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10:文明の利器って素晴らしい?

【魔石】

――魔物の体内で生成される物質。魔素濃度が高く、主に魔道具の触媒として利用される。



(魔素濃度が高い…? 魔道具の媒体?)


 だが解析魔法で出てきた文章だけではいまいち要領を得ない。

 仕方なく、魔法陣を見て目を輝かせている少年に尋ねる。


「ねぇ、これって一体何に使うものなの?」

「えっ、なんだよ君、魔法を使えるクセに魔石の事も知らないの? その辺の魔物倒せばゴロゴロ出てくるのに?」


 煩いわこのクソガキ、コッチは昨日無理やりこの世界に連れてこられたばかりなんじゃ!…と言いたいところを、ぐっと我慢する。小馬鹿にするような少年の物言いは癪に障ったが、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だ。

 ぐぎぎぎと口元に笑顔を貼りつけると、リアンはもう一度少年に言った。


「こ・れ・何・に・使・う・の・か・な・?」

「ええっと…」


 目元はフードでわからなくとも、リアンの怒りが伝わったのだろう。額からひとすじ汗をたらすと、少年は慌てて早口で説明してくれた。

 曰く、これはこの世界で言う電池のようなものらしい。とはいえ誰もが使えるものではなく、魔法を刻み込まなければ、――つまり、魔術に携わる人間でなければ、そのまま扱うことの出来ない代物のようだ。

 少年は村の畑を荒らす魔物駆除を時々手伝っているのだが、その報酬として魔物の体内から出る魔石をもらうのだという。ところが残念なことに自分では使いようがない。そこで、売りつけられる相手がいないかと機会を待っていたようだ。


「なるほどね、それなら確かに私には使えるかも」

「だろう!? なら買い取ってくれよ!」


 リアンが魔石を見つめてそう呟くと、少年はカウンターから身を乗り出した。

 電池と似たようなものだと思えば、確かに使い方もなんとなくわかる。…が、しかし


「でも私、今日はもうお金ないのよ…残念なことに」

「そっか。…あっ、でもじゃあいいよ。それは君にやる。――その代り、もし次魔石が必要になったら俺から買ってくれ」

「そういうことなら、…うんわかった。じゃあ、これはありがたくもらっとく」

「ああ。俺も買いとってくれる相手がいなくて困ってんだ。遠慮なくもってけ!」


 魔石の相場はわからないが、村に出る魔物程度ならさほど高くはないらしい。とはいえタダでくれるなど太っ腹だ。少年に礼を言うとリアンはもらった魔石を購入したばかりの鞄に入れた。


「…ところで、ここには本もあるみたいだけど…」


 会計を済ませたリアンは、ふと思い出して栗毛の少年に尋ねた。


「薬草についての本なんてある?」

「売りには出してないけど、薬草関係の本なら確かオヤジが持ってたはず。ちょっと待ってて」


 一度裏に引っ込んだ少年が、埃の被った本をはたきながら出てくる。

 この世界の製本レベルはそこまで高くないと思っていたが、手渡された本は革表紙。ずいぶん高級そうだった。


「これ…持っていっちゃっていいの?」

「見終わったらまた返却してくれ。たまに薬草について知りたいっていう客が来るんだ」

「わかった。じゃあこれは借りておくね。…何かあればタルマさんとこの宿屋を訪ねてきて」


 ぱらぱらとページをめくると、本には薬草の基本知識が書かれているようだ。ご丁寧に薬草の挿絵入り。

 さらに後半には薬草の取り扱いや精製方法も書かれているようで、リアンはガッツポーズを取りたい気分になった。これこそまさに今必要としていた本だ。なければ取り寄せも考えていたため、本当に助かった。

 

 さて、これで今日出来ることは全てやりきった。

 財布に入っているコインは残り銅貨が少し。明日も頑張って稼がないと、あっという間になくなってしまいそうだ。

 リアンは鞄に本を入れると、今度こそ店を出た。

 ――夕焼けの空はどこの世界でも変わらず美しかった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 リアンは帰宅すると、飲み騒いでいる客達を避けて屋根裏部屋の自室に上がった。

 今日も今日とて、自分のステータス画面とにらめっこである。


 魔法は薬草採取の時にあれこれかけていたと思うが、レベル自体は上がっていない。どうやら経験値を得るにはもっと時間がかかるようだ。もしかしたら魔物を倒したり製薬をしたりと、何か結果が残ることをしなければ効率が出ないのかもしれない。


