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2話 少女が勧誘に来た

 店を開けたが客は来ない。

 これもまた素晴らしい事だ。

 客の相手をしなくていいからな。


「客来ないですね」

「助けて〜ミラえも〜ん」


 カウンターでダラダラしていると何か言ってくるミラ。

 ミラリア、通称ミラは俺のママみたいな存在だ。

 年齢は俺とさほど変わらないがそれでもママだ。

 金髪のふわっとした髪の毛を肩で切りそろえた少女。


「今日も長閑です」

「いつも閑古鳥が鳴いてるからなこの店は」


 そう答えて立ち上がると店の売り物の手入れを始める。

 鑑定スキルを起動する。

 見慣れたウィンドウが視界の端に現れる。


【スキルが起動しました。こちらのアイテムの手入れは必要ありません】


 スキルを停止する。

 どうやら余りにも客が入らなく手入れしまくっていたからもう手入れするアイテムもないらしい。


「先代の時はいっぱい来てたんですっけ?」

「そうだな」


 俺は先代、爺さんに拾われてここにきた。

 そしてその先代はと言うと、いつからそこにあるかは分からない【天の塔】と呼ばれる最高難易度のダンジョンで命を散らした。


 それが10年前。

 俺が当時8歳だったころ。


「アルスってどうしてそんなに冷たいんですか?」

「冷たいか?」

「何か素っ気ないんですけど」

「ママァァァァァァァ!!!!僕のお店もお客さんに来て欲しいよぉぉぉ!!!!」

 

 ギュッ!

 ミラの体に抱きついた。


「………」

「こんなことして欲しいってわけ?」

「か、可愛いです………」

「………」


 黙って離れた。

 何なんだ。こういうのがお望みだったわけなのか?


「天下の【グラウンド・ゼロ】がこんな子供みたいな趣味してるとは誰も思わないでしょうね」


 誇らしげに口にする彼女。


「え?天下のグラウンド・ゼロ………?」

「あっ………」


 ミラはタイミングが悪いことに気付いたらしい。

 その時丁度ガチャりと扉が開かれて少女が中に入ってきたところだったから。


「グラウンド・ゼロってあのグラウンド・ゼロだよね?」


 少女がズカズカと店内に入ってきて俺たちに詰め寄ってきた。

 どうやらボロボロの姿を見る限り奴隷みたいだが。

 黒い髪の毛は手入れがあまりできていないのか痛んでいるようにも見えた。


「ち、違いますよ!そっちのグラウンド・ゼロじゃなくて………」

「じゃあどのグラウンド・ゼロなわけ?」


 少女が聞いてきた。

 戸惑うミラを見ていると仕方ないにゃあという気持ちが湧いてくる。

 それにこのまま居座られても面倒だ。


「こいつは俺のことをグラウンド・ゼロだと思い込んでるだけだよ」

「貴方が………グラウンド・ゼロ?」

「違う。この女が思い込んでるだけ。こんなところに天下の英雄様がいるわけないだろ?」


 何故こいつはこうも面倒事を呼び込もうとしてくるのだろうか。

 適当な事言って帰ってもらえばいいのに。


「ち、違いますから!アルスはグラウンド・ゼロですから!あの伝説の冒険者なんですから!」


 何故そうやってかき混ぜようとしてくる。


「違う」


 改めてそう口にしておく。


「伝説の冒険者グラウンド・ゼロは全てを踏破した。しかし俺は何も出来ていない。あれは化け物だよ」


 この際だから話しておこうか。


「俺は確かに全てのダンジョンに入ったことがある。でも全部志半ばで敗走した。ここに並んでるアイテムの殆どはその時ダンジョンで手に入れたものだよ。でも全部低層のものだろ?」

「確かに………これは西のこっちは東の………全部のダンジョンに潜ったのは嘘じゃなさそう」


 納得してくれる少女。


「分かったなら帰ってくれ。俺はこれから寝るんだから、ママ子守唄歌って!」

「え?ちょっと?!私お客なんだけど?」

「いや、今の流れからして帰るところだよ。じゃっ達者でな」

「びぇぇぇぇぇ。それはおかしいぃけどぉ!!」


 泣きながら俺の服をつかんで先に行かせようとしない少女。


「一体なんなんだよ」

「この辺りに鑑定士が余ってるって聞いたからパーティの勧誘に来たの」

「余り物みたいに言うな悲しいから。びぇぇぇぇぇって泣きたいのは俺だよ。びぇぇぇぇぇ。ママァァァ。余り物扱いされてりゅの!!」


 俺はミラに抱きついた。


「まぁまぁ………よしよし。アルスは悪くないでしゅよー」

「え?何これ私が悪いのかな?まぁいいや。ところで貴方が鑑定士だよね?古物商みたいだし」


 少女が俺たちの方に近付いてきた。


「貴方がグラウンド・ゼロかどうかはこの際どうでもいいんだけどね」


 少女はミラに抱きつく俺の顔を覗き込んできた。


「私と組まない?」

「やだもーん」


 場に静寂が舞い降りた。


「俺はミラとスローライフを送る」

「ア、アルス………ちょっと………そう結婚するみたいに言われると恥ずかしいです」

「そこをなんとかお願い出来ないかな?」


 何故そんなに真面目な顔をするのだろう。適当に流すのは失礼ではないか


「ふむ………」


 俺はミラから離れて少し考えるが。


「悪いな。今のところまたあの塔に登りたいとは思わない」

「そ、そうなんだ………ごめんね」


 そう言って店を出ていく少女。


「アルス………」

「いいんだよ。これで」


 俺の服の裾を掴んでくるミラに答える。


「あの塔は誰も幸せにしない」


 あんなダンジョンあっても誰も得をしない。





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