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五章 3.シンリーは敵か味方か

 霧の中に潜む敵の魔の手によって、セロルの姿が消えた。

 彼女を霧から探し出しつつ、こちらの被害をこれ以上出さない為には、俺が隊長として冷静に対応しなければならない。


「俺達の中で最も索敵能力が高いのはクウか、ならやることは一つだな……」

「クウ?(あれ?融合はもういいの?)」


 クウと融合している俺はその恩恵で、それなりに気配の探知には優れている。だがそれだけではこの迷いの霧の中からセロルを見つけ出すのは非常に困難であった。

 だからこそ、セロルを最速で見つけ救出する為に、俺はクウとの融合を解除する。


「いいかクウ、これから単独で動いてセロルを探しここに連れ戻してくるんだ」

「クウー?(アカリは一人で平気?)」

「ああ、俺にはクウから貰ってる魔力がまだまだ残ってるし、仲間達も居るから心配すんな。それよりセロルの方を任せるぞ」

「クアッ!(分かった!すぐに見つけてくるよ!)」


 クウの索敵能力は俺と融合している時よりも遥かに高い為、この濃い霧であれば単独で動いてもらった方がセロルを発見するのは速い。だから俺は一時自分の戦闘力を犠牲にすることで、クウを単独で向かわせたのだ。


「これでセロルはもう大丈夫だ。という訳でここからしばらく俺は戦力外になる訳だから、戦闘は任せたぞ皆!」

「そんな他人任せなことを自信満々に言うな。まぁ、戦いなら望むところだがな」

「えぇ、ありがとうございますアカリ君。クウさんが頑張っている間に、私もやれることをきっちりとやらせて頂きます!」


 完全に他人任せな指示にガゼルは若干呆れつつも、口元は楽しげに笑っていた。そして彼の手には、学園に居た時何度も世話になった魔道兵器、紅業火一式が握られている。

 ネネティアもセロルの無事を信じて自らのすべきことをする為、己の魔道兵器を強く握り締めていた。


「私もやります、主様は私の後ろに隠れていてください……」

「おっ、お前も戦うのかメイド?」

「メイド言うな!です……。私は主様の警護隊隊長なんだ、何もせず無能なまま終わる訳にはいかない、です」


 ガゼル達の闘気にあてられてか、ラリヤもやたらとやる気を出してくれていた。実際魔道兵器を扱った際の彼女の実力は知らない為、どれ程の戦闘スキルがあるのかは見ものである。

 ただ、俺への罰で必死に敬語で話そうとしてくれているのだろうが、そのせいで逆に言葉が可笑しくなっていて異様に不自然ではあるが。まぁ面白いからこのままでいいけど。


「侵入者め!」

「むっ、敵が来たわよ!」


 ラリヤと話していると、遂に敵の攻撃が再開された。声からして狙われたのはマリナの方だが、彼女は俺とは円陣の反対側に居る為どうなっているかが確認出来ないでいる。


「平気かマリナ!?」

「えぇ、すぐに追い返したわ。でもあいつらこちらを倒す気はあんまり無いみたい」

「どういうことだよ?」

「たぶんセロルを攫った時みたいに、私達の油断を誘って惑わすのが目的よ。この霧はそういう策が一番有効でしょうし」


 襲われたマリナはすぐに敵の狙いを分析し、その情報を共有してくれた。奴らが強気で攻めてきていないということは、彼女の言う通りそういう狙いもあるのだろう。

 だが妙だ、この霧はシンリーが出しているものであって自然現象で起きているものでは無い。それを奴らが利用しているということは、奴らはシンリーと繋がりがあるということになる。

 何故人型の魔物がシンリーと共闘しているのかは知らないが、もし奴らが繋がっているのだとしたら、最悪シンリーは俺達の敵になる可能性もあるということか。


「くそっ、ただ友達に会いに来ただけだってのに、まさかこんな事態になるとはな……」

「珍しく動揺してるな、森に敵が居るのはそんなに想定外だったか?」

「いや、そういう訳じゃない。シンリーが俺達の敵かもしれないことがだよ」

「な、なるほど、魔人が敵に回るということか。それは厄介だな……」


 シンリーと奴らの関係を上手く掴みきれず愚痴を零すと、ガゼルがそんな俺の態度を珍しく思ったのか煽ってきた。だがその内容を伝えると厄介な存在が敵に回る可能性が高いという事実に、明らかな動揺をみせる。

