五章 2.霧の撹乱
…雑談を交えながらも、俺達は着実にシンリーの元へと近づいていっている。直感でというのもそうだが、先程から霧がより一層濃くなってきているのがその証拠だ。このまま進んで行けば、後一時間もしない内に会うことが出来るだろう。
だが残念なことに、そんな俺達の歩みを止める存在が現れてしまったが。
「不法侵入者達よ、速やかにこの森から立ち去りなさい」
「なっ!う、嘘だろ、こいつらのあの見た目は……!」
「さもなくば、森の怒りがあなた達に苦痛と恐怖をもたらすこととなります」
森を進行する俺達を止める為囲む様に現れたそいつらは、全員が全員体のどこかしらに魔石を生やしていた。片腕や片足、片目や片耳等、全員様々部位が魔石となっている。半透明な白色の魔石は、霧の中でも薄らと煌めいていた。
よもやこんな所で宿敵メルトの同族に再会しようとは、本当に予想外なことはいつでも起こりうるものだ。
「あの体に生えた半透明の魔石……こいつら、人型の魔物か。何でこんな所にいやがるんだ……!」
相手の数は約十五人程で、全員が敵意を剥き出しにして俺達を睨みつけている。こいつらがこの森で何を企んでるのかは知らないが、それらは全て倒した後に聞き出してやろう。
ともかく向こうが戦うというのなら、こちらもそれ相応に対応しなくては。
「全員戦闘準備だ。ただしあいつらは人型の魔物と同族の可能性が高いから、決して油断はするなよ……」
「なるほど、あいつらがこの前の魔物を使役していた本体と言う訳か」
「同じ連中かは知らねぇが、同族であることに間違いは無いだろうからな」
俺の発言を聞いてガゼルが鋭い目付きで敵全体を睨みつける。彼らもまた、連中の使役する魔物によってそれなりの迷惑を蒙っていた為、怒るのも無理はないことだ。
「だがアカリ君、彼らは前に遭遇した者達と服装が偉く違くないかい?」
「確かに、言われてみれば今目の前にいるこいつらは、やけに野性的な格好だな……」
体から生えた魔石にばかり目が奪われてしまい気づかなかったが、プラチウムに言われて改めてよく見てみると、彼らの格好は妙にみすぼらしがった。男性は上裸で腰巻きとして気休め程度の布を巻いているだけで、女性陣も簡素な布をワンピースの様に被っているだけである。
以前戦った連中はいかにも戦士という感じの服装を身に纏っていた為、服装だけなら対極の存在だ。まさか、姿が似ているだけで別の存在ということなのか?
「逃げずにお喋りとは随分な余裕ですね。ならば森の怒り、とくと味わってもらいましょう」
「っ、ゆっくり考えてる暇は無いみたいだな。なら、勝った後で全部聞き出してやるよ!」
目の前の連中がメルトらの仲間かどうかを確認しようにも、奴ら自身がそんな暇を与えてはくれなかった。やる気というのなら、全てを考えるのは勝ってからだ。
「はあぁっ!」
「いくぞクウッ!」
『クアッ!(任せてアカリ!)』
敵の一人、俺達にずっと警告を発してきた恐らくは連中のリーダーであろう女性が、先行して突撃してきた。頭が最初から突っ込んでくるのだから、俺も負けじと手早くクウと融合し迎え撃つ。
俺の拳と彼女の魔石の腕が衝突すると、激しい火花が霧の中で赤く燃えた。
「ぐうぅ……きゃあっ!」
「なるほど、この手応えからしてメルトよりは格下か」
女性の魔石は鋭利な刃物となって襲ってきたが、それは俺の拳によって容易く粉砕される。
魔石の強度、筋力、攻撃の速さ、そして業そのどれをとっても、以前戦ったメルトには遠く及ばないものであった。あの男が特別だったのか、もしくは彼女達が単純に弱いのか。その真相は分からない。
ただ一つだけ言えることは、俺はこいつらには負けないという確信がある。
「よくも、やってくれましたね……一人でダメなら連携で攻めるまでです。皆さん広がって下さい!」
向こうも俺との一体一じゃ勝てないことはすぐに分かったらしく、すぐに連携での攻めにシフトした。その判断の早さは見事である。だが、そっちが数で来るのなら当然こちらもそれに対抗するまでだが。
