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五章 5.大木の化け物

 再びセロルと合流し仲間が揃った。そして彼女を見失った敵勢が再び攻撃の手を強めてくる。

 当然のことだろう、先程までセロル一人に集中していた攻撃も戻って来たのだから。だが仲間全員で対処するなら、この程度の攻撃などいくらでも耐えられる。


「厄介な陣ですね、どの面から攻撃しても防がれる」

「当たり前だ、こっちはもう完全に攻めを捨てて守りに徹してるんだからよ。いい加減諦めてお家に帰ったらどうだ?」

「馬鹿を言わないで下さい。諦めるのは、あなた達の方です!」


 円陣を組みどの方面からの攻撃にも耐え続ける俺達に対し、敵の隊長はそんな言葉を零してくる。だったらもう諦めて欲しいと願ったのだが、そんな俺のささやかな思いはあっさりと断られてしまった。


「確かにあなた達の守りは非常に固い。ですがどんな陣形にも必ずにも弱点はあるものですよ」

「何――ちっ、今度は上からの攻撃か!」


 何やら偉そうなことをのたまう敵の隊長は、森の木々を利用して高所から円陣の内部を攻撃してきたのだ。遠くから飛ばされる魔石のつぶては霧の影響で直前までほとんど気付くことが出来ず、守る為には体を犠牲にするしか無かった。

 魔石のつぶてはちょうど壁となった俺の肩に命中し、それなりの痛みが体に響いてくる。骨折とまではいかないだろうが、昨日のラリヤの殴りよりは断然強い。


「くそっ、どう足掻いても地の利は向こうにある訳か……ならもうその利点を無くせば俺達の勝ちは確実だ」

「むっ、また来たか。おいアカリ、確かにそれは一理あるがそれが出来ないから今こうして苦労してるんじゃないのか?」

「その通りだよ、っと!でも思いついたことがあるからここは俺に任せてくれ」


 状況を打破するには、敵の有利をまず対等にまで落とさなければならない。だがそれこそが一番の難関だろうと、ガゼルは襲い掛かる魔石のつぶてを撃ち落としながら正論を言ってくる。

 もちろん彼の言う通りそこが一番厄介な部分ではあるが、俺はある策を思いついていた。


「何か考えがあるみたいね。任せたわよアカリ!」

「おう、俺が抜ける分は頼んだぞ!」


 マリナからお許しの言葉を貰った俺は、策を実行する為一人円陣を抜け出すと霧の奥深くへ身を投じる。


「ま、まさかあの男……全員奴を追いなさい!すぐに動きを止めるのです!」


 俺は単身霧の奥深く、すなわちシンリーが居るであろう場所へと走り出した。俺だけは友の居場所を感覚で掴んでいる為、迷うことなく目的地まで向かうことが出来るのだ。

 そして最初に敵の隊長は森から出ていくよう警告してきていた。それはつまり、これ以上奥に入られると奴らが困るからに他ならない。

 ならばここからは、敵の嫌がることを徹底的にしてやろう。俺の仲間を散々好き勝手してくれたお返しだ。


「へっ、ほらほらー着いてこないと先に進んじゃうぞ〜?」

「このっ、調子に乗って……!」


 奴らを引き付け挑発するように声を掛けてやると、敵の隊長から苛立ち混じりの返事が聞こえてきた。さっきまでの敬語はどこへやら、随分と本性が出てきたんじゃないだろうか。


「隊長、包囲網の展開完了しました。いつでも行けます!」

「ありがとうございます。あの愚か者をすぐに森から追い出しますよ」

「ふむ、そろそろ頃合かな……」


 森を走り続けるも、地形に慣れている奴らの方が機動性は高く、とうとう囲まれる様に散開されてしまった。だがこれでいい、俺は元々一人で先に進む気など無かったし、敵を引き付けらればそれでよかったんだ。


「そんなに森から出て行って欲しいなら、すぐに行ってやるよ。ただし、お前達も道連れだけどな」

「今です!奴を仕留めなさ――えっ?」


 俺を囲んでいた敵部隊は、こちらの動きを止める為一斉に飛び掛ってきた。

 そしてそのタイミングに合わせて、俺は空間魔法を発動する。全員が俺に群がった隙を突いての一網打尽で、敵部隊の大多数と共に俺は森の外へ離脱したのだ。


「助かったぜクウ、良いタイミングだった」

『クアッ!(ふふん、これくらい簡単だよ!)』


 敵をまとめてワープさせてくれたクウにお礼を言うと、脳内で自信満々な声が響いてくる。人から見れば超常現象でも、クウからすれば朝飯前なのだろう。


「ここは、森の外?一体どうして……」

「さて、ここなら霧の効果も無く公平な条件だ。第二ラウンドといこうじゃねぇか!」


 突然森の近隣にある草原へワープさせられた敵部隊は困惑を隠せず明らかな動揺を見せていた。だがそんなのは俺の知ったことでは無い。晒している隙はきっちりと利用させてもらうだけだ。


