八章 30.騎士の意地
火山地帯にて、シンリーと炎の魔人との激闘は続いている。
シンリーは基本どんな環境下でも植物を生やすことが可能であるが、それでも溶岩の燃えたぎるこの場所では、万全とはいかなかった。彼女の生み出す数少ない植物は、出す度に炎の魔人に燃やし尽くされ、その結果防戦一方となってしまっている。
「さっきから本当に鬱陶しい炎ね。それにこの場所もムカつくわ……!」
「くははっ!いい気味じゃな森の魔人。そなたにこの火山地帯は厳しかろうし、潔く負けを認めたらどうじゃ?」
「ふん、冗談じゃないわ。苦手な相手だってそれに対応した戦い方があるんだから、勝負はまだまだこれからよ!」
「面白い、じゃったらその戦い方というのを見せてもらおうかの!」
幼い見た目の老婆と幼い見た目のツンデレ。両者の舌戦は決着すること無く、戦いの結末はやはり力のぶつけ合いに委ねられた。
両腕から轟々と燃えたぎる炎を噴射しながら距離を詰める炎の魔人に対し、シンリーは熱せられた大気によって額に汗をびっしょりと浮かべつつも、力強い眼で真っ直ぐに見据える。
劣勢に次ぐ劣勢の中でも、シンリーは未だ勝負を諦めてはいなかった。
「シンリーやっぱり辛そうね、加勢出来ればいいんだけど……!」
「それは難しいね。こっちも魔物の処理に手一杯だし、こいつらを討ち漏らせば余計に彼女の足を引っ張ることになる。今はこいつらを彼女の元へ向かわせないことが、僕達の出来る最大限の手助けだよ!」
「でも……!くっ、分かりました。魔物討伐に集中します」
苦しい展開を繰り広げるシンリーを前にして、同じくこの火山地帯へ飛ばされたマリナとマリスは、襲い掛かる魔物の処理におわれている。
いくらでも湧いてくる無数の魔物は、四方八方からシンリーを狙い襲っていた。彼らはそれらをシンリーに近づけない様に、たった二人で殲滅し続けているのである。
本来なら二人では到底捌ききれる数ではない魔物を相手にどうにか戦況を保てているのは、彼らが人類では最強の位に位置する勇者とその末裔であるからだ。
「でも、世界の命運を別世界の人達に任せるなんて、やっぱり納得出来ないわ……」
しかし人類最強の力を持ってしても、この戦いでは邪魔者の排除しかすることの無いこの状況に、マリナは歯痒さを感じていた。
「確かに世界の命運を人に任せるなんて、それは僕ももう二度とごめんだ。よし、ならどうにかしてシンリーさんに手を貸せるように、僕達も僕達で足掻いてみよう!」
「っ、はい!ありがとうございますマリス様!」
マリスは四百年前、世界を平和へと導く為にある男の策略に乗せられた。
友の過ちを正そうと奮闘していたというのに、それが偽りであると知った時、マリスは心の中で大切なものを一つ失ってしまったのである。それ以来もう二度と同じ過ちは繰り返さないと心に誓い、彼は最後までその命を燃やし続けた。
そうして現代に蘇った彼は、四百年前の時を超えてその失った大切なものを取り戻す為、この戦いに己の全てを賭して挑む覚悟を決めたのである。
「しかしそうは言っても、やはりこの魔物達を倒すことも重要な役目であることには変わりない。だからシンリーさんに力を貸せるのは、出来てもどちらか一人だけだろうね」
「一人だけですか……。でしたらシンリーへの助太刀には、私が行きます!」
魔人討伐をシンリーだけに任せる訳にはいかないと、勇者の二人はそう覚悟を決めた。だがそれでも、今戦っている魔物を放置することも出来ない。
だからシンリーへの助けにはどちらか一人しか迎えないとマリスが告げると、子孫であるマリナは一瞬の沈黙の後、力強く声を上げた。己がシンリーの元へ助けに向かうと。
「……へぇ、何か自信がありそうだね?」
