五章 12.理不尽な暴力
「痛ってて、あの野郎本気で殴りやがって……」
会いに来るのが遅過ぎるとシンリーに激怒されて、見事なまでの平手打ちを貰った。こうなるのが見えていたから、会うのが少し億劫だったんだよな。でもまぁこれで一番嫌なことは終わったのだし、それで良しとしよう。
「気は済んだかシンリー?」
「まだ言いたいことはあるけど今は置いておいてあげるわ」
シンリーはまだ不満そうにしていたが、それでも自分がつけた傷をすぐに治癒してくれた。何だかんだで優しい奴なんだよな。
「それは助かるよ。ついでに他の仲間達の傷もそろそろ治してやってくれるか?」
「……分かったわよ。全員ダーリンの知り合いっていうのは本当みたいだし、許してあげるわ」
シンリーに他の面々の治療も頼むと、渋々といった感じでやってくれた。全員の足元に瑞々しい花が咲くとそれがホタルの様に発光しただし、次第に傷つき意識を失っていたセロル達が目を覚ましてくる。
そして近くにあった巨大な花のつぼみも咲き始めて、なんとその中からネネティア、セルシー、プラチウムの三人が出てきた。あいつらはあんな所に閉じ込められていたのか。
「あれ、魔人は……?」
「いつの間にかアカリ君が来てるね」
「なるほど、もう戦いは終わったということか」
起きるとすぐに、魔人の姿が見当たらないことにセロルは気づきキョロキョロと辺りを見渡しだす。だがそこでプラチウムが俺が居ることに気づき、そのことからもう戦闘は終わったのだとガゼルが納得した。
「皆お疲れさん、苦労かけたな」
「全くだ、まさか魔人があそこまで強かったとは聞いていないぞ」
「うん、僕も油断して一撃でやられちゃった……」
「ははは、悪い悪い。まさか戦闘になるとは思わなくてな。でも皆、むしろ魔人相手によく頑張った方だと思うよ」
ガゼルとセロルはシンリーが予想以上に強かった為敗北したことにかなり落ち込んでいる。
まぁ実力的に言えばあのメルトとほぼ同格なのだから、敗北するのも無理はない。また強くなってその時リベンジすればいいさ。
「あれ?王子様、いつの間に戻られてたのですね……」
「おおリリフィナ、お前はどこに行ってた――って酷い傷だな!大丈夫なのか?」
「はい、どうにか生きてます……」
森の影から銀髪美女のリリフィナが姿を現したので、どこに居たのかと問いかけようとしたが、彼女のボロボロな格好を見てそれどころでは無くなった。
リリフィナもシンリーに随分と痛めつけられた様である。
「シンリー、こいつの治療も頼むよ!」
「……えぇ、分かったわ」
フラフラと足取りの悪いリリフィナを支えると俺はシンリーに再び治療を頼み込む。彼女もそれを了承してくれたのだが、何故かまた少し怒っている様子だ。
知らぬ間に俺はまた彼女の逆鱗に触れてしまったのか?
「よしと、これでいいでしょ」
「す、凄い、傷が完全に塞がってます……!ありがとうございます魔様!」
「はいはい」
リリフィナにもセロル達同様サクッと治療を終わらせると、感動した彼女は何故か頭を垂れて深々と敬服していた。何自分に傷を付けた張本人に頭下げてんだよ。
「アカリ、後で説明はするけどその子は今回とんでもないことをしでかしたから、あまり優しくはしなくていいわよ」
「え、何だよそれ、めっちゃ気になるじゃん」
「……人聞きの悪いことを言うな。私はただ王子様への忠誠を示しただけ」
「はぁ、それが本当に忠誠心かどうか、後で本人にきっちり確認してみなさいな……」
何故か俺と別れる時よりもマリナとリリフィナ両者の間には、険悪な雰囲気が漂っている。俺がいなかったあの少しの時間で、一体何が起きたというのだろうか。
「パパー!」
「おおルトリィ!怪我は無かったかい?」
「うん!みんな元気だよー!」
リリフィナが一体何をしたのか非常に気になるところではあるが、可愛らしい幼女の声が俺を思考の渦から引き上げる。ルトリィ達は団体でシンリーから逃げていたことを気配で感じ取っていたが、霧が消えたことに異変を感じて戻ってきた様だ。
「そうかそうか。ラリヤ、ご苦労だったね」
「いえ、滅相もございません」
