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八章 17.壊れた獣達

 五人の魔人揃っての会合をすることが決まった。しかしそこで俺は、今まだは区長と食事をしている最中だったことを思い出す。ボウルサム区のトップと会食をしている時に、身内だけで盛り上がってしまっていたのだ。なんて失礼なことをしてしまったのだろうか。


「す、すみません区長、こっちだけで勝手に話進めちゃって……」

「いいよいいよ気にしなくて、魔人様同士の話なんて滅多に出会える機会ないんだから、むしろ光栄だよ」


 すぐさま区長に謝罪すると、彼は明るく笑って許してくれた。温厚で優しくて、ボウルサム区の区長はとても偉大な人なんだと実感する。こんな人の娘だからこそ、カーリス達も温かみがあるんだろうな。


「しかし、話を聞く限りだと決戦は近い様に思えるのだけど、いつ頃始めるつもりなんだい?」

「あと数日もしたらメルトの世界に戻って始めるつもりです。こっちの準備もそれなりに時間が掛かりましたが、それももうすぐ終わりますので」

「随分とお急ぎなのですね。せっかくお会い出来たのに寂しいです……」


 戦いまでの時間はもうそんなに長くないことを区長達に告げた。するとカーリスが寂しそうにそう言葉を零してくる。

 確かに彼らとは今日再開したばかりだと言うのに、のんびりと話をする時間も作れなかったからな。俺だってもう少し余裕があるのなら、のんびりと過ごしたかったものだ。


「戦いが終わったらドロシーを連れてまた戻ってくるよ。その時に今日回れなかった所を案内してもらえるか?」

「っ、はい!任せて下さいアカリ様。ではその為にも、必ず帰ってきて下さいね」

「ああ、了解だ。必ず勝って帰ってくる」


 寂しそうなカーリスを元気づけるために、俺はそんな提案をした。未来に楽しいことが待っているとなれば、これから始まる苦しい戦いも乗り越えられる気がしてくる。

 彼女との約束は、なんだか嫌なフラグを立てたような気がしなくもないが、まぁそんなのはただの縁起なのでそこまで気にする必要は無いだろう。


「お兄ちゃん!あたしとも遊ぶんだから、忘れないでよ!」

「分かってるよ。そんな心配しなくても忘れやしないって」

「へへ〜」


 カーリスとそんな約束を取り付けていると、妹のルトリィが何やら若干怒りながらそう叫んできた。もちろん妹だけを除け者にするつもりなんて毛頭ないので、安心させる為にと彼女の頭を撫でて宥める。


「うんうん、アカリ君は着実にうちの娘達と親睦を深めている様だね。この調子で将来のことも頼んだよ」

「はははー、先のことはお答え出来ませんからねー」

「あはははは、これからのことが楽しみだなー」


 区長からは以前、娘二人を婚約者にするなどというとんでもない提案を受けたことがあるが、恐らくは今の発言もそれのことを指しているのだろう。正直そんな面倒事には巻き込まれたくないので、適当に曖昧な返事をしておく。

 俺と区長は互いに考えていることが分かった為か、乾いた笑い声だけが響いていた。


「ご主人様、それいらないなら食べていい?」

「ダメだ、これは今から食うんだよ。お前は自分の食事を別に用意してもらってるんだろ?そっちを食っとけ」

「ご主人様の欲張り」

「お前にだけは言われたくねーよ!」


 区長とそんな駆け引きをしていると、ドロシーが突然横にやって来て俺の分の夕飯を奪おうとしてきた。口で聞きながらこいつの手は既に俺の飯へと伸びていたので、危機一髪のところで妨害する。

