二章 1.魔道兵器鍛冶師ガントツ
次の剣舞会までにセロルを強くするという目標を立てた後、俺は現在魔道兵器のレンタル場へと来ていた。
その目的はもちろん、昨日ボロボロになるまで使い込んでしまった魔道兵器「セルフ」を返品する為である。
セロルの訓練も大切だが、まずはこの魔道兵器を壊したことに対するお詫びをしなければ。
「はぁ……これ絶対怒られるよな〜」
「クウー(頑張ってアカリ)」
「ありがとうクウ、頑張ってくるよ」
俺はクウに応援されながら、説教を受ける覚悟を決めていざ窓口へと向かう。
するとそこには、実技試験の時にも武器を貸してくれたあのおっさんの姿があった。
「ん?おお、誰かと思ったらセルフを貸した兄ちゃんじゃねぇか。久しぶりだな!」
「ど、どーもー……」
おっさんはどうやら俺のことを覚えていたらしくない、俺を見つけると気さくに挨拶してきてくれた。その優しさが逆に胸に刺さるが。
「聞いたぞ〜、兄ちゃんこの前の試験で歴代最高点を叩き出したんだってな!ったくやるじゃねぇか」
「はは、あの時おっさんが貸してくれたセルフのお陰だよ」
実際はあまり役に立った印象は無いが、今は少しでも期限を良くしておこうと思いおっさんを持ち上げる。
だがそういった建前みたいなことは普段しないので、明らかにぎこちなかったが。
「……何だ兄ちゃん、随分と元気ねぇな。何かあったのか?」
「い、いやー実は、昨日借りた武器を壊しちゃって……」
おっさんも俺のぎこちなさに気づいたのか、心配するような声を掛けてくれる。
こんな優しいおっさんにこれ以上不誠実な真似は出来ない。もう正直に全てを白状する為、俺は腰のホルスターから壊れたセルフを取り出し受付台に置く。
「……何したんだお前?」
「えーと、まぁ色々とありまして――」
セルフを受け取ったおっさんは急に真面目な表情になり、上や下やら様々方向から状態を確認しつつ、俺にその原因を問うてくる。
そんなおっさんに対し、俺は若干ビビりつつも事の経緯を全て語った。
「はー、なるほどねぇ……自分の魔力を使っていた結果魔道兵器の強度が耐えられなくなって、内側から破裂したって訳か」
「まぁ、そんな感じです。ごめんなさい」
おっさんは俺の説明を全て聞いた後、呆れたように額に手を当ててため息をついている。
本当に申し訳ない。
「まぁ、別にわざとやった訳じゃねぇんだろうし、それにこうしてちゃんと謝りにも来たんだから、今回のことは不問にしておいてやるよ」
「え、いいの……?」
「おう!だが次はねぇから、今後は大切に使えよ?」
「分かったよ、ありがとうなおっさん!」
おっさんは、しょうがないなといった感じで俺のことを許してくれた。
もっとこっぴどく怒られたり、最悪レンタル禁止まで覚悟していたので、おっさんの対応には感謝しかない。
今後はこれを機に魔道兵器は丁寧に扱うようにしよう。
「てかおっさんはやめろよ。俺はまだそんな歳じゃねぇよ」
「え?何歳なの?」
「今年で二五だ」
「はぁ!?う、嘘だろ……?」
「ほんとだよ!馬鹿にしてんのか!?」
おっさんは頭頂部には毛が一本も無く、その代わり口元に立派な髭がふさふさと生え揃っている、明らかに仙人みたいな見た目をしている。
その外見で二五歳はもはや詐欺だろ。
「はははっ!いやー、全然見え無さすぎてビビったわ」
「俺は兄ちゃんのその能天気そうな態度にビビってるけどな」
「いやいや、そんな大したことは無いよ。じゃあ今後は何て呼べばいいんだ?」
「別に褒めちゃいねぇがな。俺の名前はガントツ・トレーダーだ。適当にガントツとでも呼んでくれ」
どうやらおっさんの名前はガントツ・トレーダーというらしい。いかにもな感じの厳つい雰囲気が漂っているな。
にしても残念ながら、先ほどのは褒められていなかったらしい。
「これからもよろしくなガントツ」
