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二話 修行を経て魔道士となりました

 広瀬さんから一通りの説明を受けてその日は帰宅。

 翌日、サインをした誓約書を彼女に提出した。


「さっそく業務に取りかかってもらいたいのだけれど、則孝君って何か得意なことってあるかしら?」

「得意なこと……特にないですね」

「そっか、君って見た目通り普通なんだね」


 机を挟んだ向かい側でコーヒーを飲む広瀬さん。

 美人はやっぱ何をしていても絵になるな。

 これで独身って言うんだから実に不思議だ。

 

「まぁいいわ。それじゃあこれに着替えて」


 差し出されたのはペラペラの薄い布で作られた服だ。

 さわり心地はゴワゴワしていてさぞ着心地が悪いことだろう。

 俺は嫌な予感がしてコレについて尋ねる。


「なんでこんなものを? 俺も広瀬さんや他の人みたいにプロテクターを付けるんじゃ……」

「君には現地調査に行ってもらいます。それも私達のような人のいない周辺地域を探ったりするものじゃなく、村や町などに入ってもらい直接現地人から情報を得てもらう重要業務です」

「うそですよね」

「本当です」


 ぬぐわぁぁあああああっ! あのクソ社長!

 こうなると知ってて俺を移動しやがったな!

 道理で給与の払いが異様に良いわけだ!!


「長い間でしたがお世話になりました」

「辞めさせないわよ。すでに君の口座にはこれだけの報酬が振り込まれてるのだから」


 スッと出された振り込み明細書の写しには、サラリーマンの給与とは思えない額が記載されていた。

 ごくりと喉を鳴らした俺は、素直に現実を受け止めることにした。

 だってお金がないと生活できないし。


 服に着替えた俺は広瀬さんの前に戻る。


「うん、なかなか似合ってるじゃない」

「すんごく心許ないんですが。せめて武器とか防具とかないんですか。つーかそもそもどうやって現地人とコミュニケーションを――」

「それについてはちゃんと考えてあるから」


 彼女は俺を連れてテントをでると、敷地の端に案内する。

 しかし改めて見るとここはどっかの軍事基地だな。

 広い敷地にフェンスが張り巡らされ、軍事用の車両などが数十台置かれている。

 驚いたのはオスプレイや軍用ヘリまであったことだ。

 ウチの社長ってマジで何者だよ。こえーよ。


 案内した先にはプレハブ小屋があった。

 どうもここで広瀬さんやその他の社員は寝泊まりしているらしい。


 その一つに入ると、煎餅をかじりながらで大笑いする老人がいた。

 しかも格好は薄汚れたローブを着ていて杖を握っている。まるで魔法使いだ。

 ただ、見ているものは和製ホラーの名作で、どこに笑える要素があるんだよってところで机を叩いて笑っている。


「@☆※※■〒」

「#▽▲?」


 広瀬さんは聞き慣れない言語で老人に話しかけ、老人は同じようなイントネーションで返事をして俺を指さした。

 もしかしてこのじいさん現地人か?


「交渉成立、それじゃあ君はブラハムさんに付いていって指導をしてもらって」

「ちょ、ちょっと待ってください! 指導ってなんのことですか!? つーか俺、現地語しゃべれないんですけど!!?」


 カツンッ。いきなり俺は老人に後頭部を叩かれた。

 振り返ると彼は小声で呪文らしきものを唱えていた。

 素早く指で空を切れば、途端に彼の言葉が理解できるようになる。


「儂の言葉が分かるか?」

「うおっ! 日本語をしゃべった!?」

「違う。お主がこちらの言葉を理解できるようになったのだ」


 は? なに言ってんだこのじいさん?

