八章 21.憂鬱な飲み会
魔人五人による飲み会は続いている。今話題に上がっているのは、獣人族の俺に対する態度の差だ。
国に暮らす獣人族の大半は俺のことを崇め奉っている。しかし一部の獣人族には、俺の存在に疑問を呈する者も現れ始めている為、今後はそいつらをどう対処するのかということで盛り上がっていた。
そう言えば獣人族のお偉いさん方と話し合った時も、やたらと俺につっかかってくる老人がいたな。恐らくはあんな感じの奴が何人かいるから、シンリーはそのことに不満を持ってるのだろう。
「四百年間も封印されてた奴が、突然現れてでかい顔をされたら誰だって困るだろうし、俺は獣人族の反応の方が正しいと思うんだけどな」
俺個人としては獣人族が俺のことをどう思おうと好きにすればいいという考えだし、それにあの国はもう彼らのものなのだ。
今更俺が偉そうに玉座にふんぞり返るつもりなど毛頭ない。そのことはそのうち折を見て魔人達に言っておくべきだろう。
「目上の人間を敬う心は確かに大事だが、あいつらにもこれまで築き上げてきた生活があるんだ。無茶な政策は反感を生むだけじゃねぇのか?」
「馬鹿ねガンマ。それこそそんなことを考えてる奴がいたら、絶対に許すべきじゃないでしょ。そもそも獣人族には、ダーリンがその命をかけて暮らす世界を与えたんだから、その感謝を忘れたなんて言わせないわ」
「シンリーの言う通りですわ。貴方様から受けた恩を、獣人族はその生命の存在をかけて永遠に返していかなければならないのです。その使命を放棄するというのなら、国からも追放するべきですわね」
「うーむ、あしはずっと獣人族と共に居ったから、その意見には反対ぜよ。彼らは日々頑張って暮らしているし、殿への恩も全員きちんと理解はしている。ならば少しくらいの自由は目を瞑るべきぜよ」
獣人族に対する魔人達の意見は、見事に男性陣と女性陣で割れた。魔王崇拝を徹底させようとするシンリーとシーラに対し、自由を与えるべきだというガンマとカイジン。
まさかこんな形で意見が割れるとは、これはちょっと意外だったから面白いな。
「ドロシー、あんたの意見も聞かせなさいよ」
「私は別にちゃんと美味しいご飯を作ってくれればどうでもいい」
「お前はほんとそればっかだよな。少しは他のことにも興味持てよ?」
「うーん……、強いて言うなら、ご主人様に助けてもらったのには変わりないんだから、そのことに感謝するのは大事だと思う」
ドロシーだけは食事以外のことはどうでもいいといった様子だが、それでもどちらかと言えばシンリー達寄りの意見なのかな。
まぁでもあいつは例え獣人族が俺のことを崇拝しなくなったとしても、どうでもいいと思うんだろう。そういう奴だってのは知ってるし、俺もそれ以上のことを彼女には求めてないから問題ない。
その後も、彼らの獣人族に対する今後の話は盛り上がっていた。酒が入っていることもあってか、両者の意見は激しく火花を散らしてぶつかり合っている。まぁこんなところで議論しても何かが解決する訳では無いので、俺もこの辺は話半分に聞き流しておくことにした。
そもそも俺がこの席を用意したのは、もっと別の話を聞きたかったからだしな。
「まぁ獣人族の連中については、後日じっくり話し合うってことでいいわね?」
「そうだな、ここで語り合っても何も答えなんか出ねぇしよ」
獣人族のことについての議論はたっぷり二時間程度費やしていただろうか。互いに程よく酒が回り始め、通常の飲み会ならここらで終わればいい気持ちで帰れるだろうという、そんな雰囲気である。
そのタイミングでシンリーは話を無理やり終了に持っていき、ガンマもそれに同意した。もうこれでお開きかと、そんな気配が場を漂い始める。
「さてと、それじゃあそろそろ本題に入りましょうか」
「本題?何のことだ?」
「そんなの決まってるでしょ。ダーリンが復活した後、あんた達といつ会ったかについてよ」
「「「「っ!」」」」
