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サラリーマン賢者の異世界業務日誌~ダラダラしながら高給をもらえるように一生懸命頑張ります~  作者: 徳川レモン
一章 平社員編

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二十一話 幼女は焼きそばにご満悦

 我が社は王都の復興の手助けを行いつつ、その傍らで支部の設立を行っていた。

 我々はあくまでも企業である。最終的に利益に繋がらなければ意味はない。


「王様もサービスいいわね。こんな大きなところを貸してくれるなんて」

「それだけ期待が大きいってことですよね」

「当然よ。王様だけでなく私達も期待しているんだから」


 入り口には『桂木マテリアル王都支部』と書かれた看板が掲げられている。


 支部のある建物は二階建ての屋敷だ。

 庭も広くて一軒家がすっぽり入るくらいにはスペースがある。

 もしまともに購入しようと思えばン億円は飛んで行くことは想像に難くない。

 そんなものを王様は無償で貸し出してくれたのだ。


 中に入ると風格のある内装に目を奪われる。


「なかなかいいじゃない。私が住みたいくらいだわ」

「そうですか? 俺はどちらかというと現代的な建築の方が好きですけどね」

「意外ね。則孝君ってゲームとかするからこういうの喜ぶと思ったんだけど」

「嫌いじゃないですけど、やっぱ虫とか出てくるから現実的にはちょっと……」

「そうね。私もプレハブでいいわ」


 即座に発言を撤回する広瀬さん。


 こういった建物は見栄えはいいが実際は隙間だらけ。

 至る所から虫が入ってきて安心できないのだ。

 おまけにどこからか風が入ってくるし結構肌寒い。


「ノリタカ! 準備できたよ!」


 ばぁん、ドアを勢いよく開け放ってルルーナが姿を現わす。

 ピカピカの新しい鎧を着ているせいか王女にはとても見えない。


「準備ってなんの?」

「炎魔竜退治に決まってるじゃないか!」

「お前……来るつもりなの?」

「当然さ! それにボクは竜の巫女だからね!」


 竜の巫女というのはエグジオスの生贄のことだ。

 生贄になる者は生まれた瞬間からそう定められ、身体のどこかに紋章が現われるのだとか、なので五十年に一度必ず王族には紋章を宿した女子が生まれ、エグジオスに食されるその時までその子供は強力な加護に守られ死すことはないという。


 俺に殴られて死ななかったのも実はこの加護のおかげらしい。

 本人は訓練の成果だと言い張っていたが。


「ノリタカが失敗した時の為にボクが保険として付いていくんだ」

「責任重大だな」

「だから絶対勝ってくれよ! ボクは信じてるから!」


 キラキラした目で俺を見る。

 やめろそんな純粋な視線を俺に向けるんじゃない。

 闇に染まりきった俺の醜さが際立つだろ。


「ああ、そう言えば山崎課長が君を呼んでたわよ」

「山崎さんが?」


 何の用だろう?