「数は向こうの方が若干多いか、だが紅業火の敵ではない……吠えろ!」
「赤い魔弾!?」
「ぐっ、威力が高くて近づけない……!」
ガゼルの言う通り数は向こうの方が上だ。だが個々の実力や連携をもってすればそんなものは簡単に覆せる。ガゼルは早速紅業火を乱射することで、早速そのことを証明してみせてくれた。
「僕もやるよ……はぁっ!」
「なっ、い、いつの間に……?」
「こいつ、速い!」
「兄貴に鍛えられた僕の剣技で、今度こそ役に立ってみせる!」
ガゼルの魔弾に続く様に戦場を駆け巡るセロルは、光無き剣技を鮮やかに振るい次々と人型の魔物を斬り捌いていく。
奴らも咄嗟に自身の魔石で防御する姿勢を見せてはいるが、完璧には防ぎきれず瞬く間に敵の数が減っていった。
「ほほぉー、アカリ君の実力は知っていたが、彼の部隊員もなかなかやるね」
「あの子達はアカリが直々に魔改造したから当然よ」
「えっ!あ、あれって魔改造だったんですか!?」
ガゼル達の戦いぶりを後方で観戦していたプラチウムは、その実力に感嘆の息を漏らしていた。一応推薦組相手にも勝つくらいには、部隊の実力も仕上がっているので当然だ。
ただマリナが誤解を招くことを言い出し、ネネティアがそのことに本気で動揺しているので、そこだけはきっちり否定しておかなければ。
「おいマリナ、魔改造だなんて人聞きの悪いこと言うなよ。俺はただ俺なりに普通の仲間を訓練しただけだ!」
「魔剣が見えなかったり魔弾が赤いののどこが普通なのよ!どう考えても魔改造でしょ!」
「い、いや確かにちょっと普通とは逸脱してるかもしれないけど、せめて個性と言って欲しいな!」
マリナに反論すると、何故か逆に物凄くキレられてしまった。確かにセロルやガゼルの戦い方は少し特殊かも知れないが、俺としては彼らの長所を伸ばしただけで変なことをしたつもりは無いのだが。
「お喋りとは余裕ですね……でももうそんな余裕はさせませんよ」
「むっ、流れが移ったな」
俺とマリナが下らない言い合いをしていると、敵の女性は若干苛立ち混じりの声音でそう言い放ち、再び戦い方を変えてきた。さっきまでは集団の利を活かして数で攻めて来ていたというのに、その攻勢が突然止んだのだ。
霧に紛れてこちらの様子を伺っている気配は感じ取れるのだが、何分視界が悪い為正確な位置を捉えられずにいる。感覚の鋭い俺ですらこうなのだから、仲間達はもっと苦しいだろう。
地の利は完全に向こうにある。それはすなわち、戦いが長引けば不利になるのは俺達の方ということであった。
「全員密集体系で陣を組め!霧に飲まれてはぐれるなよ」
霧の中でバラバラに動くのは命取りだ。その為俺は素早く次の指示を出して背中合わせで円陣を組む。そしてその中にルトリィやプラチウムらの戦えない者に入ってもらうことで、守りの陣となった。
これでどこから敵が襲ってきたとしても、誰かしらが反応してすぐに対処が可能である。
「っ!おいアカリ、セロルが居ないぞ!?」
「はぁ!?う、嘘だろおい……!」
だが、動きは敵の方が速かったらしく、残念ながら俺達が陣を組んだ時には既に仲間が一人、霧の中に姿を消していた。いつ捕まったのかすら一切分からぬまま、誰にも気付かれることなくセロルは敵の手に落ちたことになる。
完全に油断していた。シンリーの霧とは、これ程までに俺達から情報を遮断する脅威だったというのか。
「アカリ君、急いでセロルさんを探しに行かないと……!」
「落ち着け、今陣形を崩したらそれこそ敵の思うつぼだ」
「だが放ってはおけないだろ!」
「分かってる、策ならあるからそう慌てるなよ」
大切な仲間が姿を消したことによりネネティアとガゼルは酷く動揺し、すぐに救出に向かおうとした。だがこんな状況で下手に動けば二次災害に繋がり、今度こそ本格的に手が付けられなくなる。
この場に俺がいる以上そんなことは絶対にさせない。そうならない為にも、俺は隊長としての責務を果たさなければ。




