十四話 熱出してぶっ倒れました
作者は味噌派です。塩派の皆さんはごめんなさい。
広瀬さんと話をした次の日。
俺は支部のオフィスでぶっ倒れていた。
脇から抜いた体温計は『42℃』と表示されている。
目の前がクラクラして気持ち悪い。
おまけに身体の芯が焼けるように熱くて苦しい。
ルルフェがジャーっと水からあげたタオルを絞って俺の額に乗せる。
もちろんこいつは頼んだことをしてくれているだけで、いつも通り無表情な上に咥えたカロリー〇イトが少しずつ囓っていた。
「油断してたよ。このタイミングで風邪になるなんて」
「風邪じゃないで。魔力熱じゃ」
あ……? 魔力熱??
「急激に魔力を得るとなる一時的な発熱じゃ。ここ最近、魔力を容量以上に増やしとったやろ。その影響がでたんやと思うで」
「なるほど……」
気が付けば保有魔力が二十万ほどになっている。
爆発的と言ってもいいほど増え続けていた。
やっぱ『原初からの恩恵』は中断した方がいいのかな。
「今、ノリタカの身体は大量の魔力に耐えられるように変化しよる。これを超えたら魔力熱はもう出んと思うで」
「そんなことよく分かるな」
「当たり前じゃ。ウチは魔王やで」
魔王かぁ。魔王はスゲぇんだな。
あー、頭が朦朧とする。わけワカメだ。
そう言えば風邪っていつぶりだろう。
数年前なのは確かだけど、あの時も結構キツかったような気が。
違うな。アレはインフルだ。寒気に身体が痛かった。
今回救いなのは熱だけってことだ。水分補給さえなんとかこなせば、乗り越えられそうな気がするようなしないような、キリンさんよりもゾウさんの方がもっと好き。
……うん、マジで頭が回らない。
「ほら、水やで」
「ありがと」
幼女から受け取ったコップで水を飲む。
なんだかんだ言ってコイツがいてくれて助かった。
一人だったら悲惨なことになってただろうな。
ルルフェはやるべきことはやったとばかりに部屋の隅に移動し、寝転がってノートPCをいじり始める。
どうせまたソリ〇ィアか。
「なぁノリタカ、この女の裸が沢山入っとる部屋はなんなんで?」
「やめろぉおおおおおおおっ! そこを見るなぁぁあああっ!!」
床を這って行きPCを奪い取る。
すぐさま俺はファイルを消去した。
てっきりゲームをしていると思ってたが、勝手にPCの中を漁っていたのか。
油断も隙もない奴だな。くそっ、熱が上がったじゃねぇか。
「変なところはイジるな。ゲームだけしてろ」
「さっきのは……」
「黙秘! 断固黙秘だ!!」
「しゃーないな。ソリ〇ィアするか」
なんとか寝床に戻って再び眠りにつく。
さすがにもうおかしなデータはなかったはずだ。
大丈夫。ゆっくり休める。
「また裸が出てきたで」
「動画だ!!」
再生される前に奪い取って消去する。
ちくしょう、このPCプライベートなんだぞ。
なんで今まで集めたコレクションを……。
「大人しくゲームをしろ! 分かったか!」
「なんでそんなに怒るっとるんで」
「言いたいけど言えないのが大人なんだ! いいから言うことを聞いてくれ!」
「わかったわかった。もう別のところは触らん」
俺は寝床に横になり、ようやく静かに眠る。
◇
翌日。晴れ晴れとした空の下で背伸びをした。
あれほど辛かった熱も落ち着いて今は健康そのもの。
今は腹が減ってたまらない。
てことで急いでオフィスに戻る。
かちっ、ぼぉおおお。
広瀬さんに持ってきてもらっていたカセットコンロのレバーを回す。
小さな鍋に水を入れるとコンロの上に。
じーっとルルフェは興味深そうに見ている。
「お茶でも飲むんか?」
「飯を食うんだよ」
「お湯はうまぁないで」
分かってるよ。誰もお湯で胃袋を膨らませるとか言ってないだろ。
