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八章 22.秘めた想い

 シンリーの魔人審判はまだまだ続く。カイジンとシーラの裁きは終わり、次の標的となるのはガンマとドロシーだ。狙われている二人はビクビクと体を小さく震わせ、今か今かと怯えながらその時を待っていた。


「で、次にダーリンと会ったのはどっち?」

「次に会ったのは俺だが、ドロシーも数日遅れで再会したらしいからほぼ同時だ」

「うん、この街で会った……」

「なるほど、二人はほぼ同じ時期に再会したのね」


 とうとう次の狙いに定められ、ガンマは意を決してそう口を開く。そしてそれに便乗する様にドロシーも言葉を重ねてきた。

 二人同時ならシンリーの恐怖も半減するとか、そういう考えなのだろう。それで対処出来るかは微妙なところなので、気休め程度でしかないと思うが。


「俺が大将と出会ったのは討伐ギルドでだ。向こうから会いに来てくれたんだが、俺はそれまで大将が復活してるってことは全く知らなかった」

「私は変なのと戦ってる時にご主人様が助けに来てくれた」

「二人はダーリンが会いに来るまで復活してたことを知らなかったと、そう言いたいわけ?」

「あ、ああ……」

「うん……」


 ガンマとドロシーの言い分に対し、シンリーは冷淡に受け答えをする。彼女の発する次の言葉に己の未来がかかってるとあって、二人は息を飲み緊張の面持ちで待ち構えていた。


「でも、ダーリンと再会してからは結構時間が経ってるんでしょ?その間に、私の所に報告に来るくらいの気概は見せれたんじゃないの?」

「い、いや、それはだな……、け、剣舞会騒動の後処理で忙しかったんだよ!俺もそれなりに立場のある存在だったから、仕方なかったんだ」

「わ、私も警護の仕事のせいで、自由はあんまり無かったから……」

「だから報告に来れなかったのは仕方が無いって、そういうこと?」


 シンリーの言葉はガンマとドロシーの行動を強く咎めるものであった。彼らがいくら言い訳の言葉を並べようとも、シンリーの返す言葉には到底及ばない。そのことを悟ったのか、ガンマもドロシーも絶望の色に顔を染めていた。


「例えどれだけ忙しかろうとも、事件から数ヶ月も経てば連絡を入れることくらいは誰でも出来るはずよ。そんな簡単なこともせずに私だけを放置していたあんた達二人は、罰決定ね」

「い、嫌だ……、やめろぉー!」

「うぅぅ、痛いのはやだよシンリー……」


 当然の様にシンリーの断罪が下り、ガンマとドロシーもシーラと同じくあざやかにツルで締め上げられた。ガンマの溶岩ならあんなツルなど簡単に焼き切れそうなものなのだが、それが出来ないということはツル自体に何か秘密でもあるのだろう。

 ともあれこうして、魔人は見事にシンリーによる裁きを受けたのであった。


「ってあれ!?な、何であしまで一緒に縛られてるぜよ……!?」

「あんたはダーリンと最初に再会するっていう一番美味しいところを持っていったから、その罰よ」

「なっ!そ、それはただの八つ当たりぜよ!」

「諦めなさいなカイジン、あなたもこちら側へ来るのですわよ……」

「り、理不尽過ぎるぜよ……」


 そして何故か、お咎め無しを貰っていたはずのカイジンまでシンリーのツルの餌食となっていた。彼を罰する理由は完全に自分勝手なシンリーのわがままであったが、それでもこの場の主導権を握っているのは彼女だ。だからどんなことをしようとも許される。


「ダーリンが封印されてから今日まで、私はあんた達にずっと夢を語ってきたわよね?私の夢、知ってるでしょ?なのによくもダーリンが復活してたことを知っていて、それを黙っていてくれたわね。その報い、存分に味わってもらうから覚悟しなさい!」

「ん?シンリーの夢……?」


 魔人全員を縛り上げたシンリーは、怒れるままに思いの丈をぶちまけ始めた。

 シンリーの夢、初めて聞く言葉だ。俺は彼女がどんなことを思い何を目指しているのか、そういう話を一切聞いたことは無い。だからこんな戦慄した場面を前にしても、その言葉だけが意識に引っ掛かり、脳内で反芻する。


