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八章 31.意外といいコンビ

 マリスが単身で魔物の軍勢を押し退ける中、シンリーと炎の魔人の戦いは未だに続いている。両者共に一切引くことも無く攻防を繰り広げており、勝負の決めてが足りていないという状況であった。


「ようやく力が溜まった。手数で一気に押し切ってやるわ!」

「むっ、やけに防戦一方じゃと思っていたら、力を蓄えておったのか」


 火山地帯では普段の様に自由に植物を生やすことは出来ない。だからシンリーは、最大の一撃を与える為にここまで最低限の防御で耐え凌ぎ、残りの力を溜め続けていたのだ。

 そして彼女はその溜めていた力を一気に解放し、炎の魔人の周辺に無数の竹を生み出すと、生き埋めにするかの如くそれらを全てなだれ倒していく。


「数で攻めるとは悪くないのぅ。じゃが、こんな竹林程度でわしを止められると思うてか!」


 次々と迫り来る竹の群生を前にして、炎の魔人はその数には関心を示すも、何の脅威も感じないといった様子で、両手から炎を噴射し対抗する。

 それがシンリーの仕込んでいた罠とも知らずに。


「あっはっはっはっは!全て燃やし尽くして……ん?何じゃ?何やら様子が、どわあぁっ!」


 大量に炎を浴びせられた竹の群れは内部の空気が膨張し、炎の魔人に迫った辺りで一斉に爆発し始めたのだ。

 爆竹の原理を知らなかった炎の魔人は、壮大な破裂音と共にその身に爆発の衝撃を受けることとなる。

 これこそがシンリーの狙っていた、炎に対する対抗策だ。


「あははははっ!馬鹿ねあんた、何でもかんでも燃やせられるとは思わないことね。この世には燃やすと危険な物も無数に存在するのよ」

「ぐ、ぐぬぬ、下らぬ小細工を……」

「恨むなら己の無知を恨みなさい?そして後悔したまま死んじゃえばいいのよ!」

「ほざきおって、たった一度反撃に成功したくらいで図に乗るでない!」


 爆竹によって少なくない被害を受けた炎の魔人は、先程までの優勢さは消え失せ、代わりに怒りの感情を膨れ上がらせている。本来ならば圧勝出来る属性相性で、自分が反撃を受けたことが何よりも屈辱であったのだ。

 そんな炎の魔人の様子を前にして、シンリーはご満悦に高笑いしていた。


「さてさて、お次はこれをくらうがいいわ!」


 余裕の表情が消え失せた炎の魔人に対し、シンリーは畳み掛けるように更なる攻撃を敢行する。今度は大地から青々とした無数のツルを出現させると、敵の動きを封じる為に一斉に襲いかかって行く。


「ふん、この程度の草でわしを縛れると思うなよ。全て燃やし尽くしてやろう!」


 ツルはあっという間に炎の魔人の体に巻きついて、体の自由を奪っていく。そんな煩わしくまとわりつくツルを炎の魔人は焼却しようと、全身から灼熱の炎を噴出した。

 ただのツルなら、この炎を受ければ途端に炭と化しその力を失うところであろう。しかし残念ながら、シンリーの特殊なツルは炎に晒されても焼け落ちることなく、がっちりと炎の魔人の体を締め続けていたのである。


「なっ、何じゃ?何故この草は焼け落ちぬのじゃ……!?」

「それも簡単な原理なんだけど、それをわざわざあんたに教える義理はないわね。さて、もう近くまで来てるんでしょ?隙は作っておいたからとっととやっちゃいなさい」


 敵にわざわざ手の内を明かす必要は無いとシンリーは肩を竦め、そして動きを封じた炎の魔人を相手に接近していた味方に攻撃の機会を譲ったのであった。

 戦闘の最中でもマリナが向かって来ていたことを把握していた彼女は、不本意ながらも嫌いな勇者一族と共闘する道を選択したのである。


「ありがとう、任せてシンリー!」


 この言葉を受けて、マリナはシンリーから初めて認められたのだと直感した。具体的に何を認められたのかは分からないが、そんな言葉に出来ない絆の様なものが生まれたのだと受け取ったのだ。

