表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/27

七話 美味い話には裏がある

 盗賊二人を殺したルルフェに言いたいことは山ほどあった。

 だが、俺はあえて一つに絞る。


「交渉に来たのに殺してどうする」

「…………まぁ、どうにかなるやろ」

「ならねぇよ!」


 これで人質を要求する交渉はほぼ不可能となった。

 今さら死体を隠したところで、至る所に飛び散った血液で二人が死んだことは確実にバレる。

 こうなるととれる選択肢は一つだけ。


 実力行使で盗賊を壊滅させる。


「完全防御のギフトとかなんとか言ってたが、ようするにお前には攻撃が効かないってことだろ」

「まぁの。言っとくが防げるのは物理と魔法だけじゃ。そこんところを勘違いせんようにな。炎や雷は防げても毒の煙なんかは無理じゃ」

「それで十分だ。お前は盾となって敵を引きつけろ」


 俺は戦闘に備えて魔法のレベルを上げる。


 身体向上をレベル10へ。

 防御障壁をレベル10へ。

 ライトニングスパークをレベル10へ。


 ルルフェの強さならなんとかなるかもしれないが、念には念を入れて準備をしておかないと。俺はまだ死にたくないからな。


「行くで」

「おう」


 盗賊の根城は岩壁に掘られた穴だ。

 実に薄暗く臭い。

 血の臭いとか体臭とか酒の臭いがブレンドされてなんとも言えない悪臭。


「なんだお前ら――あびゅ!?」


 一人目の盗賊を幼女があっさりと手刀で殺す。

 目の前で人が死んでいるのに俺には何も感じなかった。

 現実感がないからなのだろう。


 おかしい、俺は普通の会社員だったはずなのに。

 なんでこんなところで戦ってるんだ。


「ノリタカ」

「ライトニングスパーク!」


 五人が松明を持って通路の奥からやってくる。

 俺はレベル10の電撃を放った。


 ちなみにライトニングスパークは雷属性の魔法で最弱だ。

 基本的にはスタンガン程度しか威力はない。


 だがしかし、レベル十の雷撃は眩い光に轟音を響かせ五人を消し炭にした。


 もはや落雷と言ってもいい威力だ。

 しかもいくらでも撃てそうな感覚があった。

 余計な魔力消費をカットしたおかげで身体に魔力が満ちあふれているのが分かる。

 ようやく俺は変化を実感できていた。


「侵入者だ! ぶっ殺せ!」


 奥から火炎放射のように炎が吹き出す。

 俺は咄嗟にルルフェを掴んで盾代わりに身を隠した。


「おい、熱くないか!?」

「ウチにこんなん効かんで。そよ風みたいなもんじゃ」

「ほんとかよ」


 完全防御すげぇな。

 すかさず陰から雷撃を放つ。

 敵は一瞬で消し飛んだ。


 ははははは、俺も割とやるじゃないか。

 ビビってたのが嘘みたいだ。


 俺とルルフェは盗賊共を殺しまくった。


「もう終わりやな」

「まだだ。頭とかいうやつと娘が見当たらない」


 あらかた片付けたところで、俺達は一つずつ根城の部屋を確認して行く。

 とある部屋を見つけた俺は感嘆の声を漏らした。


 小山となった金銀宝石。

 金の延べ棒を掴んで思わず涎が出そうになる。

 売ればいくらになるんだろうなぁ。


「ノリタカ、向こうから人の声が聞こえるで」

「娘か」

「わからん」


 忍び足で通路を進む。

 とある扉の前で耳を澄ました。


「……ここっぽいな」

「さっさと片付けるで」


 ガチャリと扉を開ける。

 お、おい! まだ俺の心の準備ができてないだろうが!


「――っつ!!」


 反射的ににルルフェを掴んで盾にする。

 爆音が響き俺の周囲を激しい炎が覆った。


 だが、完全防御を持つ幼女には一切効かない。


「ちっ、先制攻撃はしくじったか」

「たすけてっ!」


 部屋の中には杖を持つ男と十五歳ほどの女の子がいた。

 男は手錠の付けられた女の子の肩を掴んで放そうとしない。

 