 魔人達の実力は恐らくあのメルトとほぼ同等だろうから、ガゼル達じゃ勝ち目はほとんど無い。だからもしシンリーが敵だと分かったなら、俺とクウしか対抗出来る者はいないという訳だ。


「何かしらの誤解であることを願うばかりだな。こんなのはただの希望的観測だけど……」


 正直、シンリーが敵じゃないという確証は非常に薄い。だから今は、最悪の事態も想定して覚悟を決めておくべきだろう。


「ねぇアカリ君、これが霧を使う作戦っていうのは理解出来るんだけど、それにしては相手の攻撃頻度ちょっと少なくない?」

「と言うと、先輩は敵に別の狙いがあると思うんですか?」

「えぇ、例えば私達をここに縛り付けて時間稼ぎをして、その間にもっと強い人を呼びに行ってくるとか、そういうのもあると思うのよ」

「……一理はありますね」


 俺がシンリーの立ち位置を懸念していると、セルシー先輩が敵の別の問題を指摘してきた。確かに先輩の言う通り、敵の攻撃頻度は予想よりも少ない様に思える。いくら霧を活かした戦い方とはいえ、これだとただ時間稼ぎをしているようにしか思えない。


「敵の狙いか……考えられるのは現状孤立しているセロルを先に倒そうとしているか、もしくはもっと増援を呼びに行っているか。あるいはその両方と言う場合も有り得るな」

「煩わしいな。俺達は今完全に後手に回ってるから、起こることを順々に対処していくしかないのか……!」

「大丈夫、セロルの方はクウが向かっているから必ず連れ戻してくれるさ。だから俺達はつまり、もう一方を警戒していればいい」

「……分かった。隊長がそう言うなら、今はクウを信じて耐え抜く」


 後手後手に回っている現状をガゼルは煩わしく思い強く歯軋りをしていた。だがセロルに関しては俺が絶対の信頼をおくクウが助けに向かったのだ。だからそちらは何も心配はいらない。

 それよりも警戒すべきなのは、奴らがシンリーと組んでいて彼女を呼びに向かっていることだ。もしそうであるなら、こちらももう手段を選んではいられないのだから。


「敵の狙いはいまいち掴みきれないが、とにかく今は出方を伺うしか無い。どうにか耐えきるぞ!」


 奴らがどんな作戦を展開していくかの予測が全く出来ない現状では、今はひたすらに耐えて待つのみである。

 俺は仲間達にそう掛け声を上げ、より一層警戒心を強めていく。












 ――











 アカリ達が円陣を組む数秒前、敵の手に捕まったセロルは迷いの霧の影響もあり一瞬にして分断を余儀なくされた。


「はぁ、はぁ……敵の狙いは、僕達を分断して個々への集中攻撃だったんだ……」


 アカリ達とはぐれたセロルは、霧を利用しての奇襲攻撃を何度も受け、体力を大きく消耗していた。魔力だけは長い鍛錬の成果でまだまだ有り余ってはいるが、それでも霧という慣れない戦場に体が適応していない為、体力と精神力は大きく奪われている。


「っ、また来た!」

「しぶといですね。諦めてくれれば、痛い思いをせずに森から出してあげますよ?」

「冗談じゃないよ。皆が頑張ってるのに、僕だけ諦める訳無いだろ……!」

「そうですか、ならこちらも容赦はしません」


 保安部隊の指揮を任されている女性は、慎重な攻めで被害をほとんど出すことなくセロルを着実に削っている。

 ここまで戦い続けてきたセロルは、個々の実力なら自分の方が勝っていることを理解していた。だが、連携の精度と物量によって力を上回られ、ここまで追い込まれてしまった現状に恐怖している。


「……それでも、僕は兄貴の部隊の一員で、誇り高き勇者一族の末裔だ。こんな所で負ける訳にはいかない!」


 だがそんな中でもセロルは未だ諦めることはなく、アカリより授かった剣技を信じひたすら敵に食らいつく。


 こうして森の脅威は、訪れた旅人に鋭い牙を剥き少しずつ削っていくのだった。


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