三章 13.馬車馬の如く身を粉にして
敵五人に囲まれ投擲武器が放られるが、高速で射出される魔弾との戦闘を繰り返している俺から見れば、人の手から放たれる武器など止まって見える。
俺は全ての投擲武器を紙一重で回避し、それと同時に反撃の魔弾をお見舞した。
「がはっ」
「ぐおぉ……!」
「あ、あれを避けるのか……」
「ばけもの、め!」
俺の魔弾を受けた敵は、一言ずつ吐きながらバタバタと倒れていく。
あれ?言葉が一つ足りない気がすな。
「よくも同士を!仇は俺が――」
「……隙あり」
フォォォォォン!
どうやら一人だけ魔弾を外してしまっていたらしく、背後から剣を持って斬りかかって来ていたが、そいつも更に後ろからの攻撃を受けて呆気なく倒れた。
あの射撃音からして、リリフィナがやってくれた様だ。
「ありがとうリリフィナ、助かったぜ」
「……あれくらいは大したことない。一応これでも推薦組だから」
「そういやそうだったな」
「……リーシャン、推薦組のこと馬鹿にしてるでしょ?」
「い、いやいや!してないしてない!」
単に推薦組との関わりが少ないから忘れていただけなのに、変な誤解をされて睨まれてしまった。
まぁ確かにリリフィナとの関わりと言えば、禁止区域で助けたことか変な所で会うことが多いくらいな為、あまり強いイメージが無かったのも事実ではあるが。
「……はぁ。ほら、こっちはもう助け終わってるけど、これからどうするの?」
「おう、すぐ行くよ」
若干呆れ気味な態度で、リリフィナは荷車の方を指差す。周りからはもう敵の気配も感じられないし、後は中にいる区長を助け出せば任務は完了だ。
俺は急いで駆け寄って荷車の扉を開け中を覗く。するとそこには、茶髪を綺麗に切り揃えたハンサムな男性が、縄で全身を拘束され猿轡を嵌められて横たわっている。
俺と目があったハンサムは、目を見開いて何かを言おうともがいていた。
「あらら、これは酷いな……助けに来たからもう大丈夫ですよ」
酷い状態のハンサムに近づいた俺は、取り敢えず話したそうにしているので口元に巻かれている布を外してあげた。
「私の娘はどこだ!?」
「娘?いや、知らないですけど……」
するとその瞬間、ハンサムはかなり焦った様子で声を荒らげて叫びだす。
娘はどこだと言われてもの俺達だって今来たばかりなのだから知る訳が無い。ガンマからは区長と娘が攫われたと聞いていたが、一緒にこの荷車に乗せられているんじゃないのか?
「……私も知らない」
一応リリフィナなら何か知らないかと思い視線を向けるが、彼女も首を横に振る。やはり娘さんなど誰も見てはいなかった。
「助けに来たのは君達だけなのか!?」
「はい、ご存知の通り今街は大混乱ですから、僕らしか助けには来てないです」
「そうか……」
「ちなみにあなたが区長で間違いないですよね?」
「ああ、私がボウルサム区区長のプラチウム・シュナーベルだ」
プラチウム・シュナーベルと名乗るハンサムは、助けが俺達だけだったことに落胆している。
先程の娘さんを心配している発言などから推察するに、どうやらまだこの件は全て解決した訳じゃないようだ。
「ともかく今はシュナーベル区長の安全が最優先です。護衛するんで一緒に街に戻りましょう」
娘さんの安否は気掛かりだが、今は目の前にいる人物を助けるのを優先すべき時だ。街が安全とは言いきれないが、それでもここよりはマシであることに変わりはない。
「いや、私のことは気にしなくていい。それよりも、君達でどうか娘を探し助け出してくれ」
「えぇ!?いやいや、あなたを放置なんて出来るわけないですよ!」
「ならば、私も一緒に連れて行ってほしい。放置するでも連れて行くでも、私は娘の無事を確認するまで街へ帰るつもりは無い!」
「うわぁ、見かけによらず頑固だな……」
区長を連れて一旦帰ろうと提案したのだが、それは本人によって却下されてしまった。見かけはハンサムなのに中身は完全に頑固オヤジだ。
ただ実の娘が心配だという気持ちも分からなくはない為、判断に迷う。ここはどう手を打つのが最前なのか分からない。
「しかし、連れてくにしても移動手段がな。俺は走りだしリリフィナのマジカロイドは一人乗りだし……」
「……移動ならこれがある」
区長を連れて行く方法を考えるも乗り物が無いと悩んでいると、リリフィナがそう発言しながら足元を指差した。
これとはまさか、この荷車のことを言ってるつもりだろうか。
「いや、確かに荷車なら区長を運んで行けるだろうけど、そもそも動力源が無いじゃないか。どうやってこいつを動かすんだよ」
この荷車はマジカロイドという訳ではなく、本当にただの荷車である為それを引く馬や牛なんかが必要だ。
そういう動物やマジカロイドが居ない現状で、どうやって動かせというのだろうか。
「……動力源ならある」
「どこにあるんだよ」
「……そこ」
だが、そんな中でリリフィナは動力源ならあると断言し、こちらを指差してくる。
一体どういうことなんだろうか。俺の近くにそんな便利なものあったか?
