできたが、そんな俺にじっくりと考える時間を与えてくれる程、赤髪の男は優しくなかった。


「うおっ、こ、今度は連射だと!?」

「このまま体に風穴あけてやる!」

「くっ、しつこいな……!」


 止まらない連撃にこちらも魔弾で迎撃機するが、連射制限の影響でトイブラスターが赤く輝き出す。このまま撃ち続ければ壊れてしまうと判断し、俺はたまらず岩陰に身を隠して凌ぐ。

 先程から脳裏に浮かんだ嫌な予感が、戦いに集中する意思を削いでくる。この違和感の正体を探らない限り、奴に勝つことは叶わないだろう。


「仕方ない、ちょっと体は張るが試してみるか……」

『クウ?(アカリ何かするの?)』

「ああ、まずは奴の化けの皮を剥ぐ。でないとこのままじゃ勝負にすらならないからな」


 敵の正体を探る為覚悟を決めた俺は岩の上から勢いよく飛び出し、最短距離で赤髪の男目掛け突撃する。


「正面からとは自殺志願か?」

「馬鹿言うな、お前の攻撃なんぞ、もう避けるまでもねーんだよ」

「なめやがって……なら、お望み通り蜂の巣にしてやるよ!」


 雨の如く降り注ぐ魔石を避けつつ走り続けるが、それでも数が多過ぎて全てを避けきることは出来ない。少しずつ体に傷が増えていき、気づけば全身擦り傷まみれとなっていた。

 だが、そうして身体を張ったお陰で、赤髪の男ももう俺の攻撃を避けられないという位置まで迫ることに成功する。


「ぐっ……こ、ここだ、照射!」


 ギリギリまで距離を縮めた俺は、トイブラスターに大量の魔力を注ぎ込み、渾身のビームを照射する。人に撃つのは躊躇われる程の高威力を誇るビーム攻撃が、回避不能の距離から赤髪の男に襲いかかった。


「こんなもの吹き飛ばして……なっ!つ、強い!」

「そんな石コロ程度で止められると思うなよ」


 俺のビームを相手に赤髪の男は魔石を連射だとすることで対抗してくるが、そんなものは全て粉砕して一直線に敵目掛け襲いかかる。

 何も出来ないのならこのまま俺の勝ちだ。


 ガキイィィィィイン!


 しかし残念ながら、俺のビームは突如赤髪の男の前に出現した魔石の壁によって阻まれ、仕留めることは叶わなかった。

 だが、これこそが俺の狙いだ。元々この攻撃で勝てるなんて露ほども思ってはいない。俺の真の狙いは、奴の正体を探ることだったのだから。


「くそが、まさかこんな所で素性を晒す羽目になるとはな……」


 俺のビームを防いだ魔石の壁がボロボロと崩れていくのと同時に、赤髪の男の悔しがる様な声が響いてくる。

 そして奴の姿が見えた瞬間確信した。俺の予想は間違っていなかったと。


「やっぱり、お前ら人型の魔物だったってことか……!」


 崩れた魔石の壁から姿を現した赤髪の男は、先程までと全く別の姿をしていた。左腕は鋭く尖った赤い魔石に覆われ、両眼はルビーの様に輝く赤い瞳へと変貌している。

 そしてあの魔石の壁が出現する直前、奴は強く地面を踏みつけていた。そう、あの闘技場に現れたシカが地面に角を突き刺して攻撃してきていた様に。


 すなわち、奴らの正体は人型の魔物だったということだ。


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