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八章 18.勇者との折り合い

 放置していたバレリア達を呼び戻すと、彼女達は想像以上に反省していた。その姿は正に狂気で、彼女達を追い詰めるとここまで崩壊してしまうのかとこっちが怖くなってしまう程だ。

 しかしどんな形であれ、ちゃんと反省はしていたので今回の失態は大目に見ることにする。誰だって一度大きな過ちを犯せば、もう二度とそうはならない様にと努力するはずだからな。


「今回のことは大目に見るが、次は無いからな。もう二度と俺の言うことを無視するなよ」

「はい!もう二度と魔王様の意向に背いたりなど致しません!」

「うん!私も今度はちゃんと言うことを聞きます!」


 絶望から復帰したバレリアとトリーリアは元気にそう言葉を返してきた。だが彼女達の言葉を信頼するのは、相応の結果を出してからである。許したとは言っても、一度は失敗をしてしまっているのだから。


「さてと、それじゃあこれで今度こそ全員揃ったかな」

「ねぇダーリン、ひとつ聞きたいんだけどいい?」

「ん、何だシンリー?」

「どうしてあの忌々しいマリスまでもが復活してるのよ?」


 バレリアとトリーリアを呼び戻し、これで今度こそ戦力は揃っかと思ったその直後、シンリーがそんなことを尋ねてきた。彼女の目には明らかな怒りと憎悪の炎が灯っている。

 四百年前俺が封印されたことによって、彼女は勇者の存在を誰よりも憎んでいたのだ。その恨みの対象が突如目の前に復活したのだから、怒りが込み上げてくるのは当然と言えば当然の話である。

 マリスを復活させればこうなることは読めていたのに、予想しきれなかったのは俺の失態だ。


「これからの戦いにマリスの力が必要だと思ったからだ」

「こんな奴の力なんていらないわ。もしかしたらダーリンの隙をついてまた封印してくるかも知れないんだから、死んでおいた方が良いに決まってるわよ」

「マリスはもう俺を封印するようなことはしない。だからその心配は必要ないよ」

「そんなの分からないでしょ!私の大切なダーリンを四百年も眠らせた奴のことを信用出来るわけないじゃない!」


 マリスのことが信用出来ないシンリーは、味方に居ることを執拗に拒んだ。勇者一族との一件には折り合いをつけた彼女も、俺を封印した張本人を前にしては冷静ではいられないといった様子である。


「アカリ……」

「大丈夫、ここは俺に任せてくれないか?」

「分かったよ。なら任せるね」


 シンリーにマリスを復活させることを伝え漏れていたのは俺のミスだが、それでも勇者の存在は必要だ。だから彼女を説得するのは俺の義務だろう。

 激昂する彼女を前にしてマリスが不安げに声を掛けてきたが、俺はそれを手で制する。今彼に下手に動かれると、事態が更に悪化しそうだからな。


「シンリー、もう大丈夫だからさ、そう怖がるなよ。俺はもう二度とお前の傍から居なくなったりはしない。そう約束したのを忘れたのか?」

「……忘れるわけないでしょ。ダーリンとの大切な約束なんだから」


 俺の問い掛けに対し、シンリーは目に涙を浮かべながらも静かにそう返してきた。

 闇の聖剣との戦いの後、俺とシンリーはそんな約束を交わしたのだ。それがある以上、俺は何があっても彼女の傍から離れない様全力を尽くす。その宣言に嘘偽りは無い。


「そうだ、これは俺達の大切な約束だ。だからさ、この際マリスのことは信用出来なくてもいいよ。その代わり、俺と交したこの約束を信じてほしいんだ」


 嫌いな奴、相性の悪い奴など誰にだって存在する。そんな相手と足並みを揃えて行動することを強制するのはとても難しいことだ。ましてや俺達の決戦までは時間が無いのに、その関係をどうにかするだなんて不可能に近い。