だが残念ながら、この飲み会はただの一般人の集いでは無かった。ここに集まっているのは、異常人格の塊である魔人達だ。そんな彼らの飲み会が、一般人と同列に終わることなどある筈がない。
そしてシンリーがそう切り出した途端、他の魔人達は全員ついにこの時が始まったとばかりに、明らかに恐怖に怯える様な気配を発しだす。とうとうこの会の真の目的が始まろうとしているのだ。
「じゃあまずは、最初にダーリンの封印解除に気づいた奴は誰?」
「そ、それはあしぜよ。あしは殿が復活した際、真っ先に馳せ参じたぜよからな……」
「ふーん、カイジンか。まぁそれはそうよね、てかむしろ気づいてなかったらそっちの方が許されないし……」
どうやらシンリーは、俺の封印が解除されてから出会った順に話を聞いていくらしい。まず魔獣人国に唯一残っていたカイジンが話題に上がるのは当然だろう。彼は中々の速さで俺の元に現れたからな。
「あしも皆にすぐこのことを伝えたかったぜよが、あいにく任務があった故に……」
「そうね、あなたは国を守るっていう使命があったし、こっちまで情報を持って来れないのは当然のことだわ」
「うむ、その代わり他の四人はこちらに居るということはちゃんと伝えておいたぜよ!」
「なるほど、それだけでも言ってたなら文句は無いわね。良しとしましょう」
復活した俺との最初の再会を取られたということで、シンリーはほのかに苛立ちを匂わせだした。だがその危険な香りを感じ取ったカイジンは、即座に弁明の言葉を並べ奉る。
彼の言葉は全て筋が通っていた為、流石のシンリーもそのことには追求出来ず、その結果お咎め無しで話は終わった。テーブルの下で小さくガッツポーズをしたカイジンが印象深い。
「じゃあその次にダーリンと会ったのは誰?」
「つ、次は多分わたくしですわ……」
「シーラね、あなたはダーリンとはどこで会ったわけ?」
「わたくしはガーデニア学園で教師をしてましたの。そこに偶然貴方様が入学してきて気づいたのですわ」
次のターゲットはシーラだ。ここから先は全員同じ世界に居たので、シンリーからの厳しい尋問が幕を開ける。
「ふーん、学園でダーリンとねぇ……。なら、どうしてあなたはダーリンが復活したことをすぐに皆に知らせに来てくれなかったの?まずは皆で合流するのが大事なんじゃないの?」
「い、いえ!わたくしももちろんそうしたかったのは山々ですわ!ですが、貴方様はこの世界の魔物を倒すという使命を背負っておられて、ならばその手助けをするのが魔人としての本分だと考えたのですわよ」
「なるほど、ダーリンの手助けで忙しかったから、皆に復活のことを知らせる余裕は無かったと?」
「はい、そうですわ……」
シンリーの冷淡な追求に対して、シーラも一切引かず強気に攻める。引けば一気にシンリーにのまれ、そのまま悲惨な目に遭うことが分かりきっているからか、彼女もかなり必死であった。
実際彼女には学園では何度か助けられたこともあるので、間違ったことは言っていない。さて、これを受けてシンリーはどう対処するか。
「うんうん、シーラの言いたいことはよく分かったわ」
「で、ではわたくしも――」
「ただし!例えどんな理由があろうとも、ダーリンが復活したことを伝えに来なかったのが許し難い事実であることに変わりはない!シーラ、あなたは罰決定ね」
「そっ、そんな、うっ……!?」
言い分を聞いてうんうんと頷くシンリーに、一瞬自分も助かったのかと安心しかけるシーラだったが、実際それは違った。
たっぷりシーラの話を聞いた上で、結論はお咎め有りだったのだ。可哀想にシーラ、あっという間にシンリーのツルに絡め取られて身動きが取れなくなっている。完全に顔が絶望の色に染まりきってるよ。
「さーて、私だけ置いてけぼりにされたこの怒り、まだまだたっぷりと晴らさせてもらうわよ」
シーラの審判が終わり、悪魔の様な表情となるシンリーは次の標的へと目を向けた。
シンリーの地獄の尋問はまだまだ続く。