リュックから取り出すのは『サッ〇ロ一番 味噌ラーメン』俺はこれが一番インスタントの中で好きだ。
もちろん塩も好きだがどちらかと言えば俺は味噌派。
甲乙付けがたい中で僅かに味噌に傾いているって感じだ。
麺を湯の中へ入れてしばし待つ。
器に麺と湯を入れてその上から粉末スープと香辛料をかければ完成だ。
あとはお好みで野菜や卵などをトッピングする。
麺をずるるっと啜ってスープを飲む。ピリ辛の味噌がさらに食欲を増進させた。
やっぱ広瀬さんに持ってきてもらって正解だったな。たまんねぇ。
「ウチにも一口くれ」
「……一口だけだぞ?」
器を受け取り、つたない手で割り箸を握る。
麺をすすれないのか一生懸命慣れない箸で麺を口に入れていた。
それから汁を一口飲むと、カッと目を見開いた。
「なんじゃこれ! 美味すぎるで!!」
「味噌ラーメンって言うんだ。俺の故郷ではよく食べられてる大ヒット商品だな」
「ミソラーメンか! ええな、ウチはこれ気に入ったで!」
「あ、おい」
幼女はラーメンの味を知って麺と汁をむさぼるように食らう。
結局、全て食べられてしまった。
――カロリー〇イトでも食うか。
ぽりぽり、無心にチーズ味を咀嚼した。
俺の味噌ラーメン……。
「ウチ、ノリタカの世界にいつか行くで」
「目的は食べ物か」
「そうじゃ。腹一杯ラーメンを食べるんじゃ」
「お前は早死にしそうだな」
そもそも許可が下りるかどうか。
会社の定めた最低ラインは、異世界人を地球に連れてこない辺りで引かれてるように思う。
もしそれを超えて向こうに連れて行くとすれば、我が社にとって切り離せないくらいの利益をもたらす人物のはずだ。
まぁ、こいつでは無理だろうな。
「諦めろ。向こうに連れて行くのは金のなる木を持ってる奴だけだ」
「金のなる木?」
「商売が間違いなく成功するネタのことだ」
「沢山儲けられればええんか?」
「簡単に言えばそうだな」
ルルフェは腕を組んで眉間に皺を寄せる。
しばらくして無表情に戻った。
「儲け方がわからんで」
「だろうな。お前にはそう言うのは期待してねぇよ」
ごろんと床に寝転がる。
昨日と今日で予想外に時間を潰してしまった。
でもこれはこれでよかったのかもな。
こっちに来てからずっと気を張ってたし。
ちゃんとリラックスできる時間ってのは必要だ。
がさがさ、もそもそ。
おいおい、まだ食うのかよ。
幼女がリュックを漁ってカロリー〇イトをもぐもぐする。
これでよく太らないよな。どうなってんだその身体。
「次はどこに行くんで」
「そうだな。とりあえず支部に人が来たら、引き継ぎを行って、それからマーガリンネの町にでも行くか」
「まーがりん?」
「マーガリンネだ!」
エンタの町から西に進んだところにあるらしい。
聞いた話では鍛冶などが盛んな場所だとか。
多くの冒険者もいるらしいので活気があるとも言っていた。
それに夜の店も多いとか。
さっさと仕事を一段落させてぱぁと羽を広げてみるのもいいかもな。
なんせ今の俺は金を持っている。おまけに嫁さんも恋人もいないし、心置きなく満喫できるのだ。それに色々と異世界人と地球人の違いも調べないといけないだろうしさ。
そう、これはれっきとした調査の一環だ。遊び心だけで行うことではない。
ビビ。ビビ。
トランシーバーが鳴る。
通話ボタンを押すと広瀬さんが声を発した。
『則孝君、聞こえる?』
「はい、どうしましたか」
『あのね。申し訳ないんだけど、至急こっちに戻ってきてもらえるかな』
「戻るんですか」
『なんかさ、この国のお偉いさんがやってきてるのよ』
えぇ!? お偉いさん!??
しかもなんでそこに俺を!?
『則孝君だったら上手く話をしてくれそうだなって思って。とにかく至急こっちに戻ってきて』
ぶちっ、と通話が切られた。




