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八章 19.誰が能力不明と戦うか

 ガンマ、シーラ、カイジンが戦う魔人は決まった。残りはドロシーとシンリーだ。そして相手の残っている魔人は、虚無と能力不明である。


「よしシンリー、お前は能力が不明な魔人に当たってくれ」

「ダーリンは虚無の魔人と戦うの?」

「俺は当然、親玉の虚無を狙う」

「じゃあ嫌!私はダーリンと一緒に戦うって決めてるの!」

「えぇー、ここでわがままを言わないでほしいんだが……」


 シンリーには能力が不明な魔人の相手を任せようとしたのだが、俺が虚無の魔人と戦うと聞くやいなやその指示に反対してきやがった。

 まさかこんなところでわがままを言われるとは思わなかったので、困惑しかない。


「アカリ、何故シンリーに能力不明の魔人を任せるんだ?」

「そりゃあ相手の能力が不明だからだな。シンリーは能力が多才で適応力があるから、どんな相手とでも対等以上に渡り合えると思ったんだよ」


 ガゼルがシンリーに任せた理由を聞いてきたが、それは彼女の力なら対処可能だと判断したからだ。それだけ俺は彼女のことを信頼しているからこそなのだが、残念ながらその気持ちは彼女には伝わっていないらしい。


「なるほど、確かにドロシーではそこまで気の利いた動きは出来ないですものね。その考えは一理ありますわ」

「ドロシーもハマれば強いんだけどな。極端に不利な相手と当たると不安が残るから、そんな賭けは出来ない」


 俺の考えにはシーラも賛成してくれた。実際シンリーの花の力なら、どんな相手でもそれなりの戦いを披露してくれるはずなので、正直彼女には能力不明の相手と戦って欲しい。

 しかしそれでも懸念材料は一つある。それはその魔人の能力が不明である理由が、戦った相手を皆殺しにして情報の伝達が出来なかったということだ。それはつまり、その魔人が圧倒的な力による破壊を繰り広げたという可能性が浮上する。

 もし相手がパワータイプであるならば、同じく力には自信のあるドロシーをぶつけるのも悪い手ではない。だからここはどちらを差し向けるかは、非常に悩ましいところである。


「そうだメルト、その能力不明の魔人と闘った痕跡は無かったのか?何か手掛かりのような物が落ちてたとか」

「そうだな……俺が覚えていることは、戦場となっていた辺り一帯が凄惨なまでに崩壊していたことだ」

「崩壊?」

「ああ、地面はどこもかしこもひび割れて砕け散り、いくつもの陥没跡が目立っていた。酷い光景だったからな、よく覚えてるよ」

「なるほど……」


 メルト曰く、能力不明の魔人が残した跡はただひたすらに破壊のみを尽くしたものだったらしい。

 やはりそこまで甚大な被害を出せるとなれば、相手は力押し系の魔人の可能性が高くなってくるな。そうなるとこちらもぶつける魔人はシンリーよりもドロシーの方がいいか?


「ほら!力技の相手なら私よりもドロシーの方が断然向いてるわよ。だから私はダーリンと戦うわ!」

「どうするのですの貴方様?」

「魔人の能力を一番把握しているのはお前だ。戦う相手はお前が決めろアカリ」

「私は別に誰が相手でもいいよ」


 シンリーはドロシーを激推しし、シーラとメルトは俺に判断を委ねてくる。そして肝心の張本人であるドロシーは、誰が相手だろうどどうでもいいといった様子であった。

 どちらを戦わせるべきか、答えは決まったな。


「分かった、なら能力不明の魔人は任せるぞドロシー」

「うん」

「やった!これでダーリンと一緒に戦えるわ!」


 最終的に俺は、能力不明の魔人にはドロシーを、虚無の魔人にはシンリーを差し向けることにした。もし不明な能力がパワータイプでは無かったなら、ドロシーでは厳しいかもしれない。

