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魔王令嬢の教育係 ~勇者学院を追放された平民教師は魔王の娘たちの家庭教師となる~【Web版】  作者: 新人@コミカライズ連載中
第一章:クビから始まる新生活

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第32話:謎の五女

「フェム! 大丈夫か!?」


 フェムのすぐ側まで近寄る。


 ローブに全身を包んだその少女は、首を傾げながら俺を見ている。


 何故そんなに慌てているのか分かっていないようだ。


「フェムー!」


 イスナを先頭に三人の姉妹も遅れて駆け寄ってくる。


「大丈夫だった!? 怪我はない!?」


 イスナはその側に到達するや否や、その体中を手でまさぐって安否を確認しだす。


 その身体には怪我どころか、大きなローブに僅かな焦げ跡すらついていない。


「よかったぁ~」


 妹が怪我をしていなかった事に安堵したのか、イスナはその場にへなへなと崩れ落ちる。


「いつも神出鬼没だけど……、まさかこんな所から出てくるなんて夢にも思わないよね……」


 サンは危うく妹を大怪我させかけたイスナを気遣うように言う。


 その視線の先にはフェムが出てきた茂みがある。


「それに関しては俺の落ち度だ。もっとしっかりと確認するべきだった……」


 自身の落ち度を反省しながらも考える。


 誰も居ない事を確認したはずだったが、現実としてフェムはそこに居た。


 何か落ち度があったのか、それとも……。


 先の出来事を思い出す。


 イスナの魔法はフェムに当たる直前に消滅した。

 最初はイスナの魔法に何かミスがあったのかと考えたが、それにしては不可解な消え方だった。

 俺の探知にひっかからなかったのも、それと何か関係があるのかもしれない。


「ん? あれ?」


 少し考え込んでいる内にあの特徴的な全身ローブの少女の姿が無くなっている。


「フェムはどこに行った?」

「フェムちゃんならあっちに行きましたけど……」


 フィーアが広場を挟んで反対側、屋敷のある方向を指差す。


「い、いつの間に!?」


 あんな事があったというのに、特に動揺するような様子も見られずに平然と歩いている。


「今朝はお前らだけで続けててくれ。俺はフェムの様子をもう少し見てくる」


 そう言ってから三人を置いて、フェムの元へと駆け寄る。


 あの不可解な現象は一体何だったのか、本人なら何か知っているかもしれない。


 広場を横断し、建物の角を曲がっていった彼女を追う。


「あれ? どこに行った?」


 後を追って角を曲がったところでその姿を見失う。


 あの歩く速さならそう遠くには行ってないはずだが……。


 周囲を見渡すとすぐにその後ろ姿を見つけた。


「いつの間にあんなところに」


 再び建物の陰へと歩いていくその小さな後ろ姿を追いかける。


「……あれ?」


 曲がったところでまた見失う。


 周囲を見回すと、今度は少し離れた花壇の間でふらっと歩いているその姿を発見する。


 追う。


 見失う。


 見つける


 追う。


 そんな事を何度か繰り返し。


「や……やっと追いついた……」


 ただ歩いているだけのはずなのに。


 あっちに行ったかと思えば、こっちに行ったりとまるで幽霊みたいだ。


 膝に手を置いて大きく呼吸をする。


 心身ともにこれだけ消耗したのはいつ以来だろうか。


 フェムは小首をかしげながらそんな俺を見ている。


「さっきのは本当に大丈夫だったのか?」


 フェムは首を小さく縦に振った。


 実際にローブにもそれらしい傷はついていないので我慢していたり、嘘をついているようには見えない。


「そうか、ならよかった……」


 魔法が消失したあの謎の現象について尋ねる前に、まずは軽い世間話から入る。


「それで、あそこで何をしてたんだ? 散歩か?」


 フェムは首を左右に小さく振って否定する。


「違うのか、なら何をしてたんだ?」


 広場の向こう側は木々が生い茂っているだけで特に何かがあるような場所ではない。


 サンなら森の中で遊んでいる姿を想像しやすいが、明らかに活発ではないこの子がそんなところで何をしてたのかは想像もつかない。


「……本」


 頭をすっぽりと覆っている布の向こう側から、か細く可愛らしい声が響いてくる。


「本? 読書をしてたのか?」


 聞き返すとフェムは少し照れくさそうに首を小さく縦に振った。


 そういえば最初に貰った書類に、この子は読書好きだと記されていた。


 あまり良い事とは言いづらいが、授業中も一人で教科書を先へ先へと読み進めているのもよく目にする。


「へえ、読書か。もしかして本を読むのにいい場所でもあるのか?」

「……静か」


 再び、か細い声でそう呟く。


 確かに誰とは言わないが敷地内にはうるさいのが若干名いる。


 屋内は静かに読書をするには余り向いていないのかもしれない。


「なるほどな。それで、どんな本を読んでるんだ?」


 俺もそれなりに読書はする。

 もし共通の話題が見つかればこの照れ屋なご令嬢と仲良くなる良いキッカケが得られるかもしれない。


 だがフェムは恥ずかしそうにローブの手の部分をもじもじと擦り合わせるだけでなかなか返事をしてくれない。


 よもやそんな変な本を読んでいるのだろうか、と考え始めたところでフェムはローブの中から一冊の本を取り出した。


「そ、それは……!」


 その表紙を見て驚愕する。


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