「おうよ。で、今日の用事はこの壊れた魔道兵器だけなのか?」
「あーまぁメインはそれだけど、あと昨日の警備の報酬で特注の魔道兵器を造っていいって言われたんだが、それはここでもやってるのか?」
元々はセルフを壊してしまったことを謝罪に来ただけなのだが、ガントツは魔道兵器に詳しいだろうからここで特注品についても聞いておくことにした。
造ってくれる場所を聞ければ、今後の行動が楽になるだろうしな。
「何だ、特注品造れるまでいい成績残せたのか?やるじゃねぇか兄ちゃん」
「まぁその代償は大きかったけど……」
ガントツは俺の成績を素直に褒めてくれたが、その結果魔道兵器を使い物にならなくしてしまったのだから救えない。
「それだけ反省してるならもう簡単に壊すことはねぇだろうよ。よっし!なら兄ちゃんの魔道兵器はこの俺が造ってやる!」
「えっ、ガントツって魔道兵器造れるの?」
「ったりめーだ。てか、そっちが本職だよ」
「おぉ〜、確かにそっちの方がしっくりくる気がする」
魔道兵器を特注してくれる場所さえ知れればいいと思っていたが、まさかのガンテツが武器を造ってくれることになった。
てか専属の鍛冶師がいるとか、この学園どんだけ財力あるんだよ。
「で、どうすんだ?俺が兄ちゃんの武器造るか?」
「是非頼む!」
「分かった分かった、そう身を乗り出すな……」
ガントツの申し出に、俺は思わず身を乗り出して頼み込んでしまった。
これにはさすがのガントツも少し引いている。
「そんじゃ先に草案だけ聞いておくか、兄ちゃんはどんな武器にしたいんだ?」
「そうだな……まずは、俺の魔力を使っても壊れないくらい頑丈にして欲しい。それと俺は通常の弾は使わなくていいから、魔剣みたいに汎用性の高い機能があると便利だな」
「なるほど……確かに自身の魔力を使うんなら、魔剣を参考にするのも有りか」
俺の注文を手早くメモに残しながら、ガントツは早速どう制作するか思案している。
これは素晴らしい武器が出来そうな予感だ。
「ガントツは魔剣も造ったことあるのか?」
「魔剣は限られた人間しか制作方法を知らねぇし、その中でもごく一部の人間しか造れない武器だ」
「へぇー、結構秘匿された技術なんだ。なら参考にするのは難しいか……」
魔剣は勇者の家系の人間しか持つことを許されていない。だからその造り手も限られてしまうのだそうだ。
そんな代物を参考にするのは無理があるか。
「安心しろよ兄ちゃん、俺はその限られた人間の一人だ」
「……は?まじ?」
「当然だ。つっても俺が知ってるのは制作方法までだがな」
「造り方知ってるだけで十分だよ!めちゃくちゃ凄いじゃん!」
魔剣を参考にするのは無理だと諦めかけたが、まさかのガントツがその限られた人間の一人だった。
一番厄介な問題をすんなりクリアしてしまうとは。
「はっはっは!そこまで素直に賞賛されたのは久しぶりだな」
「ガントツってほんと何者なんだよ」
「ただのその辺に居る魔道兵器鍛冶師だ」
「魔剣の造り方を知ってる鍛冶師はその辺には居ねぇよ」
ガンテツは学園専属鍛冶師で、更には魔剣の制作方法も知っている。
これまで何気なく接せいていたけど、実はめちゃくちゃ凄い人なんじゃないだろうか。
「まぁ俺のことはもういいだろ。それより兄ちゃんの魔道兵器のことだが――」
「おじさーん!今日も工房貸してー!」
ガントツが魔道兵器の方に話を戻そうとしたその時、俺の後ろから突然女子生徒が飛び出してきた。
「騒がしいなテトラ!お前も一応女子なんだからもう少しそれらしく振舞えよ」
「えー、そんなの面倒臭いよ。それより魔道兵器を眺めたり使ったり〜、後は造ってる時の方が最高に楽しいじゃん!」
「はぁ……なぜこんな風に育っちまったのか」
突然現れた女子生徒は、何やらガントツに親しげに接している。
一体彼女は何者なのか。まさか……ガントツの隠し子か!?




