十二話 討伐の報酬
書きためしますので更新は数日ほどお休みにします。
エンタの領主に呼び出され豪華な屋敷の一室に入る。
そこでは奇抜な柄の貴族服を着た、太った中年男性が待っていた。
「座れ」
「では失礼します」
異世界式の挨拶をしてからアンティーク調のソファーに腰掛ける。
ルルフェも同じく座ると、懐からカロリー〇イトを取り出してかじり始めた。
「お前がエンシェントガーゴイルを倒したという冒険者か。思っていたよりも見た目は頼りないな。服装もこの辺りでは見たことがないものだ」
「お初にお目にかかります。自分は桂木マテリアルという会社で働いております、佐藤則孝という者です。冒険者は副業とでも思っていただければご理解が早いかと」
俺は名刺を取り出し差し出した。
受け取った彼は目を見開く。
「なんとこんなに小さな場所に精巧な顔が描かれている! それにこの紙のさわり心地! 貴様一体何者だ!? どこの国に属している!??」
「落ち着いてください。それについてはこちらのお話しを聞いていただければ、あとでじっくりとご説明するつもりです」
「そ、そうか。ならばよい」
よほど名刺が衝撃的だったのか、領主は戸惑いを隠しきれていなかった。
名刺程度で驚かれたのは完全に想定外だ。
だが、同時に頭の回転が速い人物であるともいえる。
受け取った物から相手の情報を読み取ろうとする能力が高いのだろう。
これは案外早く話がつきそうだ。
「話を聞く前に一つ聞かせてくれ。貴様はどうやって古の強力な魔物を倒したのだ。仲間はそこにいる子供一人だけだったのだろう?」
「ええまぁ。とは言っても説明するほどのことでもないのですが……ただ単に防御障壁で押しつぶしただけですよ」
「防御の魔法で殺しただと!?」
「そうなりますね」
領主は指で眉間を押さえて溜め息を吐く。
んん? 変なことだったか?
俺からするとかなり普通の攻撃方法だと思うが。
「私はこれでも昔はそこそこ名の知れた魔道士だったんだ。国王陛下にも期待され多くの戦果をあげた。だが、それでも長い魔道士人生でただの一度も、障壁で攻撃しようなどと言う発想は出てこなかった。その斬新な魔法の使い方、まるで若き頃の賢者イオのようだな」
賢者イオ? 誰だそれ??
しかしながら、これから商談をしようって時に無知なのをさらけ出すのは得策ではない。
ここはあえて適当に相づちを打って話に乗ることにした。
「そうなんですかね。自分ではよく分かりませんが。それでですが、もしよろしければこれから商談などさせていただけると大変嬉しいのですがいかがでしょうか。もちろんお話しだけでも聞いていただければ嬉しい限りです」
「ふむ、まぁ今回の礼もかねて話だけは聞いてやろうか」
よしっ! まずは一つ目の壁をクリア!
ここからどれだけ我が社との取引に魅力を感じてもらうかだ。
俺はさりげなく領主が腰を押さえる動作をしているのに注意を向けた。
杖を持っているし、もしかすると腰痛持ちか。
これはこの状況で使えるかもしれない。
「腰がお辛そうですね」
「ん? ああ、腰痛を患っていてね。すっかり屋敷から出られない生活を送っているのだよ。魔法というのは便利な力だが、病気や怪我までは治してくれないのが難点だ」
「もしよろしければよく効く薬を持っているのですが、そちらを使われてみますか?」
「ほう、桂木マテリアルというのは薬の会社なのか」
「そういうわけではありませんが、痛みを我慢してお付き合いしていただくのは大変申し訳ないかと存じますので」
彼は快く了承してくれ、ソファーにうつ伏せで横になった。
俺はリュックから湿布を取り出し、腰の辺りにぺたりと貼る。
念のために持ってきていた湿布が役に立つとは、備えあれば憂いなしってよく言ったものだ。
「お、おおお! これはなかなか! どんどん痛みがひいていくぞ!」
「喜んでいただき何よりです」
「これはいくらだ!? どこにいくら払えば手に入る!!?」
ぬふふ、ほんとチョロいな。
まるで釣り堀で釣りをしているみたいだぜ。
地球の製品を使えば簡単に営業が進む。
座り直した領主に改めて商談を開始する。
「我が社は主に金属加工を行っておりまして、最近では新しい商品を開発するべく様々な鉱物の安定した供給路を確保しようとプロジェクトを進めております。そこで注目したのがエンタ鉱山の採掘される鉱物。質も良く量も豊富な御社に供給の一役を担っていただきたいとお願いをするべく本日は参らせていただきました」
「金属加工とな……いまいちイメージができないのだが、大規模な鍛冶屋だろうか?」
「それに近いでしょうね。我が社としてはできれば今すぐにでも、供給いただいた際の報酬のお話しをさせていただければと考えております」
俺はエンタの町の総合的な情報を分析、領主が欲しがるだろう物をリストにして、できるだけ安くあげられるような量で提示した。
もちろんこちらのお金で支払っても全然いいのだが、基本的に円→ギランへの換金が面倒になので我が社は物々交換を推奨している。
「塩を馬車十台分だと!? それに砂糖に小麦粉!? これを対価にすると本当に言っているのか!!」
「ご不満でしょうか?」
「そんなわけあるか! 私はこれが可能なのかと尋ねている!」
だよなぁ、だってこの町って結構な食糧不足に陥ってるんだよ。
金はあっても運搬能力がない。なのに鉱山で働く人手は増えているのだ。
人が増えればそれだけ食料が消える。そうなると他の領地は値をつり上げて食料を売るだろう。
まさに我が社の登場は救いのはずだ。
「その品目に先ほどの薬もおつけいたしましょうか」
「!?」
「返事は後日で結構です。大変恐縮ですがこの町に支社がありますので、そちらの方にお伝え願えればと思っております」
「待ってくれ、すぐに取引をする! させてくれ!!」
立ち上がろうとしたところでいきなり返事をもらう。
うわぁ、なんて楽な営業なんだ。
日本じゃ初回の訪問では普通動かないぞ。
やばいな、異世界の営業って割と楽しいかも。
俺はひとまず、この条件で上司と相談すると言って屋敷を後にした。
ギルドに向かうと一斉に目を向けられる。
俺を目にするなり冒険者達がこそこそと会話を始めた。
「あいつがエンシェントガーゴイルを?」
「聞いた話だとかなりヤバい魔法を使うらしいわ」
「初めて見たときからただ者じゃねぇって思ってたんだよ」
「あんなさえない顔して血に飢えてるのか」
なんか話に尾ひれが付いてないか?
つーかさえない顔して血に飢えてるとか余計なんだよ。
俺が飢えてるのは愛とビールと自由な時間だ。
「もう眠いで。いつまで仕事するんじゃ」
「悪いな。ほら、背負ってやるから」
「ん」
ウトウトするルルフェを背負ってやる。
俺は受付の職員に、表にエンシェントガーゴイルの死体があると伝えた。
そして、金貨十枚が支払われる。
一千万ギラン。つまり一千万円だ。
俺はあまりの大金に手が震えた。
どうしよう、地球に帰りたくなくなってきたかも……。