08:マクロ狩りは最高です?
リアンはギルドを出ると、まずは近場の森に入って後を追ってきた冒険者を巻いた。
恐らく自分の持つ魔法スキルに興味があって声をかけようとしたのだろうが、冒険ギルドの中でそうしなかったということはロクでもないヤツの可能性が高い。異世界に来てまだ二日目。色々と衝撃的な話も聞いてしまったことだし、今誰かに利用されたり揉め事に晒されるのはまっぴらごめである。
…それに、なんといっても今のこの見た目はとてつもなく可愛い。妙に好意を抱かれても困る。
(さてと…)
スキルウィンドウを開いて、リアンはこの時のために構築しておいた魔法を発動させる。
まずは一人分の物理防御魔法と気配遮断を展開。自分の身を守ると同時に、周囲の生物を傷つけないための予防線を張る。そして自分中心に探知魔法を巡らせ、半径100メートル以内の魔素を含む生物・植物を全て感知出来るよう設定しておく。
薬草採取の基本的な仕掛けは以上だ。
…後はオプション。
今回の目的はカリン草だ。だから先程ギルドで解析したカリン草と、同じ魔術的構造の物質が引っかかった場合に限り、別にアラートが鳴るように決めておく。
そして残るは索敵。
魔物や動物に遭遇した時のため、感知したのが敵だった場合は眠りの魔法が自動発動・自動追尾するよう、重ねて設定する。
これで準備は完了。近くに魔物がいても傷つけることはないし、森の中を自由に歩き回ることが出来る。
ところで、ここまでやると流石に魔力が枯渇しそうだが、実は今朝起きた時ステータス画面に変化が起きていた。
――――――――――――――――――――
魔術師
レベル2
体力 33 / 33 魔力 82 / 39 生命力1285 / 1286
常駐スキル:自動翻訳 / 魔眼 / 魔素循環
常駐加護:魔王の盟約
常駐呪詛:血の穢れ
――――――――――――――――――――
(あれ、魔力の数値…おかしくない?)
朝ステータス画面を開いたリアンは、己の目がおかしくなったかと思い目を瞬いた。まさか魔力の数値が総量以上に増えるなど予想もしてなかったのだから。だが調べてみてわかった。これは常駐スキル魔素循環の影響だ。
【魔素循環】
――周囲の魔素を取り込み自らの魔力に変換する。これは最大魔力値に影響されない。
(うん、説明が簡潔でわかりやすい)
つまりリアンは自分でも知らない間に、魔素を吸収していたようだ。
眠っている間にレベルまで上がるのだから、魔素循環様様である。
おかげでこの余剰分の魔力を使って探知魔法を展開することが出来た。無論徐々に減ってはいくが、森の中は村よりも幾分魔素が多いらしい。数時間は採取に籠もっても問題なさそうだった。
――リーン
早速鈴のような音が鳴る。
リアンが草木をかき分けていくと、果たしてそこにカリン草の姿があった。
(やったぁ、幸先良い! これはクエストクリアいけそうな気がする!)
確か依頼品はカリン草の乾燥品だったはずなので、後は風と火を使って水分を除去。空間を繋ぐゲートを生成して、屋根裏部屋の自分のベッドの上に転送するだけだ。ただしこの辺の作業はいちいちやってると魔力消費が激しくなるため、ある程度まとまったところで一気にやってしまうことにする。
リアンは森中を歩き回ると、次から次へと目的の薬草を採取していった。
…それにしても、だ。
(この森ってカリン草以外にも、魔素量の高い植物結構あるのね…)
カリン草は基本的な回復剤の元となる薬草らしい。だから魔素が含まれているのは不思議ではないのだが…、
(このキノコとかマジでスゴいんですけど…)
リアンは地面から抜き取ったキノコをまじまじと見つめた。…なんというか、わざわざ探知せずともカリン草より何倍もの魔素がにじみ出している気がする。試しに解析にかけてみると、
【コリオン茸】
――魔力と生命力が大幅に回復する。
(おお…? 魔法使えない人には意味なさそうだけど、これ何気にすごくない? いざとなったら自分で食べよっかな)
乾燥させておけば、いざという時良い換金材料にもなるだろう。
しかもすごいのはこのキノコだけではない。その辺に成っている木の実や葉なんかにも、魔素の高いものが紛れている。神父が言っていた『迷宮の影響』というのはやはりあるのかもしれない。もし成分抽出や精製が魔法でなんとかなるなら、自分で回復剤を作ることもいずれ試してみようとリアンは思った。
