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一章 2.勇者の家には秘密がある

誤字報告ありがとうございます!

 魔物の跋扈する世界において、実戦を学ぶなら世界一と名高いのが「ガーデニア学園」である。

 二百年前、突如魔物が大量に出現してから創設されたガーデニア学園は、現在魔物討伐の為の優秀な人材を育成する為の技術が詰まった、最先端の学園だ。

 そして、そんな学園に今年推薦で入学したのが勇者一族の直系であるマリナであった。


「おい、あれが今年の首席だぜ」、「確か勇者の末裔だよな。二年連続で首席とは流石エリート一家は違うよ」、「凛々しくてかっこいい〜」、「憧れるよねー」


 現在ガーデニア学園で入学のスピーチをしているマリナに向かって、今年入学の生徒達は様々な噂話を広げていた。


「――我々新入生は、将来魔物討伐の一助として活躍出来るよう、これからの学生生活で日々鍛練に励むことを誓います」


 マリナのスピーチは既に終盤に入っており、何故か選手宣誓の様な口上で締め括っていた。

 そうして入学式も無事終わり、新入生達はぞろぞろと各々の教室へと向かっていく。

 こうしてマリナは学園という新たな舞台で、新生活をスタートさせたのだ。









 ――








 そして、マリナがガーデニア学園に入学してから早半年が経過した。この頃になると生徒達も学園に慣れてきたようで、学園トップの座を争って生徒達は日々戦闘技術の研鑽を積み重ねている。

 だがしかし、生徒達がやる気を出している中でただ一人、暗い表情を浮かべている人物がいた。

 それはもちろん、今年度首席のマリナである。


「ダメね、このままじゃ人間は魔物に敗北するわ……」


 マリナが絶望している理由は、この世界の人間の戦闘技術に不安を感じていたからである。

 現勇者である父のもと剣の修行を続けていたマリナは、当然同学年が追いつけないほど圧倒的な実力差を見せつけていた。

 もちろんマリナ自身もそのことは理解していたので、最初なのだから仕方ないと受け入れてはいたのだ。

 だが、現実はマリナのそんな淡い感情を易々と打ち砕いた。


「この魔動兵器、これ自体は確かに強力な武器だけど、それでも魔物はそんな私達を容易く凌駕する。まさか、魔物があんなにも恐ろしい敵だったなんて……」


 魔動兵器は遠距離から高威力の攻撃を連続で与えられる強力なものであり、当たれば魔物は易々と消し飛ぶ。

 だがそれは下位の魔物に対してのものであり、中位、上位と魔物のランクが上がるに連れて魔動兵器も効果が薄くなっていく。


 その点も十分驚異ではあるが、しかし奴らの最も恐ろしい所は、人間との戦闘を経験し学ぶ学習能力の高さにあった。

 現状は問題無く魔物と戦ってこれてはいるが、小さく、少しずつではあるが確実に、魔物は人間の戦い方を学び対応してきている。

 その小さな変化に気づいたマリナは、早々に現状の深刻さを理解し悲しい現実に重いため息をついた。


「どうしたのマリナ?そんなため息なんかついて」


 マリナに話しかけてきた女子生徒の名はセルシー・アヒレス。彼女はマリナと同じく推薦で学園に入学した、ストレートな毛並みの茶髪を腰上まで垂らしたマリナの友人である。

 同じ推薦組ということもあってか、優秀な射手でもあった為二人はすぐに意気投合して半年間共に過ごしてきていたのだ。


「このままじゃ私達は魔物に滅ぼされるのかなって思ってね……」

「随分と物騒なことを考えてるわねー。マリナは学年トップの実力者なんだから、もっとドンと構えてなくちゃ」

「学園での成績なんて、魔物達にとっては何の意味も無いわ」


 セルシーはマリナとは違い、魔物の存在がそこまで脅威であるとは捉えていない。そして多くの生徒はセルシーと同じ考えであった。

 魔物の存在に危機感を感じているのは、世界で見ても現状マリナら勇者一族を含め、僅か数人しか存在しない。


「マリナはちょっと心配症過ぎる気がするけどねー。まぁそんなに不安なら実家で色々と調べてみたらいいんじゃない?勇者の家系なら、何か秘伝の技とかあるかもしれないし」


 ガーデニア学園は半年に一度長期の休暇があり、生徒の多くはその時期には実家に帰省し成果を報告している。


「なるほど……、確かにうちなら何か打開策があるかも知れないわね。ありがとう、ちょっと探してみるわ」


 マリナも元から実家には帰る予定だった為、セルシーのアドバイス通りこれを機に自分の家を調べることに決めた。




「さーて、まずはどこから調べようかしら」


 家に帰ってきたマリナは、早速魔物を倒す為の切り札となる何かを探し始めた。

 マリナの家は勇者の末裔なだけはあり、かなり豪勢な邸宅となっている。広さは相当あるため、家の隅から隅まで宛もなく捜索をするとなれば、二週間は軽くかかってしまうだろう。


