5話 これだから冒険者は好かないのだ
翌日。
「アルス?いるにゃん?」
「………zzz」
「アルス起きてにゃん!いつまで寝てるニャン!」
「………ふえぇぇぇ………もっと優しく起こして欲しいよぉ………」
「それは悪かったにゃん。でもアルスがふえぇとか言っても可愛くないからやめるにゃん」
「ちょっと何なんですか?!アルスは可愛いんですけど?!」
ミラとリッカが喧嘩を始めそうだったのでミラの口に手を当てて黙らせることにした。
「で、ここににゃんにゃんが来たということは期待していいんだにゃん?」
「にゃん。できたニャン」
煤で汚れた髪の毛を1度振ってから俺に盾を渡してくれるリッカ。
「防御力だけはあるにゃん。でも重いかも」
「いや、上出来だよ。サンキューな」
そう答えて装備することにした。
確かに重いな。
まぁ、でも持てないほどじゃないし行動できないほどでもない。
「いやぁ、でもアルスがちゃんと働いてくれそうで私も嬉しいにゃん」
「いやぁ、本当は働きたくないんだけどなぁ。働いたら負けじゃん?」
「そうかにゃん?」
「家でゴロゴロしてママァァァ!!!まんま!!おしっこ!!!お風呂!!!って叫んだら1日終わってる生活の方がいいっしょ?」
「でもそうしてたら私とアルスは出会えなかったにゃん。私はかっこいいアルスの方が好きにゃん」
一瞬だけリッカと出会った頃の自分を思い出した。
ふっ………たまにはそういうのも悪くないかもな。
「仕方ねぇなぁ行ってくっか」
「扱いやすいにゃん」
「て、照れるぜ」
そう答えて俺たちは準備に取り掛かることにしたのだが。
「おい、姉ちゃん」
「はいにゃん」
柄の悪い男2人が店にやってきていたところだった。
冒険者には柄の悪い奴が多いがここまでのは珍しいな。
開口一番おい、姉ちゃんはやばい。
「言ってたもん出来てんだろうな?」
「出来てるにゃん、これにゃん」
そう言ってリッカは槍を男の1人に渡した。
「何だこれ?」
男が首を捻る。
「槍にゃん」
「俺こんなもの頼んでないよな?」
「え?で、でもお兄さん達このカスタムで………って」
「だいたいさっきから何だ?にゃんにゃんにゃんにゃんうるせぇんだよ」
「こ、これは………出ちゃうにゃん」
「まぁいい。で、この槍何なんだ?言ったもんと違うしここ傷入ってんだけど」
「それは元から………」
「うるせぇ!お前が付けたんだろうが!」
怒鳴る男。
「俺らのこと誰か分かってんの?Bランク冒険者!分かる?お前らみたいにぬるい人生送ってんじゃねぇんだよ!武器に命預けてんだよ!こんな適当な整備してんじゃねぇぞ!」
「ちゃ、ちゃんと………した………にゃん………」
「してねぇから言ってんだろうが!賠償しろよな!賠償」
「そうそう。ばーいしょー!ばーいしょー!」
2人目の男が復唱し始める。
「それにこの猫耳付けてんだろ?」
「い、痛いにゃん!」
リッカの耳に手を伸ばす男達。
もう見ていられなかった。
「おい」
俺は槍を受け取った方に声をかける。
「何だてめぇ………」
「今すぐ失せろ。不愉快だ」
「あ?賠償しろって言ってんだよ!」
「衛兵呼ぶぞ?」
「呼べるもんなら呼んでみな!そこの姉ちゃんがめちゃくちゃしてくれたからこうなってんだろうが!」
呼んでも自分たちの味方をしてくれると思っているな。
「はぁ………俺は鑑定士だ」
そう言ってギルドカードを見せつける。
「え、Sランク鑑定士………」
「その俺がその槍はちゃんとした代物だって言えば衛兵はどちらの言い分を信じるか………分かるよな?」
「うるせぇよ!ガキが!」
ブン!
男が殴ってきた。
「そこだ」
「ぐっ!」
急所に膝蹴りをねじ込む。
「や、野郎!」
ガン!
近付いてきたもう1人の顔面に拳をねじ込む。
「お、俺の歯が………」
「当たりどころが悪かったか?それは悪かったな」
「ば、賠償だ!賠償しろ!」
「不愉快な声を耳に入れるな。全部へし折って喋れなくしてやろうか?」
「ひ、ひぃぃぃいぃ!!!!ゆ、許して!!!!!」
男二人は槍を忘れて走り去っていった。
「ちっ………くそが………」
だから冒険者は嫌いなんだよ。
どいつもこいつも思い上がってるようなクソッタレだ。
しかもこういう仕事をしている人たちをバカにするクズだらけ。
「あ、ありがとにゃんアルス」
俺に抱きついてくるリッカ。
「こ、怖かったにゃん………」
「………仕方ないな。リッカも来るにゃん」
「え?」
「あいつがいない今またここで店を開いても似たようなのが来る可能性がある。それなら帰ってくるまでは俺と一緒にいないか?って」
頭を撫でて小さく笑う。
「にゃん!」
※
俺たちは塔の前までやってきた。
「リベンジにゃん!」
「そうだな。面倒なんだけどねぇ」
ダンジョン攻略なんてやめて家でゴロゴロしていたいけどそうもいかない状況だ。
「そういえばどうしてアルスは急にパーティ参加してくれたの?」
「報酬だよ。報酬」
「報酬?」
「塔自体に報酬があるのは知ってるか?攻略したら報酬がもらえるんだけど、それが結構な額でさ」
「あれだけ塔に行くの嫌がってたのに」
「だって塔に行かないとお金貰えないし」
「働けば………」
「働けば負けだろ?!それだけは断じてないのだ!」
「何と戦ってるの?」
そう言われたが何と戦っているのかは自分でも分からない。
だが………
「ふっ………自分………かな?」
「………」
「冷めた目で見るな、おい」
「まぁいいや。私としても助かってるわけだし。よろしくねアルス」
「あぁ。よろしくな」
そう答えて前を見るとギルドの担当の者に声をかける。
「塔に挑戦したいんだが」
「カード見せて貰えますか?」
頷いてからカードを取り出して見せる。
「鑑定士のアルス様ですね。………Sランク………と。最低条件を満たしていることを確認しました」
そう言うとゴゴゴゴゴと扉が開いた。
「お気をつけて」
「あぁ」
俺たちはついに塔の内部へと入っていくのだった。