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八章 34.山脈の戦い

 溶岩燃えたぎる火山地帯から打って変わって、ここは天高くまでそびえ立つ世界最高峰の山々が連なる山脈地帯。

 そんな場所で戦いを繰り広げるのは、雷鳴轟く雷の魔人と、大海を統べる海の魔人である。

 両者の戦いもまた、地の利を経た者の一方的な展開となっていた。


「あひゃひゃひゃひゃっ!弱ェ、弱過ぎるぜこの魔人!」

「くっ、好き勝手言ってくれますわね……」


 雷の速さで攻撃と回避を両立する魔人に対し、シーラはその対処方法を見つけられず攻めあぐねていた。

 そんな中この山脈地帯に同時に飛ばされたガゼルとメルトは、どうにかシーラの援護に向かおうと動いているのだが、無数に押し寄せてくる魔物の対処に追われ中々助けに迎えずにいる。

 このまま戦い続ければ、ジリジリと追い詰められいずれ敗北するということを、三人は薄々感づいていた。


「本当に面倒ですわね。こんな海の無い場所で戦わないといけないだなんて……」

「あひゃひゃひゃひゃっ!恋しいのかァ海の魔人?何なら死体は海に流してやるよォ!」

「余計なお世話ですわ。あなたこそ殺したら海に捨てますから、覚悟しておいて下さいまし!」

「おうおう、やれるもんならやってみやがれェ!」

「ぐっ……!」


 魔人二人は互いに口で煽り合うが、それでも未だ優勢である雷の魔人の方が強気であった。雷の魔人は電光石火の一撃でシーラに着実にダメージを蓄積している。

 彼女も防御用に海水の盾を展開し致命傷は避けているのだが、それでもそこから電流を浴びせられ徐々に体の動きが鈍くなっていた。


「ふざけやがって、俺はこんな所で雑魚の相手をする為に、今日まで血の滲む特訓を積んできた訳では無い……!」

「むっ、おいどうしたんだメルト?」

「俺は、俺は魔人に復讐する為に今日まで牙を研いできたんだ!貴様らの相手なんざ、やってられるかー!」


 シーラが雷の魔人に苦戦している中、いつまでも魔物の相手を続けていたメルトは、とうとう我慢の限界が訪れ暴れ始めてしまった。

 メルトはこの世界に来てから、アカリの紹介でガンマと共に対魔人戦の特訓を重ねてきていたのだ。だと言うのに現状は魔人と戦うことすら許されず、迫り来る無数の魔物を屠る作業状態となってしまっている。

 そんな状態が憎くて許せず、その結果残りの体力も考えない無謀な攻めに転じたのだ。


「なっ、おい馬鹿、ヤケになって突っ込むな!」

「うるさい!俺は魔人と戦う為にここへ来たんだ!それを邪魔する奴は全て排除してやるから、お前も力を貸せ!」

「この、なんて自分勝手な奴なんだ……。こんな高山で激しい動きをして、後でどうなっても知らないからな!」


 今はまだ大きく動くべきではないとガゼルが止めに入ろうとするも、メルトは一向に止まる気配を見せずむしろ道連れにしようとしてきた。

 その言動にガゼルはこの上ない怒りを覚えたが、ここで分裂して行動するのはもっと愚策であることを理解していた為、従わざるを得ない。故に彼は強制的に、全力の戦闘を強いられることとなったのだ。


「ピイィィィ!」

「うるせぇこの鳥が!」

「ブオオォッ!」

「ああくそっ、もうやるしかない!」


 山脈地帯に相応しい鳥型とヤギ型の魔物が襲い掛かってくるが、メルトとガゼルはそれらを力技で次々と屠っていく。

 メルトは左腕の緋色に輝く魔石を鋭い刃物に変化させ斬り捌き、ガゼルは魔道兵器で紅の弾丸を叩き込む。二人の荒々しい戦い方は、正に戦場に駆り出された若き戦士を象徴していた。


「はぁ、はぁ……、ようやく片付いた……」

「やはり、高所では体力の消耗が激しい……」


 後先考えない全力の攻勢に出たお陰で、やがて魔物を全て仕留め終え彼らの魔物討伐は無事に完了した。しかしそれと引き換えにして、彼らは多大な体力を消耗してしまっている。

 高山という特殊な環境であれだけ無茶な戦い方をしてしまっては、すぐに体力を枯渇させてしまうのは当然であった。それを理解していたからこそ、ガゼルはこの戦い方に乗り気ではなかったのだ。