 どっからどう聞いても日本語じゃないか。

 広瀬さんは俺の肩を軽く叩いた。


「この世界には魔法があるのよ。資料を読んだでしょ」

「でも、いくらなんでも……」

「都合が良すぎる?」

「まぁそうです」


 彼女は呪文を唱えて指で空を切る。

 すると目の前に小さな光の玉が出現した。


「彼によると私達は魔力の使い方を忘れてしまった種族らしいわよ。実際に指導を受けた私が使えているのだから、地球人はただ単純にこの便利な力の使い方を知らないだけじゃないかしら」

「じゃあ俺にも魔力が……」

「実は調査員として選んだのには理由があるの。それは君が社内で最も保有魔力が大きいからなのよ。それもとびっきり」


 広瀬さんは俺に分かりやすく説明してくれた。

 内容はこうだ。異世界の一般的な魔道士の魔力を百とし、地球人の平均的な魔力を十だとする。どうやら俺は千を超える魔力を保有しているらしいのだ。


「儂は彼女たちにそれなりの魔力を有している者しか弟子にしないと言った。だからお主が来るのをここで待っておった」

「でもどうやって俺の魔力量を調べたんだ」

「定期検診があるでしょ。あれで社員から採血して魔力を調べたの。大原さんって本当に有能よね、そんな装置まで作れるんだから」


 魔力を調べる装置まであるのかよ。

 大原さん天才過ぎるだろ。


「そういうわけだから君は彼に弟子入りして魔法を学んで欲しいの。期間は一ヶ月。身を守る為の最低限のものだけでいいから、できるだけ早く習得してちょうだいね」

「もしかして俺の武器って魔法ですか」

「そ、魔法。それとついでにこの世界の常識も学んでおいてね」


 ニコッと広瀬さんは微笑んだ。



 ◇



 修行の一ヶ月間は地獄のようだった。

 ブラハムの案内した山へ籠もり、俺はジャッ〇ー・チェン並のハードな修行で毎日ヘトヘトになっていた。

 魔道士になるはずが酔拳マスターになりそうな勢いだ。


 それでも給与を支えにして頑張った。

 つーか独身で彼女もいない俺にはそれしかなかったと言うのが正解か。


 もちろん逃げだそうともした。

 一ヶ月帰宅することもできずずっと修行なんて精神が保たない。

 だがしかし、ブラハムは予知していたかのように先回りしていて、その度に俺を気絶させて引きずり戻した。


 どうもブラハムは会社からなんらかの形で、すでに指導料を受け取っているらしいのだ。

 それがなんなのかは俺は知らないが、少なくとも日本円でないことは確かだった。


 そして、一ヶ月を迎えた日。


「ライトニングスパーク!」


 杖から発せられた小さな雷撃が、岩の上に乗った小石を弾き飛ばす。

 威力に精度ともに問題なし。イメージしたとおりにできた。


「十分だな。魔道士と名乗る最低ラインは超えた」

「じゃあ修行は終わりなのか?」

「うむ、よく頑張った。出来は良いとは言えないが及第点だ」


 俺はこの一ヶ月で五つの魔法を習得した。


 ・身体向上

 ・防御障壁

 ・鑑定

 ・言語理解

 ・雷撃(小)


 時間も限られていたので覚えられる魔法は厳選している。

 でもまぁ町に行って調査するだけならこれくらいで十分だろ。


「言っておくが、くれぐれもなよ」

「分かってるって」

「お主のその言葉ほど信用できないものはない」


 ひどい言い草だな。

 仮にも俺はあんたの弟子だぞ。


 俺は山を下りる為に鑑定を発動させる。

 同時に身体向上を発動させ、鑑定の魔法の対象にする。


鑑定タスクマネージャー


 目の前に半透明なウィンドウが開いた。

 そこには身体向上の魔法のステータスが、常時更新されながら表示されている。


 ウィンドウにはいくつかの項目があるのだが、PCにはない項目がコレには存在していた。


 『レベル』である。


 俺は身体向上のレベルを一から三に上げてウィンドウを閉じる。

 すると見た目は変らないのに肉体が強化されたことが実感できた。


 鑑定とは、端的に言えばその人間が知りたいことを教えてくれる魔法だ。


 つまり使う人間によって在り方が根本から変る魔法なのである。

 普段からPCで仕事をしている俺にとって、システム状況を確認しない理由はない。

 その結果、ちょっとしたチートを手にしてしまったのだ。



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