「やっぱり、何かあるとしたら倉庫よね」


 マリナの欲する情報がありそうなのは、父の書斎、兄の私室、そして離れにある倉庫だ。

 この中でなら一番探しやすく、尚且つ有力な情報の眠っていそうな倉庫から探すことにしたのである。


「んっ、よいしょ!うっ、ちょっと埃っぽいかな」


 重く閉ざされた倉庫の扉を開くと、中にはビッシリと様々な物が天井付近まで積まれていた。

 そのどれもが布などで覆われており、埃が積もっているのを見るに、あまり人が訪れていないことが伺える。


「倉庫は子どもの頃に好奇心で入ったことがあるくらいだけど、その時は怖くてすぐ出ちゃったのよね……」


 子どもにとって暗い倉庫とは得体の知れない何かが突然飛び出してきそうな、そんな恐怖を感じる場所だ。

 それ故にマリナは幼少期の恐怖が蘇ってきたのか、恐る恐るといった様子で中の探索を始めた。

 今彼女が探しているのは、魔物を殲滅出来る勇者ならではの秘伝技や、特殊な魔剣等だ。


「以外とそれらしい物は見当たらないかな……」


 だが、マリナの期待を容易く打ち砕くように彼女の望むものは見つかることなく、結局倉庫端の壁際までやって来てしまった。


「宛が外れちゃったか――ってあれ?何か、壁が少し光ってる気がする」


 倉庫に望むもの無かったと諦めかけたその時、マリナは壁の下部で淡い光が漏れているのを発見した。

 倉庫の隅で、これ以上スペースは無いと思われた場所で発見した光に、期待と疑念の感情が湧き上がってくる。


「ここ、上手く隠してあるみたいだけど僅かに空気の流れがある。もしかして、隠し部屋とかかな?」


 マリナは期待に胸をふくらませながら、光の正体を確認するべく荷物をどかし始める。

 すると、光の漏れだしている正体が姿を現した。それは重厚感のある金属で閉ざされた、小さな扉だったのだ。

 マリナは早速扉の取手を握り押したり引いたりと試行錯誤してみるが、残念ながら全く開く気配はない


「ダメ、やっぱり開かないわ。それにこのあからさまな鍵穴……、これはどう見ても金庫よね」


 ダメ元で開かないか試みるも、明らかに鍵によって固く閉ざされた扉は開かなかった。

 だが、それで終わるほどマリナは諦めの悪い人間ではない。彼女には、力技の他にまだもう一つ秘策が残っていた。


「扉から漏れる光やこの造りの感じ、これは昔造られた魔道具みたいね。魔力で機能しているなら、私の敵じゃないわ」


 マリナには魔道具や魔動兵器、更には魔法に含まれる魔力を解放させ、消滅させるという特殊な能力を持っている。

 なぜそんな力があるのかと言えば、それは彼女の出生に秘密があるのだが、ともかくその力があればどれほど強力な金庫だろうと彼女の敵ではない。


「こんな扉、私の力でこじ開けてあげるわ……!」


 マリナは扉に施された魔力による鍵を、己の持つ特殊能力で無効化していく。

 扉に施された鍵はかなり強力なもので、マリナの魔力解放と正面から衝突し、眩いほどに魔力の光がほとばしる。

 だが、やがて倉庫全てを魔力の輝きが照らしたかと思ったその瞬間、突然に光はその力を失った。


「や、やった……!」


 マリナの強引な力技によって、固く閉ざされた金庫の扉がゆっくりと開く。

 そして中に見えたのは、少々厚みのある一冊の本であった。


「何、これ……?随分と古い本ね。それに文字も劣化してて何て書いてあるか読めないわ」


 マリナは金庫に仕舞われた本を手に取ってるが、表紙に書いてある文字は、本自体が古すぎるせいかマリナには読むことが出来なかった。

 せっかくの収穫だと思った矢先に解読不可能の本だったと分かり、マリナはガックリと肩を落とす。


「はぁ、せっかく手掛かりらしきものを見つけたのに読めないんじゃ意味がな――って、えぇ……!?」


 だが、念の為と思って本の裏側も確認してみた瞬間、マリナの表情は驚愕に彩られる。


「マリ……、ス。裏に書かれているこのマリスって名前、それって初代勇者の名じゃない!」


 マリスとは、かつて魔王灯と激戦を繰り広げた、初代にして伝説の勇者の名である。

 マリナも知識として初代のことを知ってはいたが、まさかこんな所でその名が出てくるとは思わず、驚きから声を張り上げてしまった。


「すごい……。何か手掛かりでもあればと思ってたけど、まさか伝説の勇者の書物が見つかるなんて。これは、絶対この世界を救うヒントが隠されてるはずよ。何としてでもこの本を解読してみせるわ!」


 もうダメかと思ったその時、舞い降りた最後の希望に心躍らせながら、解読の為に足早に倉庫を飛び出して行った。

 こうして、マリナは初代勇者マリスの残した謎の書物を入手したのだ。

魔王復活まであと三話

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