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サラリーマン賢者の異世界業務日誌~ダラダラしながら高給をもらえるように一生懸命頑張ります~  作者: 徳川レモン
一章 平社員編

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十三話 迂闊な告白

 エンタ支部があるのはボイドさんのアトリエの二階だ。

 ボイドさんというのは有名な画家らしく、このアイビッシュ国では現在一、二位を争うほどの売れっ子らしい。


「これは誰の作品だ?」

「ゴッホという人物の『ひまわり』という作品です」

「素晴らしいな。実に存在感がある。実物はさぞ心打たれるのだろうな」

「そうかもしれませんね」


 ボイドさんは支部の設立に金銭はまったく要求してこなかった。

 その代わり絵の具の無償提供と俺が知る芸術を教えて欲しいと言った。


 かなり変った人物だと思う。


 ただ、俺は彼の姿勢には敬意のようなものを抱いていた。

 目先の金ではなくより新しい域に到達する為にあるものを惜しみなく払う。

 普通の思考の人間にはできないことだと感じたのだ。特に欲にまみれた俺みたいな人間には。


 俺は彼に有名芸術作品を扱った画集をプレゼントした。

 それと地球の芸術家が編み出した技術や思想などを載せた本も数冊。


 もちろん彼はこちらの文字を読めないので、時間のある時に俺が翻訳して聞かせた。

 彼はそれを聞きながらペンを走らせ異世界の文字に起こす。時々質問されると、俺の知る限りの知識を総動員してなんとか答えた。


「――こうしてピカソはキュビズムと呼ばれる表現を編み出した」

「くくく、意味深く斬新にして革命的だ。一視点でありながら多視点とは、これを考えた人物はまさに天才だな」


 パブロ・ピカソの紹介でボイドさんはなぜか笑い始める。

 俺には何がすごいのかさっぱりだが、彼にはピカソの奥深さが理解できるらしい。

 すごい人物をすごいと分かることはすごい。著しく語彙力を喪失した言葉だが、俺の彼への印象はそんな感じだ。


「ノリタカ暇じゃ。そろそろどっか出かけるで」

「まだボイドさんと話をしてるんだよ。自分で適当に時間を潰してろ」

「アレを貸してくれたら我慢するわ」


 しょうがねぇな。こういうの良くないとは思うが、静かにしてくれるからついつい貸しちまうんだよなぁ。


 俺は渋々リュックからノートPCを取り出して渡す。

 ルルフェは床でPCを開いて電源を入れると、迷うことなくソ〇ティアを開いた。

 ルールはすでに説明しているので、マウスを器用に使ってゲームを進行させて行く。


 まだソリ〇ィア止まりだが、これでゲーム機なんか知った日には、のめり込むんだろうな。


 自分が初めてゲームというものをやった日のことを思い出す。最初にやったのはポ〇モンだったな。ドはまりしてよく親に怒られたっけ。

 おかげでRPG大好きっ子に育っちまったのは良い思い出だ。


 ビビ。ビビ。


 トランシーバーが鳴る。

 お、そろそろ広瀬さんのご到着か。


「ボイドさん、悪いが急用が入ったからまた明日な。それと俺が異世界から来たことは秘密で」

「分かってる。約束を破って情報が得られなくなるのはつまらんからな。では私もそろそろ作業に戻るとするか」


 ボイドさんはエプロンを付けて、奥にある作業室へと戻っていった。





「サンプルを受け取って社長も大原さんも大喜びしてたわ」

「そうですか。なら良かった」


 二階にある事務室にて広瀬さんにコーヒーを出す。

 支部とは言ってもまだテーブルと簡素なソファーしかない状態だ。

 これから本部に様々な備品を送ってもらう予定なので、いずれここはデスクと書類であふれかえるのだろうな。


「それで契約は上手くいきましたか?」

「ええ、貴方がお膳立てしてくれたおかげですんなりと。特に前払いが効いたみたいね。今月末までには予定通りの量を納品してくれるそうよ」


 こちらが要求したのは黄鉄と炎の魔石と飛空石だ。

 他にも採掘できるそうだが、この三つが安定して採れるそうなのでメインに置いている。


「黄鉄は貴方の予想通りゴールド並に電気伝導率の高い鉱物だったわ。これでより安価に電子機器が作れることになる。飛空石に関しては色々使い道があるけど、とりあえず自動車会社にターゲットを絞り込んで、より燃費が良くなる部品として売り込むつもりよ」