 必死に守ったせいで欲張り呼ばわりをされてしまったが、他の誰よりもお前にだけは言われたくない。食欲の権化の様な存在のくせに。


「あはは、まぁまぁドロシー君の分もすぐに用意させるから、皆で一緒に食べよう。しばらくはここを去ることになるんだから、お別れ会ということにしようじゃないか」

「やった!」


 ドロシーと俺のそんなやり取りを見ていた区長は、苦笑しながらもそう言ってドロシーの分の食事を用意してくれた。

 そうして俺達はシュナーベル邸での晩餐を楽しみ、その日は泊めてもらうことになり翌朝出立したのである。











 ――












 無事にシーラ、ドロシーを仲間に加えた俺達一行は翌日、クウのワープによってシンリーらのいる街アルテラへと到着した。

 クリサンセマム区に向かっていた組もすでにアルテラへと到着しており、そうして三つのチームはそれぞれ目的を果たし無事合流に至ったのである。


「さてと、それじゃあ改めて皆ご苦労さん。これで仲間集めは完了だ。これからこの戦力で別世界の魔人共と戦うことになるから、皆気を引き締めていくぞ!」


 三組が合流を果たし分裂していた俺も元通り一人になると、ようやく仲間集めが終わったことを告げる。

 数は少く見えるが、それでも個々の力は申し分ない。それにモンスターボックスの中には数え切れない程の魔獣達も控えている為、今の俺達ならどんな相手だろうと対等以上に戦い抜く自信がある。


「貴方様、まだバレリア達が居ませんわよ」

「おぉっと、あいつらのことを完全に忘れてた。まぁ一晩放置してたから流石にきっちり反省もしてるだろ。クウ、空間魔法で呼び戻してくれ」

「クウー(はーい)」


 これで戦力は全員揃ったかと思ったが、バレリア達のことを失念していた。あいつらには現在罰として竜の島で反省させている真っ最中だったのだ。

 うっかり忘れてしまっていたが、反省させる時間としては十分だし呼び戻すには良いタイミングである。ここで戻って来たあいつらが反省していたなら残留、反省していなければ今度こそ国へ帰らせよう。


「クアッ!(はい、連れて来たよ!)」

「私は魔王様の信頼を裏切った。あの方に見限られた私にもう存在する価値なんてない。魔王様の為だけに産まれてきたこの命、それが魔王様の足を引っ張ると言うのなら、潔く散るべき。私の存在が魔王様に不利益を被るというのなら、死んで詫びましょう。来世では今度こそ魔王様のお役に立てる様祈りながら……」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私が悪かったです魔王様。どうか見捨てないで下さい、私は魔王様に見捨てられたら生きていく価値が無いんです。もう二度と魔王様のご意志には逆らいません。全て魔王様の思うままに動きます。この体尽き果てるまでお供いたします。ですからどうかお許し下さい魔王様……」


 クウのワープによって呼び戻されたバレリアとトリーリアは、壊れていた。

 既に何かを悟ったかの様に天に祈りを捧げ、今にもその命を終わらせようとしているバレリア。ひたすらに謝り続け己の失態を悔いて嘆いているトリーリア。

 両者の状態は少し違ったが、どちらも共にきっちりと反省していた様だ。と言うか、反省し過ぎて壊れてしまっている。これは流石にやり過ぎてしまったかも知れない。


「おい、しっかりしろお前ら。勝手に死のうとするな」

「ま、魔王様?何故ここに……、そうか、これはもう死を待つしかない私に対し、天が最後にお情けで幻の魔王様を見させて下さっているのですね。感謝致します。最後に魔王様のご尊顔をお目に出来たのであれば、これで私は心置き無く逝ける……」

「逝くな逝くな!俺は幻じゃねぇし、勝手に心残りを無くしてんじゃねぇよ!」

「えっ!?ま、魔王様に触れられる……、まさか、本物の魔王なのですか……!?」


 真っ先に俺のことに気付いたバレリアだが、彼女は何故か俺のことを幻だと思ってしまい、心残り無く自殺をはかろうとした。だから俺は慌てて彼女の肩を掴み強く揺さぶることで、無理やりに現実へと引き戻す。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

「ったく、おいトリーリア、お前もいつまでも謝ってないでこっちを向け!」

「ごめんなさいごめんなさ――あれ?今、魔王様の声が聞こえた様な……」

「ああそうだ。さっきからずっと目の前に居るんだから、とっとと気付け」


 ずっと自分の世界に閉じこもり謝り続けていたトリーリアも、俺の声が届いたのかようやく現実へと帰ってきた。

 失敗したな、少し反省させるつもりが、まさかここまで彼女達を追い詰めてしまったとは。俺はまだ獣人族の忠誠心を甘く見ていたということか。今後こいつらの扱いには、もっと慎重にならなくては。


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