「だから、言っただろうが。無茶な戦い方はするなと……」

「そんなことは言われなくても分かってる。これでようやく魔人と戦えるんだから安いものだろうが」

「脳筋め、やはりこいつとの共闘は面倒でしかない……」


 ガゼルは疲労困憊といった様子で文句をぶつけるが、メルトの頭の固い考えには全く効いていない様子だ。

 だがそれでも、無茶な動きをすれば魔物を殲滅しきることが容易であることを証明している為、無茶をするに値する力を持っていることは認めなくてはならないとも思っていた。

 メルトはガンマとの特訓により、それだけの強さを手に入れたということである。


「行くぞガゼル、休んでる暇は無い。次は魔人との戦いだ!」

「言われずとも分かっている!不快だから偉そうにするな!」


 まだまだ疲労の色は濃いというのに、すぐさま雷の魔人との戦闘に向かおうとするメルトに、ガゼルは苛立ちをぶつけつつも従うのであった。

 そうして力ずくで魔物を殲滅した二人は、シーラの元へと向かうのである。


「ふぅ、まだ来ないですか。やはり時間が掛かりますわね」

「あァ?あの人間二人なら今こっちへ向かって来てんぞ?よかったなァ、助っ人が来てくれてよ。俺もお前一人じゃ退屈してたところだから丁度いいぜェ!」

「そのことではないのですけれど、まぁどうでもいいことですわね」

「けっ、負けてるってのにムカつく魔人だぜ。いつまでその減らず口が続くか見ものだなァ!」


 何かが来るのを待っている様子のシーラに対し、もうすぐガゼル達が駆けつけることを雷の魔人は教えてあげた。シーラとの戦闘に余裕のある彼は、敵の増援は臨むところであったのだ。

 だがシーラが待っているのは、その二人ではない様子である。何を待って戦っているのか、それは不鮮明なまままま戦いは続く。


「天に近いこの場所じゃ、雷もより強力になるんだぜ。食らいやがれ、この俺様の落雷をなァ!」

「させるかっ!」


 雷雲が轟き、眩い光を帯びた雲から一筋の雷がシーラ目掛け落下する。

 だがそれがシーラに直撃することは無かった。彼女の目の前には赤く輝く魔石の壁が出現しており、それが落雷を防いだのである。


「あらあら、守って下さるのですか?」

「お前は重要な戦力だからな。ここで落とされるのは困るだけだ」

「ふふっ、やんちゃな態度とは裏腹に意外と冷静なのですわね」

「うるさいな、黙って素直に感謝しとけ!」


 落雷からシーラを守ったのはメルトであった。魔人との戦闘を望む彼は、見方の魔人を失うのが痛手であることは十分理解していた為、まずは防御に専念したということである。

 自分の世界では一軍の指揮を任せれているだけはあり、考え方は単調であっても戦況をよく見極めていた。


「ちなみにそちらは何か勝算がありまして?」

「当然だ。勝てないならとっくに逃げ出している」

「それは頼もしいですわね。ではまずはあなたの考えに従うとしましょう。指示を下さいな」

「任せておけ。こんな魔人とっとと倒して、他の魔人も全て殲滅するぞ!」


 シーラの問に対しメルトはそう力強く意気込む。この中で唯一魔人との戦闘を経験しているメルトには、何か勝算があるといった様子である。

 以前自身の世界でアカリと共闘した際は、雷の魔人に手も足も出なかった。だから彼にとってこの戦いは、その時の仮を返すリベンジマッチということである。


「あひゃひゃひゃひゃっ!何やら企んでるみてェだが、全て無駄だ。お前の努力は何もかもが無駄なんだって、その身に刻み込んでやるぜェ!」

「言ってろ。いつまでも人間を見下す貴様ら魔人に、敗北と死を味あわせてやるよ」

「面白ェ、やってみろやァ!」


 メルトの余裕な態度が気に入らなかったのか、先に動いたのは雷の魔人の方であった。

 雷鳴を轟かせ電光石火の速さで突撃を敢行する魔人を前にして、こうして三人の共闘が始まるのである。


「ダメだ、動きが速すぎるせいで魔弾が当たらない……!」


 メルトが集中的に狙われているこの状況でなら攻められると踏んだガゼルは魔道兵器を乱射するが、その弾丸は易々と魔人に避けられてしまう。

 彼の持つ魔道兵器は確かに高火力で連射性能にも優れているが、しかし肝心のガゼル自身に弾丸を当てる技術が不足していた。

 昔から魔法の練習に多くの時間を費やしてきた彼には、雷の速度で動き回る魔人を捉える腕はなかったのだ。


「ん、何だァ?前戦ったのと同じ弾丸を飛ばすやつか?だが下手くそだな。前戦ってた女の方が、当てるのは上手かったぜェ!」

「リリフィナのことか。確かに俺はあいつに比べれば魔道兵器の扱いはかなり劣る。だが、これでもそれを補うだけの経験はいくつも積んできたつもりだ。今更姉弟の格差で心折られたりなどするものか!」


 ガーデニア学園においてリリフィナは推薦組に席を置いているが、ガゼルは最底辺の五組であった。そのことからも分かるように、両者の才能には大きな溝が存在している。


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