「おらよっ!」

「ぐっ、貴様の仕業ですか……全員急いで森に戻るのです!」

「させるか、誰一人としてここから逃がしはしない!」


 動揺する敵の隊長に殴り掛かると、その攻撃を受け止めつつすぐに森に戻る様指示を出してきた。折角対等な条件にまで持ち込めたのだから、そんなことは絶対にさせない。

 それに森から連れて来れたのは全員では無かったからな。まだ森に残っている奴らは仲間達が倒してくれるだろうから、その間に俺もここで殲滅しなければならない。


「森には侵入者を残し、我々は森の外に出てしまった。こんな失態ばかりが続いているというのに、これ以上私達の邪魔をしないで下さい!」

「……お前達も色々抱えてるものはあるみたいだな。だが邪魔をされてるのはこっちも同じことだ。譲る気は欠片もねぇよ!」


 森へ逃亡しようとする敵を一人残さず攻撃しつつ、果敢に攻めてくる隊長とも火花を散らして攻防を繰り返す。

 どうやら敵には敵の事情があるみたいだが、そんなことは俺には関係無い。こっちだって目的があって森に来ている訳で、それを邪魔するというのなら、誰だろうと越えていくまでだ。


「さて、それじゃあどちらの目的が果たされるか、そろそろ決着をつけようか……!」

「やるしかないようですね。全員構えて下さい、この侵入者を倒します!」


 一切譲る気のない俺を前にし、敵もようやく覚悟が決まった。

 そうして俺と突然遭遇した人型魔物との争いは、終盤戦へと入っていくのである。











 ――











 アカリが敵を引き連れて森から脱出した頃、森で円陣を組んでいるガゼル達は残された少数の敵を相手取っていた。


「アカリ、どこに消えたんだ……?」

「霧が濃いせいでどこに行ったのか全く分からないわね」

「兄貴無事だといいけど……」


 敵の攻撃数が先程までと比べ格段に減ったことで、アカリが何かしらをしたのであろうことを仲間達は察していた。だが何をしたかまでは分からなかった為、彼らの心配する声は止まないでいる。


「でももう敵の数はかなり減ったみたいですし、さすがはアカリ君ですね」

「ああ、そうだな。しかし俺達だけでは霧に迷ってしまうから動けはしない。今はあいつの帰りを待つだけ――」

「ようやく見つけたわ、この偽物共が!」


 アカリのことを心配しつつも、毎度劣勢を打開してくれる隊長にネネティアは賞賛の声を上げる。

 その言葉にガゼルも賛同しつつ、自分達ははぐれない様にこの場で待機を続けようと言おうとした瞬間、何者かの怒号がその言葉を遮った。


「なっ……なんだこの怪物は!?」

「木?木の化け物……!?」


 怒れる声と共にガゼル達の前に姿を現したのは、推定十メートルはある巨大な体躯を持つ、全身が大木で出来た化け物であった。木の化け物は根を足替わりに、そして太い幹を腕替わりとしてまるで人の形を模してる。

 そう、それはすなわちアカリの旧友であるシンリーの魔人化状態であった。


「あなた達から強くダーリンの気配を感じる……本当に許せない。私の大切な人に擬態しようとした罪、その体に刻み込んであげるわ!」

「な、何か凄く怒ってるみたいだよ……」

「知るか!今は戦うこと以外は考えるな!」


 シンリーが何故そうも怒っているのか理解出来ないという風に、セロルは困惑してついそう発言してしまう。

 だが敵から異様な気配を感じ取っているガゼルは、警戒レベルを最大まで引き上げ注意した。それ程までに、シンリーという存在はガゼル達に恐怖と威圧を与えているのだ。


「自分達のした愚かさをその身で味わって悔いるがいいわ……」


 怒りで我を忘れかけているシンリーは、本気の殺意をもってガゼル達の前に立ち塞がる。

 こうしてアカリが不在の中、シンリーと仲間達は最悪の形で出会ってしまったのだった。


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