01:異世界への通信速度は?
<異世界へ召喚されています。承諾しますか?>
このメッセージがパソコン画面に出た時、立花瑠璃亜は迷わずNOを選択すべきだった。
けれどその日は徹夜2日目。午前中の社屋で仮眠は取ったものの、眠気と疲労で集中力もまともな判断力も大いに欠如していた。既にオフィスの明かりは落ち、同僚達は皆帰るか自席の下で寝ている。瑠璃亜はブルーライトカットの眼鏡を外すと、脇に置いた缶コーヒーの残りを一息にあおった。
(召喚…? 召喚ってなんだっけ…、私、役員会議にでも呼ばれてるの…? こんな時間に?)
スマホの画面をつけるとそこには午前2時の文字。
そろそろ眠りにつきたいが、仕事が終わる気配は欠片もない。
(給料減らされるとか、まさかそういう話じゃないよね…)
会社の業績が順調でないことはなんとなくわかっていた。だから営業が仕事を安請け合いし、こうして現場が苦労するはめになるのだ。少ない工数に終わらないリテイク。まったくこのデスマーチはいつまで続くのだろう。
だがぼんやりとパソコンの画面を見ていた瑠璃亜は、おやと目を見張った。パソコン画面に映し出されたウィンドウが勝手に<YES>を選択したからだ。だがマウスにもキーボードにも自分は触れていない。もしかしてこれはウィルスの類かと疑って青くなったその時、突如として眩しいの光が溢れかえり瑠璃亜は思わず目をつぶった。
(何、これ…ディスプレイがイカれた?)
光はなおも強さを増し、おかしいと思う間もなかった。
ふわり、と浮遊感を感じたと思った瞬間、身体は空中に溶けてかき消える。
後に残されたのは闇ばかり。しんと静まり返るオフィスの中で、彼女が消えたことに気づいた者は誰一人としていなかった。
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