二章 32.宝が判明
闘技場から盛大な歓声が響き渡る中、セロルは未だに酒場のゴミ漁りをしていた。
「わぁー、闘技場の方は盛り上がってるな〜。イアムさん達の戦いに決着でも着いたのかな」
街中の酒場をあらかた漁り終わり、宝と思しきものをいくつか手にしながら、セロルは歓声の響いてくる闘技場に目をやる。
しかし残念ながら、セロルが手に入れた物は綺麗な貝殻、酒瓶、割れた食器の破片等々どう考えてもただのゴミであった。
これが宝探し合戦の宝という可能性はゼロである。
「うーん、やっぱりどれもしっくり来ない。あてが外れちゃったかな……」
セロル自身も、これらが正解から程遠い物であると薄々分かっていた為苦い表情になる。
未だに宝の詳細も制限時間も、一切の知らせがない。このままでは何も分からないまま、敗北するものが続出するかもしれないだろう。
「よし、一旦考え方を変えてみよう。これだけ探して宝が見つからなかった原因は大きく分けて二つある。まず一つ目は、そもそも的外れだったこと。それともう一つは、宝自体が隠されてない可能性だ」
このまま闇雲に探し回っても埒が明かないと判断したセロルは現状の分析をすることに決めた。
まずは己の状況を把握し、可能性を並べていく。
「そもそもこの予選における宝って何なんだろ。ただの宝石とかを隠す訳にもいかないだろうし、そうなると勇者だけに関係する宝とかになるのかな?」
状況の整理を終えたセロルは、続いて宝そのものについて考えだした。
単純に宝石の様な高価な物を隠していたら、一般人にも盗られる等して事故の原因にもなりうる。運営側もこんな大規模な祭りで、そういった事案は避けたいはずだ。
なら必然的に、宝は勇者一族だけが求める物に絞られる。
「勇者一族が、勇者が求めるものと言えば力、名声、地位とか……いや違う、そういうのは隠せるものでは無いし、宝探しとも意味合いが少し違う気がする。となると他には……形あるものというと、もしかして魔剣?」
思考を巡らせた末に、セロルはようやく一つの結論に至った。
形があり、勇者一族のみが必要とする剣舞会でも集めることが可能な物。この宝探し合戦の真の宝とは、魔剣ではないかと。
「魔剣が宝探しだとしたら、誰かと戦って勝つしか集められないよね。いや、待って……戦いなら予選の序盤に起きてたよ。イアムさんが戦ってたところなら、まだ勇者一族が気絶して倒れてるはずだ!そしてあそこには大量の魔剣が転がってる!」
魔剣が宝であると仮定し、その上で大量に手に入れる手段まで思いついたセロルは、嬉しさからか思わず声が大きくなっていく。
「よし、そうと決まれば急いで闘技場に戻るぞ!」
魔剣が宝であるとアタリをつけ、まっしぐらに闘技場へと駆け出して行く。
しかし残念ながらセロルはまだ気づいていない。自分がこれから死体漁りをしようとしていることに。
悲しいことに、そういうずる賢い考えまで師匠のアカリそっくりに育ってしまった。
――
闘技場に戻って来たセロルは、慎重に出入口付近を観察する。まだ戦闘が続いているなら、そこに迂闊に飛び込むのは危険だからだ。
しかし、出入口付近では争いの音は一切聞こえず、静けさだけが漂っていた。
「よしっ、イアムさん達の戦闘はもう終わってるみたいだね。今のうちに!」
安全を確認したセロルは素早く出入口内に侵入する。薄暗い通路を進んでいくと、何人かの勇者一族が気絶して倒れ込んでいる所を発見した。そして誰もいなくなったその傍には、目的の魔剣がいくつも転がっている。
「ごめんなさい皆さん、ちょっとの間だけ皆さんの魔剣お借りしますね……」
セロルは地面に倒れている勇者一族に何度も謝罪をしながら、宝ではないかと思しき魔剣を次々と集めていく。その本数は合計百本、実に剣舞会出場者の四分の一がこの場で脱落していたのだ。
魔剣の本数から、この場でどれ程激しい戦闘が行われていたのかが伺える。