 ドラゴン退治に行くのは明日からのハズだし。

 すでに討伐に必要な道具も確認済みだったと思うけど。


 俺は屋敷を出て警備課の仮設基地へと足を運んだ。


「山崎さん?」

「佐藤君か。頼むからこの子をここから引き離してくれ。力が強くてどうにもできないんだ」


 テントの片隅でもそもそと動く小さな影。

 それは大量のカロリー〇イトをむさぼるルルフェだった。


「おい、なにしてんだ」

「ノリタカか。何の用じゃ」

「何の用じゃ、じゃねぇよ! あれほど勝手に食料を食べんなっていったのを忘れたのか!」

「しゃーないやろ。腹が減ったんじゃ」


 コイツ……どんだけ食欲旺盛なんだ。

 底なしの胃袋持ってんのか。


 ルルフェの身体を持ち上げようとするが、カロリー〇イトが入った段ボールにしがみついて離れようとしない。

 強引に引っ張ると、段ボールごとずるずる移動する。

 なんて執念。諦める気ゼロじゃねぇか。


「分かった、焼きそばを食わしてやる」

「焼きそばってなんや」


 即座に反応があった。

 コイツは食に対し異常なほど関心を示している。新しい食べ物となると、それはもう三日ぐらい食事をしていない犬のように走ってくるのだ。悪く言えば食い意地が汚い。

 食べ物から離れる時は食べ物。これはルルフェの常識だ。


「そろそろお昼ですし、俺が皆さんに食事を作りますよ」

「それはありがたい。最近は携帯食ばかりで飽きていたところだ。材料はもらった物があるから好きに使うといい」


 礼を言ってから食料庫を漁る。

 ニンジン、キャベツ、タマネギ、豚肉、焼きそば専用ソース、青のり、鰹節、マヨネーズなどを手に取る。

 これだけあれば十分だろう。


 しかし、なんだか少しだけ野菜に違和感がある。

 山崎さんが言うにはどの野菜も現地民からお礼にもらった物ばかりらしい。


 ニンジンは大根のように長く太い。

 キャベツも大玉スイカ並みにでかい。

 タマネギに至ってはサッカーボールほどもある。


 これってやっぱり品種が違うのだろうか?


 なんとなく金のなる木になりそうな予感がする。

 やっぱり決め手になるのは味だろうな。

 もし美味ければ生産者に交渉してみるとしよう。


「こうか?」

「そうそう、上手いじゃないか」


 幼女と野菜を切る。

 ルルフェは飲み込みが早くすぐに野菜の切り方を覚えてくれた。

 野菜の方は任せて俺は鉄板に油を敷いて野菜を炒め始める。


「あら、今日の食事は則孝君が作ってるの?」


 ふらりと広瀬さんが現われる。


「こう見えて自炊はしてますよ」

「意外ね。外食や出来合の物ばかり食べてると思ってた」

「昔から実家でも作らされてましたし」


 佐藤家では昔からなんでも一人でできるようにするってのが教育方針だ。

 だから家事はもちろんのこと、もしもの為のサバイバル方法など多くのことを身につけている。

 どちらかというとウチはちょっと変った家だと思う。


「ええ匂いやな」


 じゅうぅうと焼きそばを炒める。

 辺りに匂いが充満して町の住人もふらふらと引き寄せられていた。


「広瀬さん、味見してくれますか」

「いいわよ」


 できあがったものを紙皿に載せて渡す。

 一口食べた彼女は小さく唸った。


「美味しいこれ! なんでこんなに美味しいの!?」

「焼きそばってちょっとしたコツがあるんですよ。たとえば麺は水洗いして表面の油を取るとか、麺と具材はあらかじめ別々に炒めておくとか。あとできれば隠し味にショウガを加えたりするとさらに美味しくなったりしますよ」

「へぇ、則孝君って料理もイケるんだ。ポイント高いわね」


 微笑む広瀬さんに俺は内心でガッツポーズする。

 やった、これはきっと高得点ゲットだ。


「もう食べてもええんか?」


 待ちわびたと言わんばかりに、幼女が皿と箸を持って見上げている。

 俺は皿を受け取って焼きそばを山盛りにすると、青のりと鰹節をかけてマヨネーズをふんだんに乗せてやった。


「落とさずに食えよ」

「スパゲッティか? でも色と匂いが違うな」


 すんすんと鼻を鳴らしてから、むしゃりと咀嚼した。

 そして、案の定まん丸に目を見開く。


「美味すぎるで! こんなん食べたん初めてじゃ!!」

「お前って何を食べても美味いんだな」

「この上にかかっとる白いのが悪魔的じゃ!」

「それはマヨネーズだ」


 マヨラーになりそうな勢いで焼きそばにマヨネーズを山盛りにかける。

 その気持ちは分からなくもない。俺もご飯にマヨネーズをかけて食ったこともあるマヨラーだったからな。

 さすがに今はもうしないけど。


 できあがったものを大皿に移して次を焼く。

 隊員達は美味しそうに食べていた。


「むむっ、なんだこの匂い!」


 ルルーナが走ってきて鉄板を凝視する。


「お前も食うか?」

「いいのか!?」

「少しくらいなら」


 王女に焼きそばを渡すと、口に入れた途端唸った。


「なんだこれ! なんだこれ!!」

「それはどっちの意味だよ」

「美味い方だ! ノリタカはこんなものを毎日食べているのか! なんて贅沢! 羨ましい!」


 いやいや毎日は食ってねぇよ。

 そんなことしてたら早死にするし。


 ルルーナは「さすがボクのお婿さん候補だ!」などとのたまう。


 そこでふと気が付いた。

 そういえば俺、コイツのお婿さん候補になってたんだよな。

 約束も守ったしそうなったのはほぼ確実のはず。


 今さらだけど……ライバルって何人いるんだろう。

 候補ってのが俺一人だけだったらヤバくないか?


 冷や汗がたらりと額から落ちた。



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