(転ばぬ先の杖って言うしね)
結局その日は3時間ほど村周辺の森に籠り、乾燥させてもなお両手一杯のカリン草を持ち帰った。冒険者ギルドにいた全員が言葉を失くしたことは、言うまでもない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なんじゃこりゃぁああああ!!!!」
受付に座っていた巨漢の第一声は、それだった。
確かにクエストに対して十倍以上もある量を持ち込めば、そう言いたくなる気持ちもわかる。
けれどリアンにしてみれば、薬草採取はたまたま自分が構築した魔法と相性が良かっただけの話。効果の高そうな薬草は全て部屋に置いてきたし、むしろ驚くべきは宝の山とも言えるこの村の森の方だ。
「ちょっと依頼より多いんですけど、買い取ってもらうこと出来ます?」
「ちょっとっていうレベルじゃねぇけどな!? …まさか、偽物じゃねぇだろうなぁ…」
「全て調べてもらって構いません」
男が信じられない様子で干したカリン草を確認していくが、これが偽物でないことは既にわかっている。むしろリアンが気にするのは、これがどの程度の金額で買い取ってもらえるかどうかだ。
(子供だと思って足元見られないといいけどネ…)
受付のカウンターで男が数えているのを目で追いつつも、リアンは周囲に気を配った。
探知魔法など使わなくても、周囲の冒険者の視線が如何に自分に突き刺さってるかくらいわかる。だが、今朝もそうだったが、受付前にいる限り彼等が話しかけてくる様子はない。恐らく冒険者ギルド内では揉め事が禁止されているか、もしくは目の前の巨漢が恐れられているかのどちらかだろう。
(それにしても、すっごい見られてるなぁ…。これなら魔物に囲まれてる方がまだマシかも…)
「終わったぜ、チビ」
受付の前で居心地悪げに待っていると、片眼鏡を外して男が顔を上げた。その口元には今朝は見かけなかった笑みがニヤリと浮かんでいる。
「全部本物だったぜ」
「いくらになりそうです?」
「その前に、まずはクエストクリアの報酬だな。これが50ルク」
男がカウンターに5枚銅貨を並べる。
「んで、他の薬草もこれと同額で買い取らせてもらう。残り12束半あったから金額は、5――」
「625ルク」
「……」
「625ルク。全部で675ルク。で・す・よ・ね?」
「わ、わかった! …わかったよ…、くそっ」
チッと微かな舌打ちが聞こえる。
やっぱり金額をちょろまかすつもりだったらしい。親切そうな顔をしてなかなか食えない男だ。
(異世界人なめんなよっ)
カウンターの上に、さらに銀貨6枚。銅貨2枚。そしてさらに小さい銅貨が5枚が追加で並べられる。…うん、なかなかの報酬額だ。一日にこれだけ稼ぐことが出来れば、当面の間生活費を気にすることはないだろう。
「ところでお前」男がカリン草の山を見て言った。「一体、どうやってこれだけの量集めたんだ? やっぱり魔法か何かか?」
そんなこと企業秘密に決まっているだろうに、相手が子供だと思って見くびっているのか、男は気安い口調で聞いてくる。
もちろん正直に話すつもりはリアンにはない。探知魔法で探したなどと知られたら、なおさら面倒なことになりそうだ。
「見つけるのにちょっとしたコツがあるんですよ。特に変わったことはしてません」
「簡単には口を割らねぇか。…ま、しゃあない。この村の薬草は需要が多いんだ。また手に入れたら持ってきてくれ、いくらでも買い取ってやるよ」
「金額をちょろまかしたりしなければ、いくらでも?」
「言うじゃねぇか。――俺はオルドン。今後ともよろしくなチビ助」
「よろしく、オルドンさん」
カウンター越しに差し出される大きな手に握手で答える。
どうやら自分は冒険者として、この冒険者ギルドに認めてもらえたようだ。
寝床に続いて安定した仕事と収入。こっちの世界に飛ばされてから二日目にしては、なかなか順調な滑り出しだ。
(この村で薬剤師みたいな仕事するのもいいかもなぁ…)
リアンは割符と引き換えに報酬をポケットにしまうと、このことをまずタルマに報告すべく宿に戻ることにした。
山歩きで疲れているはずだったが、足取りは朝の何倍も軽く感じた。
お読みいただきありがとうございました。
面白かったらブックマーク、評価よろしくお願いします。更新は月水金17時予定。
ディアブロ3のSwitch版めっちゃプレイしてます。
ホットワインが呑みながらネフィリムリフト。