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八章 28.策略渦巻く頂上決戦

 虚無の魔人との、互いの全てを賭けた戦いは続く。

 魔人の魔石が放ついくつもの輝きと、俺の多重融合による多彩な魔獣の特性が、何度も激しくぶつかり合う。既に荒れていたはずのこの地は、俺達の戦いの痕跡によって、より一層の荒々しさを増しているのだった。


「この羽ばたきには対抗出来るかな?」

「なめんな、空なら俺達の専売特許だ!」


 虚無の魔人は背中から赤く輝く魔石の翼を生やすと、天から煌びやかな羽根の雨を振らせてくる。

 それに対抗する為に、俺も背中からいくつもの魔獣の翼を生やすと空中に躍り出て、鳥獣の羽根を放ち奴の魔石羽根に対抗した。


「この手数の攻撃に抵抗するなんて本当に凄いねアカリ君!」

「そりゃこっちのセリフだよ。能力差で圧倒出来ない敵は初めてだ……!」


 羽根と羽根、魔石と獣の翼がぶつかり合い、周囲には力を失った魔石の欠片と羽毛がヒラヒラと宙を舞う。

 異様かつ幻想的に映る光景が目の前を埋め尽くすが、それに見とれている暇はない。何故ならば次の一手に駒を進めようとしている虚無の魔人に集中しなければならないのだから。


「じゃあ次はこれで行くよ。耐えられるかな?」


 羽根のラッシュが止んだかと思うと、今度は奴はアメジストの槌を手に取り、それを思い切り足元の地面へと叩きつけてきた。

 一瞬大地を揺るがす衝撃波で攻撃してくるのかに思えたが、それは違った。槌で下叩きつけた地面を中心にして、地中から何かが俺目掛け迫って来ていたのだ。


「ちっ、空中の次は足元からの攻撃か、忙しないな……!」


 空中での羽根吹雪の次は、地面からの強襲であった。槌から地中を通って突き出して来たのは、鈍色に輝く鋭い無数の刃である。

 地中という死角からの無数の攻撃は厄介であったが、それでも攻撃が来る瞬間には地面が盛り上がるので、それを見極めれば回避は可能だ。俺はその一瞬の変化を見逃すことなく、華麗に剣山の強襲を捌ききる。


「まだまだ行くよっ。お次はこれだー!」

「なっ、こいつ!今度はさっきの剣山を利用して、魔石の弾丸を乱反射してきやがった……!」


 剣山の猛追から逃げ延びたかと思うと、虚無の魔人は更に鋼鉄の弾丸を無数に射出し、剣山に反射させて縦横無尽で予測不能な攻撃を仕掛けてきた。

 ここまで数が馬鹿みたいに多いと、一つ一つを丁寧に回避するのは最早不可能に近いだろう。となれば俺の取れる手段は一つしかない。防御力を固めてひたすらに耐え凌ぐのみだ。


「耐え抜いてせるさ……!装甲!」


 俺は鎧の様な外皮を持つ複数の魔獣と多重融合し、全身を甲羅の様な装甲で覆うとそこに篭もり、鋼鉄の弾丸から身を守る姿勢をとった。

 剣山をランダムに反射する鋼鉄の弾丸は、あらゆる方向から俺の装甲に打ち付けてくるが、硬さはこちらの方が圧倒的に勝っている為、一切致命傷にはなり得ない。


「よし、この程度なら耐えれるな。だが……」


 ただ、それはこのままこの攻撃が続けばの話だ。恐らく虚無の魔人は俺がこの手に出ることを予測していて、敢えてここへ誘導してきたのだろう。

 ならば奴が次にとる行動は、この装甲を上回る程の高火力な一撃を与えてくることだ。しかし虚無の魔人がそう来るなら、俺は逆にそれを利用させてもらおう。


「よしよし狙い通りだね。これで詰みだよアカリ君!」


 弾丸から身を守るために硬い装甲内に篭っていると、外から虚無の魔人の楽しげな声が聞こえてきた。姿は見えないが声の位置から察するに、先程弾丸を射出ししてきた時よりもかなり接近してきている。