「はい、私には魔力解放という強力なテンスがあります。この力ならあの強大な魔人にも対抗出来る。私も死力を尽くしてこの戦いに勝ちたいんです!だから私を向かわせて下さい!」
マリスの問に対し、マリナは真正面から己の強い気持ちをぶつけた。そこには彼女なりの勝算もあり、ただわがままで言っているだけでは無いことが伺える。
その魂の篭った瞳を前にして、マリスは言葉に出来ない安心感を覚えたのだった。自分の子孫が立派に己の想いを受け継ぎ、見事に成長を遂げていることに。
「よし分かった!ならマリナはシンリーさんの援護に向かうといいよ。魔物の方は僕が何とかするから心配しないで!」
「ありがとうございますマリス様。行ってきます!」
マリナの覚悟を受け取ったマリスは、満面の笑みで彼女を送り出した。襲い掛かる魔物の群れは、自分一人の力で何とかするとそう宣言をして。
「さてと、一人で何とかすると言ったんだから、その責任は取らないとだね。勇者の称号は飾りじゃないってところを見せてやろう!」
勢い良くマリナを送り出したマリスは、そんな彼女を見送る余裕もなく、己に課された責務に準ずる。
魔物の殲滅。それがマリスの成すべき役割であった。
しかし、魔物はあらゆる方角から中心にいるシンリーを狙って来ている。それをたった一人の力で全て止めるというのは、とても人間に出来る芸当では無い。
ただしそれは一般人が対抗するならの話である。マリスは今や勇者と称えられているが、その昔は騎士として国の治安を守る為に奮闘してきた。そんな彼であるならば、この難関を乗り切ることも不可能では無いのだ。
「中々の数だね。でも、僕にはかつての仲間達から譲り受けた武器があるんだ。皆の力を借りて、この難局を乗り切ってみせる!」
マリスは自分の墓場から大量に持ってきていた武器の束を背負っていた。
本気で戦う為にそれらを全て地面に下ろすと、一つの武器を手に取り魔力を込め構える。魔力を流された武器の柄先には、青く輝く鋭い刃が出現した。
長柄槍、それはマリスが騎士だった頃先輩のアマネが使用していた武器だ。
「まずはこれで、近づく敵を一気に薙ぎ払う!長柄槍起動!『伸槍鋭突』」
「グガァッ!」
「ゴギャッ!?」
「ブルウェェ……」
マリスがそう言葉を発した途端、槍から機械音の技名が鳴り、そして魔力の矛先が触手様なうねりと共にどこまでも長く伸びていく。そして伸びた矛先は、迫り来る魔物の軍勢を針と糸で縫うように仕留めていき、次々と倒していくのだった。
囲んでいた無数の魔物をたったの一撃で圧倒する。これが四百年前騎士が使用していた武器の必殺技の一つだ。
「まだまだ!次はこいつで行くよ!」
接近する魔物を槍の必殺技で撃退したマリスは、更に武器を変え大きく振りかぶりつつそう叫ぶ。
彼が次に握った武器は両手斧だ。これはかつて彼が騎士だった時代、所属していた隊の隊長が所持していた武器で、魔力を込めることで柄先に斧型の刃が出現する。
「これで一気に陣形を崩す!両手斧起動!『拡大兜割り』」
振りかぶった斧を勢い良く振り下ろしつつ、マリスは必殺技を起動させた。その瞬間魔力の刃は何十倍にも拡大し、巨大化した斧が密集している魔物群れへと振り下ろされる。
大地を震撼させる衝撃が轟き、斧の下敷きとなった魔物は群れは無惨にも全滅は間逃れなかった。
ひび割れた大地からは溶岩が漏れ出し、死体となった魔物をゆっくりと着実に飲み込んでいく。
「よし、この調子でいけばどうにか一人でも抗えそうだ。僕が全部相手になってやる、かかって来い魔物共!」
溶岩に沈む魔物を背に、マリスは次なる獲物へと照準を定め勇ましい咆哮を響かせる。
こうして彼は、たった一人で魔物の軍勢からシンリー達を守り抜く為に戦うのであった。