 だから俺は、シンリーには無理にマリスと仲良くする必要は無いと伝える。その代わり、俺のすることを信じついてきてほしいと。


「……ずるいわよダーリン。そんなこと言われたら、ダメだなんて言えるわけないじゃん」

「そりゃそうさ。なんたって俺は、ずる賢くて正義に反した、お前達の頼れる魔王だからな!」

「ふふっ、かっこつけちゃって……。分かったわ、マリスのことが許せないのは絶対に変わらない。でも、ダーリンがそう言うのなら今回だけは協力してあげる!」


 シンリーは悩みに悩んだ末、最終的にマリスが仲間になることを認めてくれた。

 彼女は本当に心の底からマリスのことが憎いのだろうに、俺の為にと共に戦うことを許してくれる。本当に優しくて頼れる、俺の自慢の仲間だよ。


「うむ!一時はどうなることかと思ったが、これで一件落着ぜよ!」

「何であんたが纏めんのよ!」

「ぐはっ!い、痛いぜよシンリー……」

「ここはダーリンがかっこよくキメるところなんだから、邪魔しないでよね!」


 最後は何故かカイジンが取り纏めた為、お前がするなとシンリーが憤慨する。

 確かに彼が纏めたのは謎だが、でもそのお陰で場も和んだのだし良しとしよう。それにシンリーの予定だと俺が何か決め台詞を言う場面だったらしいが、そんなものは全く用意してないので助かった。


「それじゃ改めてメルト、これでこっちの戦力は揃った訳だが、これからどうする?すぐに向こうの世界に行くか?」

「いや、確かに十分な戦力は集まったが、それでも無策で力押し出来る程虚無の魔人は甘くない。しっかりと対策を考えてから挑むべきだろう」


 メルトにこれからの方針を聞いてみると、彼は意外にも冷静であった。仲間が集まったのなら、もう即帰国するつもりなのかと思っていたが、こっちで出来る限りの準備は済ませ、最大限力を引き出せる状態で敵と当たるらしい。


「取り敢えず、奴らの魔人と戦うのはこっちの魔人ってのは確定でいいんだよな?」

「ああ、そのつもりだ。俺個人の意見としては、奴らには俺自身の手で復讐したいという気持ちもある。だが、そんなことは言ってられる状況じゃないからな」

「了解だ。なら向こうの魔人には、こっちの有利な能力を持つ魔人をそれぞれぶつけるとするか。その方が勝率も上がるだろうし」


 今回の作戦は、目には目を魔人には魔人をという内容だ。その上で有利な能力を持つ魔人で奴らに奇襲をしかけ、確実に勝利をもぎ取るという作戦である。


「敵の能力は氷に雷に虚無……、あとは何だっけ?」

「炎、そして残りの一人は能力不明だ」


 敵の能力は四つは割れているが、最後の一人は不明である。確か以前聞いた話だと、そいつと戦った仲間は全滅させられた為、能力が分からないんだったな。

 ならまずは判明している魔人に割り振って、不明の奴は残った魔人に対応してもらおう。


「よし、それじゃあまず簡単なところからだな。炎はシーラ、氷はガンマが当たってくれ」

「まぁ当然ですわね」

「任せとけ、俺の溶岩で燃やし尽くしてやる!」


 炎には水、氷には溶岩、この二人の相手は非常に分かりやすい。互いに相手の能力には絶対的な有利があるので、ここが当たれば確実に勝利をものにしてくれるだろう。


「そんで残りの魔人だが、雷には無効に出来そうなドロシーか?いや、でもそれだとあいつの速度についていけないから、反撃も厳しいな……」


 雷の魔人と戦う相手は悩ましい。シンリーは木が避雷針になりそうだから危険だろうし、ドロシーの泥は無効に出来そうだがこちらの攻撃も遅くて届かない可能性がある。


「殿、その相手はあしに任せてほしいぜよ」

「カイジンか。なるほど、確かに空を支配しているお前なら雷の相手なんてお手の物って訳だな。よし分かった、雷の魔人はカイジンに任せる」

「承知したぜよ!」


 誰をぶつけようか悩んでいると、カイジンが自ら名乗りをあげてきた。そう言えば空の魔人たるカイジンには、雷を操る能力もあったな。確かにその力がそれがあれば、雷の魔人を屠るくらい造作もない。

 空のことは、空を統べる魔人に任せるのが一番確実ということだ。


「よーし、それじゃあ残りもどんどん決めるぞー!」


 そうして俺達は、これから始まる決戦に向けて戦うべき相手の選定に精を出すのであった。

 策を練り万全な状態で敵の虚を突く、相手が同じ魔人であるなら、備えはいくらあっても足りないなんてことは無いのだから。


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