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サラリーマン賢者の異世界業務日誌~ダラダラしながら高給をもらえるように一生懸命頑張ります~  作者: 徳川レモン
一章 平社員編

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十九話 謁見

 謁見の間というのだろうか。

 赤い絨毯が敷かれ、部屋の最奥には玉座に座る国王。

 周囲には兵士と高官がいた。


 警戒されてるなぁ。

 下手な発言はできない感じか。


「余はアイビッシュ国王ジルファ・アバレンテである。其方が何者か改めてこの場で問おう」

「私は桂木マテリアル国大臣佐藤則孝です。この度は貴重なお時間を割いてまで拝謁させていただいたこと誠に感謝しております」


 深くお辞儀をする。


「して、貴公はいかなる目的で我が国に? なぜ貴国の戦力が我が領土に?」

「一言で申し上げますと援助でしょうか。我々はいち早くエグジオスが王都に進行していることを掴みました。そこで親交がありましたルルーナ様にご助言をいただき、援軍を出したという流れでございます」

「ルルーナが貴国と?」


 国王は俺の隣にいる王女に視線を向ける。


「え? え? 今日出会ったばかりだけど!??」

「ルルーナ様、我が国との関係をもう隠さなくてもいいのですよ」

「えぇ!??」


 いきなり話に巻き込まれて混乱するルルーナ。

 悪いけどここはしっかり味方になってもらわないとな。


「どういうことだルルーナ」

「それはえーっと、実はボク、彼をお婿さん候補にしようと考えているんだ」

「な……んだと?」


 絶句する国王。

 ぽかーんと口を開いた顔は間抜けだ。


「そのようなわけでルルーナ様と我が国は密かに親睦を深めておりました。我々がこの危機に駆けつけたのも決して偶然ではないのです」

「むぅ……桂木マテリアル国……」


 まだ警戒しているみたいだな。

 ここは一つ期待のできる情報で安心させるとしよう。


「我が国はすでに貴国への薬と食料の援助を決めております。あと一時間もすればここへ物資を載せた乗り物が到着するかと」

「薬と食料だと! そ、それはどこから持ってきている物だ!」

「もちろん我が国です。そちらで言うならグローリアの樹海からでしょうか」

「いつからだ! いつからエグジオスが王都に近づいていると気が付いていた!」

「えーっと、三時間ほど前でしょうか?」


 謁見の間がざわついた。

 予想外の反応に俺は内心で焦る。


 なにか不味いことでも言ったか?

 事前に敵が来ていることを予測できた点に警戒した?

 それとも別のことに反応した??


「貴公は余にホラ話をふいているようだな。グローリアの樹海――ドヴォルザークからここまで馬車で二日かかる。どんなに急いでも一日はかかる距離だ。それをたった数時間で食料を運んで来るだと。笑わせる」