 やはり奴は、近接での高火力な一撃で仕留めるのが狙いだったということだ。


「その硬そうな殻を割って、中身のアカリ君毎粉々にしてあげる!」

「ぐっ、来たか……!」


 装甲の上から、先程までの鋼鉄の弾丸とは比べ物にならない程の強い衝撃を浴びせられた。この火力は恐らくあの紫の槌を思い切り振り下ろしたものだろう。

 虚無の魔人渾身の一撃は、たったの一瞬で俺の装甲に亀裂を与え、今にも砕けそうな程ボロボロになる。


「そーれもう一発!これでお終いだー!」


 耐久値が限界寸前である装甲目掛け、虚無の魔人はトドメとばかりに再び紫色の鉄槌を下す。

 砕けた装甲の隙間から、楽しそうに満面の笑みを浮かべながら槌を握り締める奴の顔が見えた。順当に俺を追い詰めて、これで勝てると確信している顔だ。


「ほんとに単調な作戦だ。これなら反撃も容易いな」


 虚無の魔人が振り下ろす紫の槌は、ボロボロになった俺の装甲を易々と砕き、そのまま俺本体へと攻撃の余波が浴びせられる。

 そんな状況の中であっても、予想通りの動きしかしてこない虚無の魔人に対し俺は薄く笑みを浮かべた。追い詰めたと思っている奴ほど、崩すのが簡単な敵はいないのだから。


「例えどれだけ強い力だろうと、それを全て受け流す軟体に対しては全くの無力だ。俺達の能力を甘く見たな魔人」


 俺は奴の攻撃が直撃する寸前で、全身をスライム状に変化させその力を全て受け流す。衝撃によりスライムの体は飛散するが、それでも俺にダメージは一切入らない。

 そして飛び散った俺の体は、更に奴に反撃を与える為の力となる。


「おぉー、アカリ君が見事にぺしゃんこにすり潰れた――って、あれ?ちょっと待って。これ、何かおかしい気が……」

「ようやく気づいたか馬鹿が」

「だが気づいたところでもう遅い」

「お前はもう、俺達の術中に既にハマってるんだよ」


 勝利を確信した虚無の魔人は、しかしそれが勘違いであることに即座に気づく。

 そんな奴に対し、俺は四方八方から言葉を返すのであった。俺は、いや俺達は、飛散した体の欠片を媒体として無数の分裂体を形成し、虚無の魔人を囲んでいるのである。


「えぇー、アカリ君が増えてる。これは一体どんな手品な訳……?」

「手品じゃねーよ。種も仕掛けもない正真正銘魔獣の能力だ。そしてここまで不用意に接近して来たお前には、もう逃げ場なんかない。このまま俺達の総攻撃でくたばりな」

「これは、ちょっと深追いし過ぎたかな。一旦逃げないと――」

「逃がすかよ!捕縛!」


 複数人の俺に囲まれた虚無の魔人は、自分が劣勢に立たされているとようやく感づき脱出を試みようとする。だがそんなことを易々と許すほど俺は甘くは無い。

 未だ紫の槌に潰され地面に倒れ込んでいる俺は、そこから魔獣達の糸を合成させた強力な捕縛糸で魔人の体をがんじ絡めにし、俺諸共その場に縫いつけにする。


「今だ俺達、やれ!」

「「「任せろ俺!竜爪!」」」


 身動きが取れなくなった虚無の魔人目掛け、分裂した残りの俺達が一斉に構え攻撃を仕掛ける。

 竜爪、それは竜系の魔獣全ての鋭い爪を掛け合わせた世界最硬の爪だ。全員が両腕にそんな最強の竜爪を融合させ、そのまま虚無の魔人を仕留める為に飛びかかっていく。


「おぉー、これは凄い反撃だ。でも残念だったねアカリ君、僕にはどんな状況でも脱出出来る最高の手段があるんだ。だからこんな攻撃意味無いよ」


 糸に絡み囚われ身動きが取れなくなった所を、竜爪で奇襲する。このカウンターには虚無の魔人も堪らず脱出を試みようとした。

 奴は銀粉を振り撒けば、どんな状況からでも一瞬で逃げ出すことが可能である。この力があるからこそ、ここまでの多少無茶をした攻撃も可能だったという訳だ。


「んなことは分かってんだよ。こちとらクウと長い間付き合ってたお陰で、空間魔法の扱いは熟知してんだ。そしてその弱点もな!リツ、止めろ!」

『任せて下さい』



 だが、そんな緊急脱出能力を知っていながら、俺が無策のまま反撃をするはずがないだろう。

 俺は奴が銀粉の効果を発動させるよりも早くそう叫ぶと同時に、頭部の左半分でリツと融合し、時間魔法を発動させる。


「あ、れ……?おかしい、な。体が動か、ない……」

「リツは時間を操る魔法を使える。それでお前の時を止めたんだよ。これで如何に強力な空間移動を使えようとも形無しだ。さぁ存分に味わいな、俺達の全力の連撃を!」

「じ、時間を、そんなの反則――ぐああぁっ!」


 銀粉による脱出を禁じられ、今まで崩すことの無かった余裕の表情が遂に崩壊した。

 虚無の魔人は初めて味わう窮地に困惑し文句を言いかけるも、それを言い切ることは無い。

 四方八方から襲いかかる俺達の竜爪を受け、悲痛な叫び声へと変わるのであった。


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