 しかし話を聞く限りそれ以外は有り得なさそうだし、もし違ったとしても汎用能力を持つ仲間をサポートに付ければいいだけの話だ。

 どう転ぶかなんて戦ってみるまで何一つとして分からないのだから、ここはドロシーの馬鹿力に賭けることにする。


「あんまり浮かれてるなよシンリー。虚無の魔人は相手の能力を奪うっていう無茶苦茶な能力なんだ。十分注意は怠るんじゃないぞ」

「分かってるわよそんなこと。私とダーリンを組めば最強なんだから、任せてよね!」


 シンリーは俺と共に戦えるとあってはしゃぎにはしゃぎまくっていた。そんな調子でうっかり虚無の魔人に能力でも奪われれば目も当てられないので、しっかりと釘を刺しておく。

 しかしそれでも、彼女の顔は嬉しさからニヤニヤが治まらないといった様子なので不安だ。本当にこれで良かったのか心配になってくる。


「まぁいいや、それじゃあ残りの面々はそれぞれの魔人を手助け出来る様に部隊を分けるか。そんでこれから数日は、各部隊で対魔人戦を想定した連携の訓練ってことでいいかメルト?」

「ああ、それで問題ない」

「了解っと」


 シンリーの明るさには一抹の不安を抱えつつ、他の面々のチーム分けも簡単に済ませ、その後今日から早速訓練に取り掛かった。











 ――










 初日の連携訓練は終わった。

 ただし連携とは言っても、基本的に俺達の戦術はこちらの魔人を相手の魔人にぶつける為に動くもので、他の連中はそれを邪魔する魔物を排除する動きをするだけである。

 魔人と戦うならまだしも、魔物相手なら他の連中でも十分な力を発揮出来るので、この形でぶつかれれば勝つことはそう難しくないだろう。

 しかしそれでも懸念材料はまだあるので、これで万全だとは言いきれないが。


「よしっ、それじゃあ今日はこれで解散だ。ただ魔人全員は用があるから残ってくれ」


 訓練も終わり今日はこの場で解散となったが、魔人全員には残ってもらった。その理由は、区長邸で話していた魔人同士の話し合いを実行するためである。


「貴方様、やるつもりなのですね」

「ああ、訓練の最中に分裂体を一人向かわせて店を予約しておいたからな。準備は完璧だ」

「こうなったら行くしかないぜよ……!」

「やっと、ごはん……」


 魔人全員を集めたことで、既に話を通してある三人はすぐに何が始まるのか察してくれた。ただしドロシーだけは訓練の披露から、食事のことしか考えられていない様子だったが。

 ともあれ店の予約は完了しているし、そして更には分裂体の俺もその中に既に忍び込ませてある。これで下準備は整ったので、後は魔人同士を話し合いさせるだけだ。


「何だ大将?魔人だけ集めて」

「どうしたのよダーリン?」


 シーラ達に耳打ちして準備が整ったことを伝えていると、本命であるシンリーと何も知らないガンマがやって来た。まぁガンマも事情を把握していないとはいえ他人事では無いので、道連れになってもらおう。


「ああ、これから始まる決戦に向けて、魔人達だけで改めて親睦を深めてもらおうと思ってな。俺が席を用意しておいたんだよ。だから五人水入らずで存分に楽しんできてくれ!」

「なっ!い、いや、俺はいい!遠慮しておく――」

「ちょっとガンマ、あなたダーリンの折角の好意を無下にする気?そんなことは私が許さないわよ」

「へっ?い、いや、別に無下になんかするわけねぇだろ?や、やったー、嬉しいなー」


 俺の提案を受けて、これから何が起こるのかを察したガンマは即お断りを入れてきた。だがそんなことはシンリーが許さない。

 親愛する俺が直々に用意した席を無駄にする行為は、何があっても見過ごさないとばかりにガンマに睨みを効かせる。その結果彼は恐怖の眼に怯え、参加せざるを得なくなった。

 棒読みの喜びが、どれだけ参加するのが嫌なのかを物語っている。


「ふふふっ、これは丁度いい機会ね。折角だから、この際皆に聞きたかったことをたっぷりと聞かせてもらうわよ。覚悟しなさい」


 シンリーだけは何故こんな席を用意されたのか、その本当の意味を理解していない様子だったが、それでも勝手にこちらの思惑通りに乗ってきてくれた。彼女の悪どい笑みには、この場にいる魔人全員が冷や汗を流し内心ビクビクと震えている。

 こうして今、魔人五人による恐怖の飲み会が幕を開けようとしていた。


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