 国王が笑うと兵士も高官も笑い始める。


 あ、そこね。なんとも発想が馬車止まりなのが見ていて痛々しい。

 ヘリを見たんだから気が付いてくれよ。


「我が国は空飛ぶ乗り物を有しております。陛下も我が国の兵器がドラゴンを攻撃するところを見られたのでは?」

「あの小さく奇妙な物か。だが一度に運べる量は少ないのではないのか」

「アレは攻撃用でございます。輸送用は一台で馬車十台分の積載量を有していることをここに明言しておきましょう」

「十台分!? 本当なのか!?」


 あまりの驚愕に国王は、玉座から飛び上がるようにして俺の元に駆け寄ってきた。


「え、ええ、事実です」

「では食料も本当の話か!?」

「はい」


 国王は今度は俺の周りをぐるぐる歩き始めた。

 じろじろ見てスーツを指で触ったりしてなにやらブツブツ呟いている。


「貴公はもしや魔道士か?」

「そうなんだ父上! ノリタカはマテリアル国の賢者なんだ! 空飛ぶ乗り物だってノリタカの一声で動いたんだ!」

「ほうほう、大臣にして賢者と」


 彼は魔道士らしき人物を呼び出し、俺の魔力を計測しろと命令する。

 そして、その男性魔道士は握力計のような物を取り出し掴めと言った。


「……ゼロです」

「あれ? そんなはずは――!?」


 一気に魔力を石に流すと粉々に弾け飛んだ。

 腰を抜かした男性は震えている。


「い、一万を計測できる計測器を……」

「すいません! どうにか弁償しますので!」


 必死に謝るが、場は凍り付いて沈黙が横たわる。

 不味い不味い不味い。まさか壊れるなんて。


「ぶふっぶははははっ! 面白い! まさか計測器を壊すとはな! だがしかし、これで桂木マテリアル国がいかほどか計り知ることができた!」

「は、はぁ……」

「エグジオスを退かせるほどの戦力。強大な魔力を有する賢者。そして、その者を大臣にする聡明な指導者。ルルーナよ、良き国と相手を見つけてきたな」


 お、おおお? いきなり好転し始めたぞ?

 ぜんぜん俺の描いたシナリオと違うが、上手くいきそうな予感がする。


「では改めて聞かせてもらおう。貴国が提供してくれる物資について」

「はい。まず本日中に一万人分の水と食料を運びます。あくまで当面をしのぐ携帯食ですが、一年ほど保ちますし十分ではないかと。それと薬や包帯などの手当に必要な物も本日中には届ける予定です。こちらは緊急性を考慮して一番最初に運び込む予定となっております……陛下?」


 二度目の沈黙。

 今度は恐怖の色が色濃く出ていた。


「一万人分の食料と水を一日でだと?」

「ええ」


 そこまで驚くことじゃないだろ。

 オスプレイで地下倉庫にあるカロリー〇イトの山を運んでくるだけだし。

 元々災害時の援助を想定して用意されていたから物資は山ほどあるんだよ。

 水も食料も賞味期限があるし、使えるときに使っておかないとさ。


「き、貴国と同盟を組むことを考えておく……」

「そうですか! どうかご一考していただければと!」


 営業スマイルで好印象を植え付ける。

 だが、なぜか国王はさらにブルブル震え始めた。


 なんでだろう?


「父上! これだけのことをしてくれるのだから、マテリアル国を国家として正式に認めても良いよね!?」

「そうだな。同盟を結ぶならばまずは周知せねば」

「それとマテリアル国はこの国で商売をしたいらしいんだ! 彼らに許可を出してあげてよ!」

「商売?」


 国王は今度は目を点にして首をかしげた。

 まったく頭になかったのだろう。


 彼は言葉を理解してニヤリとする。


「聞かせてもらいたい。マテリアル国はどのような商品を売るのかを」

「我々は主に物同士による取引を行っております。例えば鉱石を一定量得る代わりに、こちらからは塩や砂糖や小麦粉などを格安で引き渡しております。もちろんご要望があれば、できるだけ希望に添った物をご提供するつもりです」

「あれはいくらだ。あの空飛ぶ乗り物」

「残念ですがあれは売り物ではありません」


 国王はしゅんとあからさまに落ち込む。


 そりゃあ買えるなら買いたいよな。

 けど、さすがにあれらは俺の一存ではどうにもできない。

 つーかどうやって手に入れているのかすら俺は知らないのだ。


 それとなく話を逸らすことに。


「輸送手段でお困りなら我々をお雇いください。貸出料については要相談ですが、決して一方的で理不尽な契約は結びはしないと私が断言しておきます」

「おお、そう言うことなら悪い話ではないようだな。一つ聞くが傭兵として貴国の兵を雇うこともできるのか?」

「それについては持ち帰って相談してみないことには」

「ならば是非、貴国の国王と話し合って欲しい。いや、余が直接出向くべきか」

「いえ、陛下は人見知りなので、後日きちんと場を設けさせていただきます」


 国王は再びしゅんと落ち込む。


 会うのを楽しみにしてたのか……。


 これは急いでウチの国王を準備しないとな。

 さすがにワンマン社長は引っ張って来れないから、部長辺りに頼むしかないか。

 あの部長なら威厳もあるし誠実そうな印象も与えられるだろう。


「ところで……どうしてこの国にエグジオスが?」


 俺の言葉に全員がビクッとした。

 国王は玉座に座り、大きな溜め息を吐く。


 あー、これが初めてじゃないんだな。



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