「私の夢、それはダーリンと結婚して、末永く幸せに暮らしていくこと。そうずっと言い続けてきたのに、それなのによくも……、よくも黙っててくれたわねあんた達!」


 溜まりに溜まった怒りのゲージが遂に限界を突破し爆発した。そしてそれと同時にシンリーは、己の抱く夢を語ったのだ。

 そうか、シンリーは俺とそんな未来を思い描いていたのか。好かれているとは思っていたが、まさかそこまで先の未来を考えていただなんて思わなかった。

 俺は基本的にそういう先の話はあんまり考えない様に逃げる性格だけど、今回ばかりはちゃんと向き合うべきなのだろう。それ程に、シンリーは俺にとっても大切な存在なのだから。


「シ、シンリーが本気でキレてますわ。どうにかしなさいガンマ!」

「無茶言うな!止められる訳ないだろうが!」

「もうダメ、ここまで……」

「ひいいいぃ!あしは完全にとばっちりぜよ!」


 魔人全員が恐怖し身を震わせる中、シンリーの魔の手がじわじわと彼らに迫っていく。このまま放置していれば無事ではすまないだろうし、この酒場も半壊してしまうかもしれない。

 そろそろ俺が止めに入る頃合か。


「そこまでだシンリー」

「えっ?ダ、ダーリン!?何でここに居るの……!?」


 天井裏から颯爽と降りてきた俺を前にして、悪魔の様な笑みを浮かべていたシンリーも途端に驚きに顔を染上げる。


「貴方様!出てくるのが遅いですわよ!」

「悪い悪い、つい話に聞き入っててな」

「くそっ!やっぱり大将が何か企んでやがったのか!勘弁してくれよ!」

「シンリー怖い……」


 俺の登場にシーラとガンマは激怒してきた。やはり出てくるのがちょっと遅かったみたいで、大変ご立腹である。

 まぁシンリーに散々酷い目に合わされたからな。こんだけ苛立つのも無理はないだろう。


「……どういうことよダーリン。何のつもり?」

「何のつもりかって聞かれたら、まぁお前ら魔人同士の仲を深めようと思ってただけだよ」

「そう、よくもはめてくれたわね……」

「それは本当に悪かったと思ってる。ごめん」


 驚きからは落ち着きを取り戻したシンリーだが、その結果じわじわと怒りが蘇ってきた様子であった。だがそれもそうだろう。ずっと秘めていた想いを勝手に盗み聞きされたのだから、怒るなと言う方が無理な話だ。

 普段俺に対して暴力か愛しか振り撒いてこないシンリーも、この時は本気の怒りを漂わせていた。ここまで彼女に面と向かって苛立ちをぶつけられるのは、初めて出会った時以来な気がする。


「さっきのも全部、聞いてたんだ……」

「ああ、聞いてた」

「そう、ならもう隠してても意味無いわね」


 先程の結婚がどうのという話も含め、ここまでの話は一言一句逃さず全て聞かせてもらっていた。その事実を悟ったシンリーは、一瞬寂しげな表情を浮かべた後大きく息を吸い込む。


「あーもう!こうなったらやけくそよ、全部ぶちまけてやるわ!私はダーリンのことが大好きで、ずっとずっと愛してたの!それはこれからもそうだし、むしろこの愛はどんどん膨れ上がってる!私はいつか、ダーリンと結婚するのが夢だったのよー!」


 何かが吹っ切れたのか、吸い込んだ息を思い切り吐くのと同時に、シンリーは思いの丈を全力で叫び全てを吐き出してくる。彼女の秘めていた愛を全て受けて、俺は完全に動揺してしまい言葉が出なかった。

 普段逃げの思考ばかり働かせていた弊害か、いざ真正面から受けて立とうとすると、何をすればいいのか全く分からない。その結果俺は、すぐに言葉を紡ぐことが出来ないでいた。


 シーラ達のピンチに助太刀しようとしたはずなのに、何故か俺が今最大級の選択を迫られていのだ。


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