五章 10.感動の再会
シンリーがアカリの仲間達を全滅させる数刻前――
「こいつ、私達の攻撃が当たらない……!」
「攻撃方法はあいつと似てるけど、威力は似ても似つかないな。やっぱあいつの強さが化け物じみてたのか」
森から無理やり連れ出した人型魔物の部隊は、地面から無数の魔石柱を突き出して俺に仕掛けてくる。だがその威力も速さもあの時戦ったメルトとは天と地程も差があり、空間魔法を使うまでもなく軽々と避けられる。やはりあのメルトという男の方が段違いに強かった。
戦法は同じだと言うのに格好も戦闘技術も目の前の連中の方が明らかに劣っており、とても同じ存在だとは思えない。まさかこいつらはただ似ているだけで、全く関係の無い存在なのだろうか。
「まっ、関係あろうが無かろうがどっちにしろ敵対していることには変わりないんだ。なら倒した後できっちり聞き出せばいいだけか」
「ぐあぁっ……」
奴らがメルトと関わりがあるかなど、後からじっくり聞き出せばいいだけなのだから今はどうでもいい。そう結論した俺は、意志を固めるように敵の一人を殴り飛ばして戦闘不能にする。
これで奴らの数は残り五人程度だ。最初は数えるのも億劫な程居たけれど、それもようやく終わりが見えてきた。
「っ!また仲間を……これ以上好きにはさせません!」
「はっはっは!守りたかったらそれだけの力を示して見せな。弱い奴は強者を前にして何一つとして逆らうことなんざ出来ねぇんだからよ!」
「そんなこと、言われるまでも無いです!」
敵の隊長が何やら文句をつけてきたので反論したのだが、思いの外悪役っぽいセリフになってしまった。これじゃ完全に俺達が悪者だな。
まぁ奴らからしてみれば、不法侵入したのは俺達なんだからそれで間違っては無いのだろうけど。
「はあぁっ!」
「威勢ばかりは立派だが、攻撃は酷く単調だな。そんなんじゃいつまで経っても俺には――」
「今です!」
「「「了解!」」」
代わり映えのない何度目かの特攻を前にして、そんなものは無意味だとばかりにばっさりと切り捨てようとしたが、その隊長の攻撃は実は囮だった。自らを犠牲にする覚悟で奴は俺の動きを封じ、残りの仲間全員で魔石の槍を無数に投擲してくる。
己の身を賭けてまで俺を倒そうとするその心意気は見事だ。だが、お前達はもう自分達がなぜこんな平原に連れ出されたかを忘れている様だな。
「いい攻めだが相手が悪かったな、俺達にはどんな攻撃も通用しないんだよ」
『クアッ!(それっ!)』
「なっ!?槍が独りでに避けて……いや、あの変な穴で逸らしているということですか……!?」
俺と囮になった敵の隊長目掛け降り注ぐ無数の槍は全て、クウのワープによって見当違いの方向へ軌道を変える。どれだけ己の身を犠牲にして俺の動きを封じようとも、ノーモーションで発動される空間魔法を前にしては全てが無力という訳だ。
「ご明察、そしてお前達との戦いもここまでだ!」
全ての槍を退けた俺達は、反撃とばかりに残り全員目掛けトイブラスターの魔弾を放つ。照準など合わせなくともクウのワープによって半自動的に弾は命中する為、隊長に体を拘束されている状態でも反撃出来る簡単な作業だ。
アタッチメントは装備していない為威力は落ちているが、それでも通常の魔道兵器よりは高威力の魔弾が奴らを襲い、次々と敵の数を減らしていく。そして最終的には、隊長のみが残る形となった。
「全員やられてしまった、最後まで残ったのは私だけですか……」
「みたいだな、囮が残るってのも皮肉なもんだ」
「何故あなた達は森へ侵入してきたのですか。一体何が目的なんです……?」
「俺達の目的は知り合いに会うこと、ただそれだけさ」
仲間が全てやられ残り一人となった敵の隊長は、敗北を覚悟し最後に俺達の目的を問うてくる。だが俺達がここへ来たのなど、ただ友達に会うためだけだっただけで、まさかこんな所で人型魔物と同等の存在と鉢合わせるなど俺も予想外だったんだ。
現状ではシンリーが敵かどうかすらも分からない。ちゃんと会って話したいのだが、あいつは今何をしているのだろうか。霧がある以上あの森に篭っていることは確定だろうが。
「さてと、そろそろ森に戻るとする――ん?お、おい!霧が消えてるぞ?」
