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五章プロローグ メルト達の世界

 荒れ果てた大地、薄汚れた川、枯れかけた草木が辛うじて大地に細々と芽吹いている。ここはそんな悲しみの溢れる世界であった。

 メルト達の暮らすこの世界の名は『モンクシュッド』、終わりが迫る大地とそれを食い止めようと抗う勇敢な人々が暮らす、汗と涙、怒りと哀しみが渦を巻く修羅の世だ。


「まだ滅んではいないみたいだな……」


 アカリ達との戦いから帰還したメルトは、己の生まれ育った世界がまだ残っていることに安堵の息を漏らす。世界が滅びに向かっている中で、彼の生まれ育った街もそれは例外ではなく、どの家も壁や屋根が剥がれ落ちており、街全体が廃墟と化している。こんな風景の街が、このモンクシュッドでは至る所に点在していた。

 アカリ達の暮らす文明の栄えた世界とは対照的に薄汚れた街中で、荒廃し鉄の錆びた匂いが彼の鼻を強く刺激する。


「おぉ、帰ってきたか、メルト……」

「遅くなった、まだくたばってなくて安心したぜ」

「へっ、当たり前だ。負けっぱなしで、死ねるかよ……」


 街へ帰還したメルトは、真っ先に病棟でベッドに横になっている仲間の元を訪れた。

 メルトが病室に入ると、無事に帰還した友を喜ぶ様にその者はか細い声を上げる。全身を包帯に巻かれ、視界すらも奪われた状態である彼は、足音と声音のみで友の存在を確認していた。


「具合はどうだ?」

「へへっ、悪くねぇな。院長も、明日には退院出来るってよ……」

「強がるな馬鹿が、お前はずっと寝てろ。その間に……俺がこの世界を救ってやるから」

「……すまねぇ、任せる」


 ベッドに横たわりながら強がりを述べる友を前に、メルトはそう宣言する。その力強い言葉に友は開かない目から一筋の涙が零れ落ちた。


「それじゃあ俺はもう行く。お前はゆっくり休んでおけよ」

「ああ、すぐに元気になって、復帰してやるから、待ってよろ……」

「当たり前だ」


 友の無事を確認したメルトは、そのまま病室を後にした。別れ際に友から放たれた言葉を背に浴びた彼は、友の決意を己の心に深く刻み込みその目に闘志を滾らせる。


「あの馬鹿はちゃんと元気にしてたか?」

「ああ、今すぐ走り出しそうな勢いだった」

「なっはっは!そりゃ上々だな!」

「行くぞキャスマン。俺達は俺達のすべきことをする、愛すべきこの世界の為に」


 病室の外でメルトの戻りを待ち構えていたキャスマンは、仲間がまだ無事でいることを豪快に笑って祝福した。そんな頼もしい仲間を引き連れて、メルトは再び歩き出す。向かう先は、世界の為にその身を賭して戦う仲間達の会合だ。


「メルト、それに他の者達も長旅ご苦労じゃったな。じゃが疲れとるところ申し訳ないが、この世界には時間が無い。早速成果を聞かせてくれるかの?」

「もちろんだ、まず俺達は――」


 街を取り仕切っている老婆とその他役人達へ向けて、メルトはアカリ達の居た世界で行ってきたことを淡々と報告し始めた。

 彼らの目的はアカリ達の世界を滅ぼすことにある。だからこそまずは人口を減らす為に剣舞会を襲撃し、更に頭を潰そうと各所で区長の誘拐を目論んでいた。だが結局それらの行為はアカリという存在によって妨害され、志半ばで自らの世界へ帰還したのだ。


「ふむふむ、作戦は失敗か。いや、お前達は良くやったよ、世界を滅ぼすという目的自体が土台無理な話じゃったのだから」

「ちっ、あの変な男さえいなければ上手くいっていたのに……!」

「全くだ、魔物の真の恐ろしさを知らない連中なんかに負けちまうとはな」


 メルトからの報告を聞き終わった老婆は、少し寂しそうな顔をすると、すぐに作戦に赴いた者達を労い始めた。そんな老婆の言葉を受けて、トリーラとキャスマンは悔しげに強く唇を噛み締める。

 だが、そんな中でただ一人だけ未だ冷静さを保っている者がいた。世界滅亡を目論んだ部隊の隊長であるメルトである。


「どうしたんじゃメルト、まだ何かあるのか?」

「ああ、上手くいけばあっちの世界を滅ぼすことなく俺達の世界を救う方法があるかもしれない」

「ほほぅ、それは非常に望ましいものじゃな。ぜひ聞かせてもらえるかぇ」

「……聖獣だ」


 世界を滅ぼす必要は無いという一番望ましい手段を提示するメルトに、老婆は真剣な眼差しで答えを待つ。そしてそんな老婆に向かってメルトが言い放ったのは聖獣という謎の存在である。


「せ、聖獣、じゃと?いやしかし、聖獣ははるか昔に全て滅んだはずじゃ……」

「確かにこの世界の聖獣は全て滅んでいる。だが、向こうの世界にはまだ聖獣が存在したんだよ。そしてそれを使役する人間もな」

「な、なんと!聖獣が存在するのみならず、あまつさえ使役する者が居るというのか!?」

「ああ、だから向こうの世界からそいつを、いや聖獣だけでもこっちに持って来れればこの世界を救う鍵になるかもしれない」


 聖獣と、そしてそれを使役する人間。その者達はメルト達の暮らす世界を救う鍵になる可能性を秘めいる。そう確信しているメルトは、次なる目標を既に見定め覚悟を決めていた。


「だが聖獣一匹を連れて来たところで、この世界全体をどうにか出来るものなのかよ?」

「さぁな、そんなことは試してみないと分かるわけないだろ。だがその聖獣と一人の人間に俺は敗北したんだ。つまりはそれ相応の力持っている奴らに間違いは無い」

「メルトが負けただと……!?なるほど、それなら世界の命運を賭ける価値はあるかもしれないな」


 メルトの進言に疑問をもつ者は何人かおり、代表として役人の一人が声を上げた。だがその発言はメルト自身が敗北したという言葉によって全員を納得させてしまう。

 それ程までにメルトの信頼は厚くその力を認められているのだ。そして何より、強い者でなければ世界を滅ぼすなんて考えを行動に移せる訳も無いのだから。


「なるほど、なら次の俺達の任務はその聖獣の奪取という訳か」

「奴は既に標的に定めている。いつでも行けるわよ」

「よし、次の方針は決まった。早速準備を進めて再びあの世界に乗り込むぞ。今度こそ、あの忌々しい存在を殺す為に……!」


 次なる道標が確定したメルト達は、再びアカリ達の居る世界への進撃を開始する。

 こうしてアカリとメルトは、己の使命を賭け少し先の未来でぶつかり合うこととなるのだった。


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