 なお、本の方は問題ない。

 内容を理解することも問題なく出来ているし、製薬方法も丁寧に書いてある。これだけあれば、後はこれを自分のスキルと照らし合わせて実際に作っていくだけだ。リアンはギルドに持ち込まず一部取っておいた薬草を、深皿と一緒に床の上に並べた。そしてその正面にあぐらをかいて座る。


 まずは成分抽出だ。

 本を読むに、ポーションは魔力を込めて魔素を含む水を作った後、それを使って薬草を煮出すと出来るようだ。薬草の量とそこに含まれる魔素の量。そしてかける時間により仕上がりは変わるらしい。魔法スキルの中にまさに薬品生成、成分抽出というものがあったので、それも使いつつ状況を見守る。

 すると、煮出していたカリン草がほろほろと崩れ、深皿の中の液体が緑色に変化する。


(お、これで成功かな…?)


 早速解析すると…、



【体力ポーション】

――全て服用すると体力値を220回復。



(…よし、出来てる!)


 しかもカリン草1本でこの回復量。これなら将来ポーション屋を開くことも出来そうだ。


 何回か試すうちに、薬品生成スキルはいわゆるレシピ。成分抽出スキルは、材料となった物質のどの成分をどれだけ取り出すか。…そういったことができるスキルだとわかってきた。これなら、数値回復にするか割合回復にするか。飲み薬にするか塗り薬にするか。追加効果を付与するか相乗効果を狙うか、そんなことが自由にあれこれカスタマイズ出来ることになる。


 また、容器についてもガラスの精製スキルで作れることがわかった。

 こちらについてはイメージと計算式の両方が求められる面倒なスキルだったが、リアンの頭の中には既に完成形が存在している。


 タルマが呼びに来るまで夕飯を食べることも忘れ、リアンはひたすらポーション作りに没頭した。一度何かを始めると寝る間を惜しんでもやめられないのが彼女の悪い癖だ。

 しかしリアンは、ついに夜明け前興奮した声を上げた。天高く両腕を伸ばすと、そのまま後ろの床に倒れ込む。



「出来たぁー…っ!!」


 掲げた手の中には小さい小瓶。

 試行錯誤した末にリアンが作ったのは、銃弾のような細長い円筒形をした密閉式ガラス瓶。上部に首状の凹みのある、いわゆる元いた世界で『アンプル』と呼ばれていたものだ。容器に使ったガラス自体は極めて薄いが、少年からもらった魔石を薄くコーティングして二重構造にしているため、強度が高く落としても簡単に割れることはない。…正直、この二重構造を作り上げることが、とてつもない苦労だったのだが。

 有効成分のみを抽出することで薬液の軽量化も実現できたし、密閉後に熱で殺菌したのでアンプル内も衛生的だ。恐らく保存も今までの物よりは効くだろう。首状の凹みのところをへし折るように力をかければ簡単に容器は割れ、中の薬液を飲む事が出来る。大人でも子供でも、誰もが簡単に扱えるポーションの完成だ。


 試しにリアンは持ったアンプルを床に叩きつけてみる。思った通り、ガラスの小瓶はこつんと軽い音をたてて跳ね返るだけで割れる気配はない。もう一度拾って親指でアンプルの首の部分を強く押してみる。すると、今度はパキンと音がして瓶が二つに綺麗に割れた。


(これは…我ながらいい感じなんじゃないの?)


 少なくとも自分が使うには良さそうだ。人差し指程のサイズなので、ベルトに括り付けて持ち運んでもいいかもしれない。

 最終的に出来たポーションの中身を解析すると、



【ハイポーション】

――体力と魔力をそれぞれ50%ずつ回復する。また対象に振りかけても効力を発揮する。



【ハイエーテル】

――魔力と生命力をそれぞれ55%ずつ回復する。また対象に振りかけても効力を発揮する。



【ローエリクサー】

――生命力を80%回復する。



「やった、良い感じ……!」


 割合回復を選んだのは、レベルが上がった時のことを考えてのことだ。

 数値回復にすれば、カリン草をベースにした体力ポーションの回復量は500前後なのだが、それだと最大体力値が4桁になった辺りで頭打ちになる。慣れてもなおポーション作りに時間と集中力と運が必要となるなら、長く使える方がいい。

 リアンはその日採ってきた材料を全てポーションにしてしまうと、集中力が切れたようにベッドに倒れ込んだ。慣れないことばかりで精神的にも疲労が溜まっていたが、胸の内は充実感でいっぱいだった。



お読みいただきありがとうございました。

面白かったらブックマーク、評価よろしくお願いします。更新は月水金17時予定。


iPhone SEが壊れたのでまたSEを買おうと思っているんですけど売ってるところがなくて右往左往。ついでにiPad Proも欲しくなってきている師走。

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