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一章 7.相棒との再会

 魔剣を起動し魔力の刀身を出現させたマリナは、鋭い眼光で俺を見据えてくる。

 死人が出るとまで言われては、全力で警戒するのも当然の反応だろう。字面だけを見るならばだがな。


「魔剣か、随分とスリムになったもんだな」


 俺の知っている魔剣は、幅広い刀身が特徴的であった。だが、それに比べるとマリナの持つ魔剣は細く鋭く、刺突武器に近くある。

 魔剣自体の輝きの色も違い、そこに時代の変化が感じられた。


「四百年も経てば進化もしますよ」

「四百っ……!ま、まぁそうじゃなきゃ困るわな……」


 時折放たれる四百年という単語が、俺の心を無遠慮に傷付けていく。

 マリナの狙いは、俺への精神攻撃なんじゃないかと疑ってしまう。いや、さすがにそこまでは考えてないだろうが。


「まぁそう気張るなよ。どっちが上かなんて分かりきってんだから」

「言ってくれますね。これでも私は一応勇者一族の末裔です、無様は晒せません!」


 俺の発言を挑発と受け取ったのか、それを合図にマリナは魔剣を上段に構えながら駆け込んで来た。

 武器を持っていない俺は拳を固く握り応戦するように構える。だが武術の心得など全く皆無の俺の構えは、見せかけだけの不格好なものであった。


「はあぁぁ!」

「ぐっ、速っ……!」


 マリナの斬り込みは速く鋭い。かろうじて戦闘経験のある俺はそれをどうにか目で追うことが出来たが、それでも体は上手く反応してくれなかった。

 後ろに転がるように倒れることで、魔剣を避けるので精一杯である。


「甘いわ!」

「くっ……」


 最初の一振はどうにか避けきれたが、更なる追撃には対応出来ず気づけば喉元に剣先が突き付けられていた。

 完膚なきまでに俺の敗北だ。


「お、おかしい、おかしいわ……」

「あ?何がだよ?」


 だが、俺に勝利したはずのマリナは、なぜか下を向いて震えていた。

 この結果に一体何が不満なのだろうか。望んだ通りの結果だろうに。


「だって、こんなの弱過ぎるでしょ!さっきの発言は何だったのよ!」

「はぁ?別に間違ってないだろ。戦ったら死人が出るぞって言っただろうが」


 俺はそう言いながら自分を指差す。

 そう、死人が出るとは俺自身のことを言っていたのだ。

 いくら魔王と呼ばれもてはやされていたとはいえ、ただの人間が剣を持った相手に勝てる道理などある訳がない。


「自分のこと言ってたわけ!?」

「当たり前だろうが。だから戦うのは止めとこうぜって言おうとしたのに、いきなり斬りかかって気やがって。お前俺を殺す気か」

「魔王が弱いなんて誰が想像するのよ!」


 マリナはさっきまでの敬語が嘘のように、荒い口調で捲し立ててくる。

 まさかこれが彼女の本性だとでも言うのだろうか。


「魔王だから強いってのはお前が勝手に思い込んでただけだろうが。俺の責任じゃねぇよ」

「はぁ……、確かにマリス様と渡り合ったと言われるくらいだから、物凄く化け物じみた強さを持ってるんだと勝手に想像してたけど、どうやら私の勘違いだったみたいね」


 マリナはようやく頭が冷えてきたのか、言葉も段々と穏やかになってきた。

 ただ、勝手に期待してやって来たクセに失望したりと、自分勝手な奴だ。その態度はちょっとムカつくな。

 まぁ封印を解いてくれたんだから、怒りが湧いてくるってわけでもないけど。でもさすがにこのまま舐められっぱなしってのは後味が悪い。


「分かった、そこまで言うなら俺にも考えがあるぞ」

「ん?考えって何――」

「クウゥゥゥゥゥウ!」


 マリナにあることを伝えようとしたが、それを遮るように突然甲高い獣の鳴き声が響いてきた。

 つい最近も聞いていた様な、はたまたどこか懐かしさを感じる様な、そんな安心感の溢れる泣き声だ。

 俺はその声の主を知っているからこそ、声が聞こえた方へ向けて叫ぶ。

 俺が初めて出会った、最も信頼する相棒の名を。


