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八章 37.氷界のタイムリミット

 白銀の大地が広がる氷河の銀世界。この場所で戦闘を繰り広げるのは、氷の魔人と泥の魔人だ。

 普段なら粘着性のある泥で敵の弱体化を狙いつつ、強烈な一撃での必殺を狙うのが基本戦法であるドロシーは、その戦い方を封じられ苦しい状況に苛まれていた。


「私の泥が、全部凍ってる……!」

「当然です。この大地は全てが私に力を与えてくれるのですから、ただの泥如きが勝てると思わないで下さい」


 ドロシーは凍える寒さに震えつつも、泥弾を乱射して攻め込んでいたが、それらは全て途中で凍らされ落下し氷の魔人へは届かずにいた。

 対する氷の魔人は、ドロシーが寒さで体の動きが鈍くなり、そのまま凍死するのをただ待つだけでいい。非常に簡単で確実な戦術を展開しているのであった。


「ドロシー厳しそうですねどうにか援護に迎えればいいのですが」

「……それは無理、こっちも魔物の始末に手が足りない」

「数が多い上に、寒くて全く力が入らない。このままじゃ援護に向かうどころか私達が先に凍死しますよ……」

「あーもう!何でここにガンマ様は居ないのよ!」


 この場所に飛ばされたアカリの仲間達も、それぞれこの戦場に対する愚痴を零していた。

 どうにかドロシーの援護に迎えないか模索するネネティアとそれに不可能だと告げるリリフィナ。兎人族のバレリアは寒さから感電してるかの様に小刻みに身体を震わせ、その妹のトリーリアはこの場に溶岩の魔人たるガンマが居ないことを嘆いている。

 四人もそれぞれ、この環境のせいで本来の力を発揮出来ず苦戦を強いられているのであった。


「最初はいい感じで攻めれてたのですけどね。魔物の邪魔さえ入らなければ……!」

「それもありますが、そもそもこの場所で戦い続けること自体が愚策なんですよ。私達ただの人間と獣人には過酷過ぎます」

「……でも脱出しようにも、どこに行けばいいのかなんて分からない」

「そもそもこの鬱陶しい魔物が囲ってるせいで、逃げることすら厳しいしね!」


 彼女達の戦闘も、序の序盤こそは順調であった。速さと機動性を活かし氷の魔人を翻弄して、多方面からの攻撃によって優勢さを維持していたのだ。

 しかしその戦法は、氷の魔人が呼び出した無数の魔物のせいですぐに瓦解してしまった。敵の数が多いせいで自由に動くことが出来なくなり、そこへ魔人が絶対零度の息吹を送り込むことで更に動きは鈍くなる。

 正に必勝の戦法であり、ドロシー達にとってはこの上ない最悪の負の連鎖であった。


「……仕方ない、これガゼルの真似みたいで好きじゃなかったんだけど、もうなりふり構ってられないしやるしかないか」


 このままでは後数分もしないうちに一人ずつ凍死していく。そのことを悟ったリリフィナは、心の底から嫌そうな声を上げつつも、片手を空けると足元に向けて突き出すのだった。


「え?何かあるんですか?」

「……うん、皆これで暖まって」

「おおぉっ!炎!炎ですよ!」

「ああ〜、暖かい。恵の暖かさだわ〜」


 ボソボソと文句を言いながらもリリフィナは、片手から轟々と燃えたぎる炎を噴射したのであった。これは以前ガゼルが使っていたのと同じ魔力の属性変化で、魔法の一歩手前の技術である。

 アカリとの遭難時に魔力操作を覚えたリリフィナは、その後別行動をしている際先祖の墓の確認と並行して、こっそりと練習していたのだ。

 だが今まで散々小馬鹿にしてきたガゼルの技術を自分も真似する形になってしまったので、出来るだけ披露しない様ここまで隠して来たということである。


「リリフィナ、こんな便利な技持ってたならもっと早く使って下さいよ」

「……私の趣味じゃないから許せなかったの。この状況じゃやむを得ないから使っただけ」

「こんな時まで気持ちを優先させるのはあなたらしいですね……。でもお陰で助かりました、これでまだまだ戦えます!」


 炎を噴射出来るのならもっと早くして欲しかったとネネティアが愚痴を零すが、彼女もリリフィナの自己中な思考はよく理解していた為素直に感謝を告げる。

 噴射する炎を焚き火のように扱い暖まるという少々荒っぽい手法であるが、ともあれこれで四人は暖を取ることに成功した。ここから彼女達の反撃が始まるのだ。


「ずるい、私も暖まりたい」

「炎を使える人間がいましたか、聞いていた情報とは違いますね。でもまぁそれは些細な問題です。あの程度の炎なら、私の零度で一瞬にして凍りつかせてみせましょう」

「そんなことはさせない。あれは私も使うんだから」


 暖を取るリリフィナ達を見てドロシーは羨ましがり、そして氷の魔人はそんな情報は聞いていなかったと驚きを露わにしていた。まるで事前に情報を得ていたかの様な、そんな口ぶりである。

 だが、残念ながら食事以外のことにほとんど興味を示せないドロシーでは、その違和感に気づくことは出来なかった。


「リリフィナのお陰でどうにか体が動くようになってきました。このまま魔物を殲滅しますよ!」

「いや、それじゃ遅いです。炎で暖を取るのも気休め程度にしかならないですし、やはり早急に魔人を倒してこの氷河から脱出しないと」


 リリフィナの炎によって多少は自由を取り戻した四人だが、それでもこのまま戦い続けるのは良くないとネネティアが進言する。

 そして実際彼女の言う通り、僅かな暖かさを得てもそれは死ぬまでの時間が少し伸びただけで、必ず生き残れるという程のものでは無かった。生き残る為に何よりも大切なのは、如何に早く氷の魔人を討伐しこの場から脱出出来るかである。


「なら戦力を二手に分ければいいだけの話しよ。ドロシー様も暖は必要だと思うからリリフィナちゃんは向こうに行くとして、後はお姉ちゃんも行ってきて!」

「えっ、私が?」

「そう!こっちはネネティアちゃんと二人でどうにか食い止めておくから、その隙にあっちをさっさと終わらせて来てね」

「なるほど、そういうことですね。ならここは任せましたよネネティア、トリーリア!」


 意外なことに、普段は明るく陽気な性格をしていたトリーリアが、この場の指揮をしていたのだ。年長者であるバレリアではなく、その妹がである。

 性格とは裏腹に、戦闘においては優秀であったことが判明した瞬間だ。


「さてと、それじゃあ二人になっちゃったけど頑張ろうかネネティアちゃん!」

「はい、協力してここを抑えましょう!」


 魔物退治に残ったのは、遠距離射撃が武器のネネティアと近接攻撃が主体のトリーリアだ。二人の戦闘スタイルは予想外に相性が良かった。

 近づいてこようとする魔物は、トリーリアが兎人族らしく俊敏に動き接近を阻み、その間にネネティアの狙撃で一匹ずつ着実に倒すという、即興にしては中々優秀なチームワークを発揮している。


「どうにか対応出来るわ!このまま全部殲滅しちゃおうネネティアちゃん!」

「はい!どんどん撃ち抜きます!」


 魔物のヘイトを一身に背負うトリーリアは負担が相当大きかったが、それでも現状はまだ耐えられていた。この均衡が崩れるのは、寒さにより体が思うように動かなくなる時だろう。

 彼女達に戦い続けられる時間は余りない。どれだけ耐久出来るかは、全て氷の魔人との戦闘を続けているドロシーと、そこへ向かったリリフィナとバレリアに託されていた。


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