「炎の魔石は?」

「あれは……ちょっと扱いが難しいわね。社長は携帯用暖房器具を考えているみたいだけど、取締役会や開発課でそれぞれ意見が割れているみたい。まだ特性を知る段階だから、なんとも言えないわね」


 それもそうか。商品開発には何年もかかる。

 ましてやこれから行うのは素材の研究からだ。何に使えて何に使えないのかはまだはっきりとは分からないのだ。


「でもどうやって未知の素材で販売をするんですか」

「さぁ? それとなく新しい素材を開発しましたって売り込むんじゃない?」


 いい加減だな。でもまぁ普通に考えたらそれしかないよな。

 そもそもウチの会社って危ない橋を渡り慣れてそうだし。

 つーか、あの社長のことだから手を回してなんとかするだろ。


 そうそうと広瀬さんが振り込み明細書のコピーを俺に差し出した。


「これ、今回の仕事の報酬よ。よく頑張ったわね」

「……マジすか」


 ボーナス日でもないのにいきなり三桁万円かよ。

 ヤバい、ヤバすぎるぞこの仕事。一年続けたら余裕で家が買える。

 お金をもらってこんなに怖いって思ったの初めてだよ。


「ぶっちゃけて言うと私の給与より高いのよ。思ってるより意外に良い条件で雇われてるってこと自覚しなさい」

「でもブラックすよね?」

「ブラックよ」


 給与は良くても労働環境は最悪だ。

 休暇はろくにないし、生活する場所も与えられないし、盗賊やミノタウロスとかそこら辺にいるし、生活費も自分で稼がなきゃいけないし、仕事内容も難易度高すぎだし。これくらいもらわないと割に合わない。

 うん、当然の額面だったな。驚くことでもなかったよ。


「これからどうするの? 今なら休暇をとるには良いタイミングだけど?」

「あー、俺も一度帰ろっかなって思ってたんですけど……考え直してもうしばらく仕事を進めることにしました」

「心変わりなんてどうしたの」

「向こうに帰っても特にやることもないし、休むならこっちでもできるかなって。それとルルフェを置いていくってのもちょっと気掛かりで」


 俺は部屋の隅で寝転がってPCで遊ぶ幼女に目をやる。

 何を考えてるか分からない奴だが、アレはアレで可愛いところもある。

 たまにだが食いかけのカロリー〇イトを分けてくれたりするんだ。


「もしかして則孝君って幼女が趣味なの?」

「違います! 俺はどちらかというと広瀬さんみたいなタイプが――」


 しまったぁぁあああああっ! よけいなことを言っちまったぁぁああ!!

 めちゃくちゃ顔が熱くなるのが分かる。恥ずかしさで死ねる。


「そ、そう……則孝君って私みたいなのが好みなんだ……」


 広瀬さんが顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。

 太ももにある手ではせわしなく指が動いている。


 この反応……もしかして不快に思ってる!?


 すいません! すいません! 

 本当は言うつもりはなかったんです! 

 だから嫌わないで! お願いします!


 彼女はコーヒーを飲み干し立ち上がった。


「私はね、色白でなまっちょろくて、それでいていざという時は熊も倒せるほど強い人がタイプなの。これでおあいこね」

「……そんな人間いるんすか?」

「いるわよきっと! もういい、帰らせてもらうわ!」


 ぷんぷんとなぜか怒って彼女は出て行った。


 あ、なんか分かったかも。

 広瀬さんが結婚できない理由。


 外からジープが勢いよく走り去る音が聞こえた。



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