「クウ!」

「クアァー!(灯―!)」


 俺がそう呼び掛けると、どこから来たのか突然目の前に声の主は姿を現し、俺に抱きついてくる。

 真っ白な体毛に六枚の翼、そして赤い瞳が特徴的なウサギのような外見をした小竜。それがクウだ。

 装備している魔道具、モンスターピアスの影響でクウの言葉の意味も同時に脳内に響いてきて、嬉しそうに俺の名前を呼んでくる。


「よぉクウ、元気にしてたかー?」

「クウ!(クウは元気だよ!灯やっと変な所から出てこれたんだね!)」

「変な所って、まぁ四百年経ってるらしいから久しぶりの再会になるのかな」

「クウッ!(うん!やっと灯にぎゅっと出来る〜!)」


 俺からすればちょっと寝てたくらいの感覚なのだが、

 クウにとっては俺と会話するのは四百年振りのことになる。

 だからここまで過剰に甘えてくるのも納得というわけだ。


「あのー、そろそろいいかな?さっきから何ブツブツと独り言言ってるの?」

「え?ああ、いや別に独り言じゃねーよ。俺は魔道具のお陰で魔獣の言葉の意味が分かるんだ」


 気がつくとマリナに怪しい奴を見るような目で見られていた為、おれは咄嗟に弁解する。

 独り言が癖のヤバい奴とは思われたくないからな。


「そうなんだ。まぁそれはいいとして、その生き物なんなのよ?」

「こいつはクウって言うんだ。伝説の竜とか呼ばれてて、ちょっと凄い奴なんだぜ」


 マリナにクウのことを尋ねられたので、自慢げに俺はそう答えた。


「えっ?それってつまり四百年間生きてたってこと!?」

「そういや、そうなるな。でもクウなら当たり前だろ?」

「いや、当たり前とか知らないけど……」


 伝説の竜と呼ばれるクウは寿命がとてつもなく長いので、たった四百年程度じゃ死ぬわけが無い。

 しかしこんなの常識だと思っていたが、マリナは知らなかったようだ。

 まぁ四百年も経てば、魔獣の知識も薄れるのかもしれない。


「クウ様、ここ数十年は姿が見られなかったのですが、魔王様が復活したと知り即座に駆けつけるとはさすがですね」

「クウッ!(当然だよ!)」


 感嘆するように述べるバレリアに、クウは胸を張って答える。その意味は伝わっていないだろうが、それでもクウの溢れんばかりの愛らしさに、バレリアの顔にも笑みが零れていた。


 と、そんなほのぼのとした光景を眺めていると、突如目の前に強風と共に何者かが姿を現す。


「殿ぉぉぉぉぉお!」

「今度は何!?」


 嵐のように吹き荒れるその人物は、俺の前で膝を付くと平伏するような体勢をとりそう叫んでくる。

 こいつも相変わらずの様だ。


「カイジン、お前も変わらねぇな」

「殿ぉ……!殿が、殿がようやくお目覚めになられたぜよ!」

「うるせえうるせえ、泣くんじゃねぇよ」


 カイジンは俺が昔付けた名前だ。この世界に五人存在する魔人の一人で、本当の名は空の魔人と呼ばれている。

 俺のことを殿と呼んだり、ぜよが口癖の変な奴だ(魔人は総じて変な奴しかいないが)。


「しかし、我々が知力を尽くしても解けなかった封印が、なぜこのタイミングで解けたんぜよか?」

「ははっ、お前ら魔人は知力って柄じゃないだろうが。まぁここにいるマリナが封印を解いてくれたんだよ」

「むっ、そうであったか。魔人を代表して礼を言う、かたじけないぜよ」

「あ、うん、どういたしまして……」


 俺が封印から解かれた経緯を説明すると、カイジンはマリナに向かって礼を言った。

 今は大丈夫そうだけど、彼女が勇者の子孫だと知れたら厄介なことになりそうだから、それは黙っておこう。

 マリナ自身はカイジンの登場に驚いているのか、若干言葉に詰まっていた。まぁいきなりこんな変人が目の前に現れたら困惑するのも無理はないわな。




「何なの、この人達……」


 弱いと感じた灯の下に次々と集まってくる異様な存在達。その姿にマリナはただただ圧倒されているのだった。


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