「そんな、結界を解除するなんて一体森で何が起きていると言うのですか……!?」
さっさと隊長を眠らせて森へ帰ろうかと思いそちらへ目を向けると、先程まで侵入者を拒絶していた迷いの霧が消滅していることに気がついた。
いつから霧が消えたかは知らないが、シンリーが解除したというのならそれ相応の事態が起きていることはまず間違いない。
『クウー!(シンリーの匂いがするよ!)』
「ああ、俺も感じ取れてるよ。ははっ、懐かしい気配だ……」
霧が晴れた影響でより一層シンリーの気配を強く察知することが出来た。相変わらずの懐かしい雰囲気に、思わず感情が高ぶってしまう。少し怖い奴ではあるが、それでも長い間共に旅をしてきた仲間なのだから懐かしさの方が圧倒的に勝っていた。
「よしっ!それじゃあ早速会いに行くとするか、懐かしの友の元へ!」
『クウー!(行こー!)』
「あっ!ま、待ちなさ――」
シンリーが敵かどうかはまだ分からない。だがそれでも会って話さなければ何も解決はしないし、そもそもここへ来たのは再会するのが目的だったのだから、行かないという選択肢は俺達には無かった。
俺とクウは融合体でありながら頷き合うと、空間魔法でシンリーの元へと最短距離で移動する。途中敵隊長の止める声が聞こえて来たが、そんなものは完全に無視だ。
そうして俺は、ワープホールを通ってシンリーの元へと全速力で向かうのである。
――
「よっと、真打ち登場ってな」
「………………え?」
何か言いながら登場した方がいいかなと思った俺は、そんな適当にそんなことを口ずさみながらワープホールから姿を現す。
するとどこからか、小さく驚く声が聞こえたのでそちらに視線を向けると、巨大な人型の木が視界に入る。久しぶりに会っても俺はそれが魔人化したシンリーであることをすぐに察した。
「え?え?えええええええええええ!?だ、だ、だ、だ、だ、だ、だ、だ、だ、ダーリン!?」
「ん?おお、ようやく見つけたぞシンリー」
声を掛けようとすると、それよりも先にシンリーの驚愕し絶叫する声が響き渡った。俺はそれに若干驚きつつも片手を上げて軽く挨拶する。
だがシンリーの驚きようが予想外に大きいものだから、俺も変な言葉になってしまった。
「え?え?え?何で!?何でここにダーリンが居るの!?はっ、まさかこれは夢……?そうか、これは私の夢なのね……!」
「落ち着けよシンリー、俺はちゃんと現実だよ。ほら」
「きゃあああああああああああああ!ダーリンの手が私にぃぃぃぃぃぃぃぃい!」
「うるせぇなこいつ、ちょっと触っただけだろうが……」
俺が目の前にいるのがどうも信じられない様で夢とまで言い出したので、現実だと教える為に彼女の体に触れて見せたのだが、それは完全に逆効果だった。俺の接触は彼女をより一層混乱させただけである。
「はぁ、はぁ、はぁ……ちょ、ちょっと待って、一旦落ち着かせて?り、理解が全然追いつかないの……」
混乱がピークに達し脳の処理が限界を超えてしまったのだろう。シンリーにとって俺が目の前にいるというのは、それ程までに有り得ない事実という訳だ。
まぁ彼女の中では俺はまだ封印されていることになっているのだから、その人物が突然目の前に現れれば動揺するのも無理はないか。
そんなことより、俺は彼女の反応から敵対する意思は一切感じられないことに安堵していた。少なくとも会ってすぐ喧嘩という事態には陥らなくて何よりだ。
「まぁまぁ、まずは落ち着けって。取り敢えずその姿元に戻ったらどうだ?さすがにデカすぎて話しずらいだろ」
シンリーが混乱するのも無理はないが、それでもいつまでも魔人化した状態では話が進まないので、まずはそれを解除してもらうよう促す。いつまでも臨戦態勢でいられては俺も落ち着かないからな。
「そ、そうね、分かったわ……」
俺の言葉に従う様に、シンリーは魔人化を解除し元の人型へ戻った。ルトリィと同じレベルの低身長は相変わらずの様で、幼女姿に黄緑色の艶やかな髪がよく似合っている。
この目の前にいる、魔人の中で最も幼い見た目をしている幼女こそが、森の魔人シンリーだ。こうして俺は旅の果てにシンリーとの再会という目的を無事果たした。