全て集め終えた頃には、いつしか魔剣だらけの山が形成されていた。その異様な雰囲気にセロルは思わず息を飲む。
「おい何してんだあの出場者?」、「脱落者の魔剣を集めてやがる……」、「何考えてんだアイツ、倒れてる奴の物を漁りやがって……」
セロルの魔剣集めは観客からも見える場所で行われていた為、その謎の行動に訝しげな声がぽつぽつと上がる。何人かは不誠実だとセロルを責めるものまで出る始末だ。
「酷いブーイングだな……」
「セロルさん、一体どうしたんでしょうか?」
「多分あいつは魔剣が宝だとアタリをつけたんだろ。もし的中してたら面白いことになるぜ」
「なるほど、そういうことだったか」
アカリ達は観客のブーイングに眉をしかめつつ、セロルの行動を各々考察する。
そうして時は流れ、いよいよ宝探し合戦は次の段階へと移行する。
『おぉーっと!ここでようやく宝の正体と現在のランキングが届いて来たぞ!どれどれ……なっ、なんだって!?』
実況は己の席に届いてきた情報を前に、驚きを隠せずにいた。その反応を受け観客達もどんな内容なのかと、息を飲んで続きを待つ。
『失礼、つい取り乱してしまいました。改めて……どうやら宝の正体は、出場者全員が所持している魔剣だそうだ!』
「ははっ、まじかよ」
「セロルさん、見事的中ですね……」
「やるじゃないか。これはセロルだけ一人勝ちだな……」
実況席から響き渡る衝撃の事実に観客席中はどよめきが溢れる。そんな中で身内の勝利を確信した三人だけは、セロルの感の鋭さに苦笑いを浮かべていた。
『さぁそして、宝の正体が判明した所で現在のランキングは……おおっと、これまた意外な人物の登場だ!現状第一位はセロル・アインディアだ!先程まで闘技場の魔剣を黙々と集め大ブーイングを受けていたセロル選手が、まさかの大当たりでトップを独走中だー!』
「まじかよ、すげぇなあいつ」、「でも自分で倒した訳じゃ無いのにずるいな……」、「いや、その洞察力こそを考慮すべきだろ。こりゃ逸材が現れたかもしれねーぞ!」
まさかのセロルが現状第一位という結果に、観客席も手のひらを返すように評価を改め始める者が続出だ。
だが未だ全員が認めた訳では無いらしく、厳しい評価を下す者も多くいる。ここから挽回出来るかどうかは、セロルのこの後の行動に全てかかっていた。
「す、凄い、まさか予想がここまで見事に的中するなんて……」
セロル自身この評価が信じられないのか、未だに驚きを隠せずにいる。
万年予選落ちを繰り返してきたセロルにとって、この結果は一世一代のチャンスであった。
『その他のランキングはまとめて映像投影魔道具で発表だ!』
実況の声と同時に巨大なスクリーン型魔道具にでかでかと現状のランキングが表示される。
その中には何人か、セロルと同じ予想を立てて魔剣を集めていた者が上位にくい込んでいたが、それでもセロルほど大胆な行動に出たものはおらず、実質単独トップを独走状態であった。
『さぁまだまだ宝探し合戦はこれで終わりではない!宝が判明した今、上位から宝を奪おうと動く者、それを阻止し防衛する者、戦いの渦は更に激しさをましていく!正に、大合戦に突入だー!』
これから始まる展開を予期し、実況も興奮から声に熱が篭もる。
そして実況の予想通り、早速ランキング上位から得点を奪おうと行動するものが現れた。
「よぉ、セロル。雑魚のくせに何一番になってんだよ?お前にその席はふさわしくねぇから、とっとと俺に譲りな」
「ロ、ロット兄さん……」
「ほら、何してんだ?お前の集めた魔剣全部俺によこせや。でないとどうなるか……分からねぇ程お前も馬鹿じゃねぇよなぁ?」
「うぅ……」
セロルの前に現れたのは、実の兄でありアインディア家三男ロットであった。
昔から酷い虐めを受けていた因縁の相手と、セロルは遂に対面する。