 あれが盗賊の頭か。魔道士だったとは知らなかった。


「その子を放せ」

「それを言うならお前もだろ。そのガキのギフトで攻撃を防いでいるのは、もう分かってんだよ」

「…………」


 不味い状況だ。

 奴は杖を少女に向けている。


 下手に攻撃をすれば人質は死ぬだろう。

 俺は静かにルルフェを地面に下ろした。


「杖もだ」


 要求に従い杖も地面に置いた。

 これで俺は無防備。


「くははははっ、領主に雇われたのか知らねぇがバカな奴だ! 俺達と正面からやり合おうなんてな! 大人しく身代金を払えばいいものを!」


 俺は両手を挙げたまま頭に語りかける。


「まぁまぁ落ち着けって。実は俺は領主に頼まれて娘を助けに来たんじゃない」

「あぁ? じゃあどういうつもりなんだ?」

「本当はあんたと商売の話をするつもりで来たんだ。それなのにいきなり手下に攻撃されるものだから反撃してしまった」

「商売だと。くだらねぇ、どうせ助かるための嘘だろ」


 いける。こいつは興味はあるが、主導を握られない為にあえて隠している。

 こういう奴は最初のインパクトで簡単に態度を変える。


「信じられないかもしれないが、俺は不老不死の薬を開発したんだ」

「!?」

「その薬を手始めに領主に売ろうと思ったんだが、紹介状がないと面会できないと門前払いを食らってな。そこで娘をさらった盗賊の話を耳にした」

「俺と会ってどうするつもりだったんだ」

「君と俺で手を組んで領主に薬を高値で売ろうと考えていた。娘がいれば向こうも会うだろうし話を聞くだろう? もちろん売り上げは二人で山分けだ。しかもこの方法を世界中でやれば、あっという間に大金持ちになれる。さっきも言ったが、これは輝ける未来が確約された商売の話だ」


 頭は考え込むように沈黙する。

 盗賊をやるくらいだ美味い話には弱いだろ。

 あとは厳然たる証拠を突きつけてやればいい。


「お前が不老不死である証拠を見せろ。それなら信じてやる」

「分かった。では魔法で俺を攻撃してみろ」

「なっ――正気か!?」

「証拠を見せてやると言っているんだ。なりたくないか? 不老不死に?」


 戸惑った様子を見せるも呪文を唱えて魔法を放つ。

 爆炎が俺を吹き飛ばし、後方の壁へと背中から叩きつけた。


 俺は燃えて行く服もそのままに、平然と立ち上がって見せた。


 内心ではめちゃくちゃ熱いのを我慢している。

 だけどここで弱みを見せたらこの話はポシャる。

 魅せろ。あいつが憧れるような不老不死である俺を。


「はははは、まじかよ。火傷すらしてねぇ」

「信じてもらえたか?」


 全裸で俺は頭に微笑んだ。

 長年の勘で、相手が交渉に前向きになったことを空気で察した。

 さて、ここからがアイスブレイクの時間だ。


 アイスブレイクとは交渉で相手の緊張をほぐすことからそう呼ぶ。

 通常なら、時事ネタ、その会社のこと、その会社に近い話題などを話すが、ここは見知らぬ場所に見知らぬ相手であることを考慮して、直接的な方法で間を縮める。


 ちなみに受注などを受けることはクロージングと呼ばれている。


「薬を渡す前に、渡そうと思っていた物を出していいか?」

「……いいだろう」


 リュックから金や銀を取り出す。

 実はさっきちょろまかしていたのだ。


 貴金属を地面に置くと、営業スマイルで敵愾心がないことを装う。


「わかってるじゃねぇか。なんで早く手下にそれを見せなかったんだよ」

「その前にいきなり攻撃されたんだ。こう言ってはなんだが、もう少しちゃんと教育をしてもらいたかったな」

「へへ、わりぃな。ウチは荒くれで売ってから、どいつもこいつも頭のわりぃ奴らばかりなんだよ」

「それで信用してもらえたかな」


 その目は少女と俺の間を何度も往復する。

 どちらが利益になるのか天秤にかけているのだ。


「薬と引き換えだ」

「分かった」


 頭と俺の交渉はクロージングに至った。


 リュックから小瓶を取り出し転がす。

 拾った男は娘を解放して薬を受け取った。


「なんだ液体じゃねぇのか」

「そんなこと一言も言ってなかったと思うが?」

「だな。で、これを全部飲めばいいんだな」

「ああ」


 娘が駆け寄ってきて俺の陰に隠れる。

 だが、まだ杖は拾えない。

 ルルフェも目配せするが俺は首を横に振る。


 頭が小瓶の蓋を開けて白い粉を一気に口に入れた。


「うげぇ!? 甘い!??」

「ルルフェ!」


 ひるんだ頭の真横を幼女が刹那にすれ違う。


 数拍置いてから、ポロリと男の頭が地面に落ちた。

 綺麗な傷口からはびゅびゅと血液が噴き出し地面を濡らす。


 俺は倒れた頭の持つ小瓶を拾って口角を上げた。


 ただの砂糖にそんな効果があるわけないだろ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