「えぇー、どれのこと言ってんだよ?」
「……リーシャンのこと」
「……は?」
「……リーシャンが引けばいい」
「おいこら、俺は馬車馬じゃねぇよ!」
何のことを言っているのかと思えば、まさかの俺が動力源だった。いや、確かにここに来るまでリリフィナのマジカロイドと同じ速度で走ってはいたが、この馬鹿俺を何だと思ってんだ。
「……大丈夫、リーシャンなら余裕でしょ」
「そういう問題じゃねーって!」
「……何?出来ないの?」
「おいおいそれは挑発か?出来るか出来ないかなら、出来るに決まってんだろうが!」
「……さすがリーシャン力持ち。頑張ってね」
「やるとは言ってねぇよ!」
リリフィナのうざい煽りに見事に乗せられてしまい、俺は口調が荒くなっていく。間には区長がいるというのに、そんなことお構い無しで俺達は馬鹿みたいな言い争いを繰り広げていた。
「ふはは、君達はなかなか面白いな。さて、君はリーシャン君と言ったかな、確かに格好が付かないのは私も重々承知している。だが、今は君しか頼れる人は居ないんだ。どうか頼む、この通りだ」
「ちょ、区長までそんなあたま下げないで下さいよ!はぁ、分かりました。荷車は俺が引きますから……」
「ありがとう。この恩は必ず返すと誓おう」
結局最後には区長にまで頭を下げられてしまい、断る訳にはいかなくなった。仕方ない、こうなったら泥水も啜るくらいの覚悟で、馬車馬の如くこき使われてやろうではないか。
あとリリフィナに関しては、この仕返しは後日きっちりさせてもらう。
「それで娘さんがどこに行ったかは分かりますか?」
「すまない、一瞬の隙をついて護衛の者と逃がした為、どこへ行ったかまでは分からない……」
どうやら随分とギリギリの状況だったらしく、逃げた先までは区長も知らないらしい。場所が分からないとなると、やることは一つだけだ。
「了解です。それじゃあ娘さんかその護衛の人の私物って今あります?」
「ん?あ、ああ、それなら逃げる時に脱げた娘の靴が片方あるが、何に使うつもりだ?」
「この靴の主の匂いを追うんですよ」
「なっ!じ、冗談だろう……?」
俺の発言が信じられないのか、区長は驚きのあまり目を見開いていた。まぁ確かに突然そんな犬みたいなことをすると言われたら困惑するのも無理はない。
だが、今はそれ以外に行方を探す術は無いのだから認めてもらわないと。
「……リーシャン、変態みたい」
「うるせぇな!別に変な意味はねぇよ!」
「し、仕方ない、父親としては色々と言いたいことはあるが、今は背に腹は変えられない状況だ。頼む……!」
「いや、区長もそんな苦渋の決断みたいな言い方しないで下さいよ!本当に娘さん達を探す以外の意味は無いですから!」
先程は区長のペンの匂いを追っているだけだったが、今回は靴でしかも女性ものだ。変な誤解が生まれるのも仕方ないのかもしれないが、今はそんな下らないことしてる場合じゃないだろうに。
「……そろそろ行こう変た、リーシャン」
「おいこら、お前完全に俺のこと変態だと思ってんだろ。あーもう!どうでもいいからとっとと行くぞ!」
こうして区長とリリフィナに妙な誤解を与えつつも、俺は荷車を引きながら更なる救出任務の為に激走するのだった。