 だから感謝の言葉と共に、彼女は勢い良く己の愛剣を振り抜く。


「こいつ、いつの間に――ぐああぁっ!」


 シンリーからの見事なアシストを受けたマリナは、そのチャンスを無駄にすることなく、自分の持つ最高の技で炎の魔人を斬り伏せる。

 魔人はマリナの接近に気づくのが遅れてしまい、無防備な状態で振るわれる鮮やかな剣技を避けることも出来ず、まともに受けて悲痛な断末魔を上げるのであった。

 そして中で縛られている者だけを綺麗に斬る器用で鮮やかな剣技によって、攻撃を受けても尚ツルは健在し炎の魔人は縛られ続けている。


「ふーん、私のツルは避けるなんて、随分と器用な斬り方ね」

「当然よ、勇者一族は長い年月をかけて剣術研ぎ澄ましてきたんだから。この程度出来て当たり前だわ」


 ツルごと切断されると思っていたシンリーは、マリナの予想外に正確な剣技に驚かされる。

 マリナは家を森にされ、シンリーは先祖に大切な人を封印され、お互い因縁のある両者であったが、この場においては非常に相性の良いコンビネーションであった。


「小娘共が、たった数撃入れられた程度でいい気になるでない!こうなったら、全力の炎で全て燃やし尽くしてくれるわ!」

「おっと、ようやく本気を出してきたわね」

「これはシンリーと出会った時と同じ、魔人化……!」


 たったの二回とはいえ、深刻なダメージを受けた炎の魔人は、有利な状況で自分が押されていることにこの上ない怒りを露にし、とうとうその本領を発揮してきた。

 魔人化という、全身を大きく膨れ上がらせ自身の力を何倍にも増大させる、魔人最大の奥義である。

 炎の魔人の魔人化は、人型の時の幼い少女の見た目からは遠くかけ離れ、赤く燃えたぎる炎の鎧を全身に纏った重戦士となった。両手には炎で錬成された灼熱の斧を二振り握っており、力押しのスタイルであることがよく伺える。


「シンリー、あんたは魔人化しないの?」

「する訳ないでしょ馬鹿、私が魔人化したら燃やされる面が増えるだけじゃない!」

「ああそっか、あんたは全身が大木になるだけだもんね」

「だけって何よだけって!」


 相手の魔人化を前にして、シンリーも対抗して魔人化しないのかとマリナは問い掛ける。だが、シンリーの魔人化した姿を以前目撃したことのある彼女は、そうなれば簡単に燃やされるだけだと納得した。

 そんなマリナの素っ気ない反応にシンリーは憤慨していたが、いつまでも雑談を続けられる程状況は優しくない。


「巨大化しようが小さいままだろうが関係無い!全て等しく燃やし尽くしてやるから安心するがいいさね!」

「熱っ!この、髪が焦げてダーリンに嫌われたらどう責任とるつもりなのよこいつ!」

「ふん、随分と余裕じゃな。まぁ良い、すぐにその減らず口も叩けなくしてやるわい!」

「くっ、本当に鬱陶しい炎ね。一旦引くわ!」


 魔人化した炎の魔人は、同時に拘束していたツルも引きちぎっており、そのまま両手に握る斧を振り回しシンリーを燃やし叩き斬ろうと攻め始める。

 その乱舞にシンリーは堪らず、一時戦線から撤退せざるを得なくなった。


「随分と暴れん坊な魔人ね。でもやっぱりこっちに助けに来て正解だったわ。この局面なら、私のテンスを存分に活かせる!」

「ん?人間如きが無謀にも単身で突っ込んで来おったか。馬鹿な奴じゃ、ならばその身をもって己の愚かさを悔いるがいい!」


 シンリーが引き、交代するように前線に躍り出るマリナに対し、炎の魔人は容赦ない一撃が振り下ろす。

 だが彼女はそれに対し避ける素振りなど一切見せず、左手を前に突き出して対抗しようと構えるのであった。


「そんな腕一本で止められると思うてか。笑わせるな小娘が!」

「さっきから小娘小娘って、人を見下しし過ぎよ。その身で味わうがいいわ、人類の意地を……、魔力解放発動!」


 小娘と馬鹿にする炎の魔人に、地味に怒りを募らせていたマリナは、振り下ろされる斧と手が触れるその瞬間魔力解放を発動させた。

 その瞬間マリナを叩き潰そうとしていた斧は一瞬にして消滅する。そしてそれを何事も無かったかのように意に返さず、彼女は敵の懐目掛け前進を続けたのだ。


「なっ、わしの斧はどこへ消えたのじゃ……!?」

「魔力を失って消えたのよ。私の手に触れる攻撃は、跡形もなく消滅するの。そしてあの斧こそが、あなた自身の未来の姿ってことよ!」


 斧が掻き消え心底驚きを隠せないといった様子の炎の魔人に対し、マリナは堂々とそう宣言した。己のテンスがその存在を消滅させたのだと。

 こうして炎の魔人との戦いは、マリナの参戦によってようやく均衡が崩れ始めたのである。


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