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02:これバグってませんか?

(ああ…綺麗だなァ…)


 ぼんやりと目を開けると、OSの起動画面よりなお透き通った青空が広がっていた。

 穏やかなそよ風と共に草の触れ合う音がする。きっとどこかの野原にでも寝転がっているのだろう。背中に感じる温かな大地の感触が心地よい。


 瑠璃亜はあまりにのどかな空気に、自分は今夢の中にいるのだと思った。

 当然だ。先程まで自分はあの暗いオフィスにいたわけだし、眠気で意思を保つのも限界を感じたのだ。

 だから瑠璃亜は春のような暖かな日差しに身を委ね、このまままどろんでしまおうと目を閉じた。――だが不意に感じた地響きによって、眠気はかき消されることとなる。最初は地震かと思ったが、それにしては様子がおかしい。揺れはますます大きくなり、獣の吠え声と喧騒までもが混ざり始める。


 ――ドドド……


「ほぇ…?」


 むくりと身体を起こすと、広い草原の向こう側に猪のような獣が見えた。

 だが瑠璃亜がそのまま固まったのはそれが理由ではない。それが自分の知っている猪と比べて3倍もある巨大な体躯をしていたからだ。さらにその後ろには武装した男達がずらり。明らかにその巨大猪を追っている。


(これは…えっ、ど、どうなって…!?)


 地響きの原因である猪の姿は、瑠璃亜が驚いている間にもどんどん大きくなる。その進路の先にいるのは自分。つまりこのままいくと確実に踏み潰されて死ぬのだろうが、あまりの事態に頭と身体が追いつかない。


「お前、今すぐ逃げろ!」

「前方に人がいる!」

「足止めしろぉおお」


 猪の背後から怒声が聞こえる。

 その声に、ようやく瑠璃亜はこれが夢でないことに気づいた。

 この地響きも巨大な獣の姿も、夢なんかではない。このままここにいたら確実に死ぬ。

 瑠璃亜はその場になんとか立ち上がったが、だからといってどちらへ逃げればいいかわからない。その間にもいよいよ猪の姿は大きくなり、こちらへと迫ってくる。


「ひぃっっ!!」


 結局、瑠璃亜はどうすることも出来ず、ただ死を覚悟して堅く身をすくませることしか出来なかった。ぎゅっときつく目を閉じた中で、せめて楽に意識を失えるよう切に祈る。

 だが予想に反して衝撃はいつまで経っても訪れなかった。

 目前に迫る猪の身体に、遠くから飛んできた槍が一本、深々と突き刺さったからだ。続けて矢が二本、三本と追い打ちをかける。それでも猪の脚が止まることはなかったが、進路をずらすことには成功したらしい。瑠璃亜のすぐ脇を駆け抜けた巨大な体躯は、ついに脚を止めその場に崩れ落ちた。怒り狂った赤い瞳を滾らせ「グルォオオオオオオ!!」と空気が奮えるほどの咆哮を上げる。


 瑠璃亜はあまりの恐怖に動けないままだった。

 遅れてやってきた男達が一斉にその首や胴体を剣で斬りつけても、巨大猪の瞳から生彩が失われていっても、口を開けたまま微動だに出来ない。


「嬢ちゃん、離れてなァ!」


 その声に気圧されるように一歩後ずさったが、巨大猪が暴れた反動で首から吹き出した大量の血がびしゃりと瑠璃亜の全身に降りかかったその瞬間、強烈な眩暈と吐き気に襲われてよろめいた。生臭さにも似た異臭が立ち上るが、恐らく原因はそれではない。血に触れた瞬間、まるで毒でも浴びせられたように何かが瑠璃亜の身体を深く犯していった。大きく斬りさかれた傷口から覗く肉と骨。吐き気が止まらず目の奥から生理的な涙がにじみ出る。


 そうして、ついに瑠璃亜の肉体的・精神的許容量は限界を超えた。


(これって…夢だよね…夢に、違いない…よ、ね…)


 ぷつりと何かが切れる音がして瑠璃亜は再び意識を失う。

 自分に何が起きたかなど、この時はまだ知るよしもなかった。



お読みいただきありがとうございました。

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