「パパや皆様も無事で安心しました」
「お陰様でね、まぁ魔人様には完敗してしまったが」
ルトリィとの間にカーリスも混ざり、プラチウムらは家族が無事に再会出来たことを喜び輪を囲んでいる。ああいう光景を見ると心温まる気がするな。
血の繋がった肉親とはもうしばらく会っていないし、そもそも生きているかどうかすらも分からない。今までそのことは真面目に考えて来なかったが、冷静になってみると無性に寂しさが込み上げてくる。
『クウ?(アカリ寂しいの?)』
「まぁ、少しだけな。大丈夫だよ……」
『クアッ!(元気だして!クウがずっとそばに居るから!)』
「ははっ、ありがとうなクウ。俺はお前に出会えて幸せだよ」
クウと融合している影響か、俺の心境はクウに全て筒抜けだったようだ。脳内でクウの励ましの声が響いてきて、お陰で元気が戻ってくる。
今の俺に血の繋がった肉親はいないが、何度も死線を潜り抜けてきた唯一無二の相棒はいるんだ。なら何も寂しいことなどない。
「お兄ちゃーん!帰ってきてたんだねー!」
「おうルトリィ、ちゃんとお利口にしてたか?」
「うん!ずっとラリヤの言うこと聞いてたよ!偉い?」
「おーそうかー、ルトリィは良い子だな」
「えへへっ!」
家族の温かさというのをしみじみと感じていたら、ルトリィが今度は俺に勢いよく抱きついてきた。やっぱり幼女の純粋な心というものは、見ていると自分の心も浄化される気がする。
ルトリィの眩しい笑顔を見てたら、悩みなんて簡単に吹き飛ぶから凄いな。
「王子様!私も是非褒めて下さい!」
「ちょっ、リリフィナ!君は今回何もしてない、いやむしろ皆に迷惑掛けてた側でしょ!」
「……うるさい、勇者一族は引っ込んでて」
無邪気にじゃれてくるルトリィを構っていると、リリフィナが自分もと寄ってきた。本当に馬鹿だなこいつは、ルトリィは幼女だから許されるのであって、お前にこんなことするのもされるのも気持ち悪いだろうが。
幸いいつもの如くセロルが止めに入ってくれるので、毎度毎度助かっている。
「ねぇ、どうしてダーリンの仲間にはそんなに女が多いの……?」
「ん?別にそうでも無いだろ。ガゼルだっているんだし」
「っ!このっ、ダーリンの無自覚変態バカー!」
「ぐふっ!な、何でまた……」
何故かシンリーから再び強烈なビンタを貰ってしまった。治療してもらったというのに全くの無駄である。しかし今回ばかりは本当に理由がよく分からない。確かに言われてみれば、俺達の仲間は比率で言えば女性の方が多い気はする。だが別にそれでそこまで怒らなくてもいいだろうに。
「何で私という大切な人が居ながら、そんなに女をはべらせてるのよ!」
「べ、別にはべらせてねーよ!その言い方は誤解を産むからやめてくれ……!」
「来るのが遅かったのはここを調べるのに時間が掛かったからかと思ってたけど、まさかその子達と遊んでて来るのが遅れたの!?だとしたらそんなの絶対に許さないわよ!」
「お、落ち着けってシンリー、俺は全然遊んでなんていないから……」
シンリーが怒っているその原因は、どうやら俺が複数の女性と遊んでいたからだと思っているからだった。実際には遊びとは真反対の訓練の日々を送っていたし、そういう浮ついた話も一切無いのだが、今のシンリーはそれを信じてくれそうもない。
ここは仲間達に頼るしかないか。
「な、なぁ、皆からも誤解だって説明してくれよ……」
「私は王子様の配下として幸せな日々を送っております」
「なっ!それを言うなら僕だって、兄貴に色々教えてもらってる毎日は楽しいよ!」
「私も不運を一緒に背負ってくれると言ってくれた、大切な仲間ですね」
皆から説明をしてもらおうと思ったのだが、リリフィナ、セロル、ネネティアから予想外に微妙な答えが帰ってきた。これ、逆にシンリーを刺激することになりかねないんじゃないか?
「ほら、やっぱり遊んでたんじゃない!私を抜きにして楽しそうにしてるんじゃ無いわよ!」
「いや、これは違――ぐへぇ!」
慌てて違うと説得を試みたのだが、虚しくも俺の思いは届かず、シンリーより三度目の平手打ちを貰うのだった。




