十一話 ガーゴイル退治その2
「今のなんだよ! あんためちゃくちゃ強ぇじゃん!」
「そ、そうかな」
「尊敬します! よく見るとその格好カッコイイですよねっ!」
「うん……」
「このままウチらの仲間になってくれよ! なぁ!」
「それはちょっと」
三人は手の平を返して絶賛する。
露骨すぎてちょっと引くレベルだ。
俺が考えてるよりもずっと力とは人の見る目を変えさせるらしい。
今後はもう少し実力を見せた方が良いみたいだ。
「ぺっ、まず。これは食えんで」
ルルファがガーゴイルの身体の一部を口に含んで吐き出す。
やめなさい。なんでも拾って口に入れない。
カロリー〇イトを取り出して振ってやると、子犬のように幼女がぱたぱた足音を鳴らして寄ってくる。もそもそ食べ始めると大人しくなった。
「それでどうするリーダー」
「えぇ!? 俺がリーダーなの!?」
「この中で一番強いんだから当然じゃないか。ささ、なんでも指示に従うから言ってくれよ」
男の剣士はへりくだって気持ち悪いくらいに素直になっていた。
これはなんとなく同類の臭いがする。楽して金を稼ぎたい奴の臭いだ。
俺を前面に押し出して戦いを避けようという魂胆なのだろう。
……ま、それでもいいか。
実際、俺の方が強いし俺が前に出た方が早い。
「お前達は後方を警戒してくれ。俺は前方の敵を始末する」
「「「了解!!」」」
新しい魔法ファイヤーブレイクはなかなか優秀だった。
短い呪文で発動も早いし、消費魔力も低いし効率の良い攻撃魔法だ。
ちなみに魔法にもランクが存在する。
最底辺を『第一法位』と呼び、現在確認されている最上位を『第五法位』と呼ぶそうだ。
それぞれには属性の区切りがあり、炎属性の第二法位に位置するのがファイヤーブレイクなのである。
「すごいわぁすごいわぁ、彼の魔力どこまであるのかしら。ずっと魔法を撃ってるのにぜんぜん空っぽにならない」
「ノリタカは底なしの男なんじゃ」
「最高じゃない。ありあまる魔力で敵を逝かせまくるなんて」
おい、幼女とそこの女魔道士。
俺の後ろで変な話をするんじゃない。
卑猥に聞こえるだろ。
それに魔力も底なしってわけじゃ……あれ?
魔力の残量に意識を向けると違和感に気が付く。
総量が二倍に増えてる?? なんでだ?
昨日までの俺の魔力総量は数値で言えば五万くらいだった。
これは無駄な魔力消費を抑えた結果である。
なのに今は十万ほどある感覚だ。
どこからかどんどん魔力が補給されているような感じだ。
もしやこれが実行中にした『原初からの恩恵』なのか?
ほどなくして道は行き止まりに突き当たる。
そこは大きな空間があり、百を超えるガーゴイルが壁面から露出する何かを懸命に掘り出そうとしていた。
「なんだあれ?」
「うそだよな、あれってもしかして……」
「そんなまさか。こんなところにあんなものがいるなんて聞いてないわよ」
俺以外の三人は壁から露出している、大きなガーゴイルのような石像に怯えていた。
ルルフェはオヤツに夢中でそもそも見てすらいないので論外だ。
「教えてくれって。アレはなんなんだ」
「そんなことも知らないのか。あれは古の魔物エンシェントガーゴイルだ。ドラゴンにも匹敵するほどの力を持ち、過去に掘り起こしてしまった町は一夜で壊滅したほどだ。とにかく俺達は逃げさせてもらう」
三人は俺達を置いて本当に逃げ出した。
ようするにかなり危険な状況ってことか。
「ノリタカはどうするんな。やるんやったら手伝うで」
「……逃げられないよな。ここを捨てると色々目算がパァになるし。よし、もし倒せたらカロリー〇イトを山ほど食わせてやるから行ってこい」
「ウチだけか」
シュタッ、走り出したルルフェはガーゴイル共を蹴散らし、易々とエンシェントガーゴイルに迫る。
びしっ。びしびしびしっ。
壁面にヒビが入り、巨大なガーゴイルの真っ赤な目が開かれた。
危険を察して目覚めてしまったか。
「ウガァァアアアアッ!!」
身の丈はおよそ五メートル。
通常のガーゴイルをより凶悪にデザインした石の魔物が動き出した。
「フングッ!」
「でいっ!!」
エンシェントガーゴイルの振り下ろした拳がルルフェの頭に落とされる。
反対にルルフェも受け止めるつもりで、頭を上半身のバネだけで叩きつけた。
轟音が空間に反響する。
まだ競り合っている。拳と頭がぎりぎりと押し合い、僅かにだが押したり引いたりを繰り返す。
しかし、拮抗はすぐに破られた。
敵の腕が一気に振り抜かれ、ルルフェは壁へと弾き飛ばされる。
「おい! 大丈夫か!?」
「心配ない。ダメージゼロじゃ。でも力ではあいつに負けとる」
「分かった。だったら俺がなんとかする」
ルルフェの頭を軽く撫でて俺は立ち上がった。
よくも俺の部下(仮)を傷つけてくれたな。
エンシェントガーゴイルだがなんだか知らないが、この落とし前はきっちりつけさせてもらうぞ。
防御障壁を十に設定し、呪文を唱えて空中に発動のキーとなる文字を描く。
本来ならここで必要最低限の魔力だけを投入するのだが、俺はそれを無視して何倍もの大量の魔力を注ぎ込んだ。すると制限の壁にぶち当たる。
制限の壁とは、言わば発動に必要な器の大きさだ。
どんな魔法にも注ぎ込む魔力の限界値が存在していて、それを超えると一つ上のランクの魔法へと一時的に昇華される。もっと簡単に言えば、二倍の魔力で第二法位に、三倍の魔力で第三法位へと上がるということだ。
俺は強引に壁をぶち壊し、防御障壁を第五法位へと昇華させた。
「第五法位、プリズンキューブ」
発動するとエンシェントガーゴイルの周囲を透明な正方形の箱が覆う。
ふわりと浮き上がると、箱はぐんっと小さくなる。
ヤバいことに気が付いたガーゴイルは、箱を壊そうと暴れているがもう遅い。
また一段と箱が小さくなりすでにエンシェントガーゴイルは身動きのとれない状況だった。
ビシビシッ、メキャ。
箱が敵を押しつぶし石のブロックができあがる。
障壁が消えるとゴトン、ブロックが地面に落ちた。
墓標には最適だな。
「山ほどのカロリーなんとかはくれるんか?」
「いきなり話をすり替えるな」
お前が倒したらの話だろ。
なんで俺が倒したのにお前にオヤツをやらなきゃいけないんだよ。
「とりあえず帰るぞ」
俺は身体向上でブロックを背負い、来た道を戻った。
「エンシェントガーゴイルを倒しただって!?」
現場責任者に報告をすると、戻ってきていた冒険者達がざわついた。
証拠としてブロックを見せるとざわつきすらも消える。
「あいつただ者じゃねぇよ」
「ありえねぇって。魔道士だけで倒すなんて」
「でも同行した三人がとてつもない保有魔力だって言ってたわよ」
「てことは本当に倒したのか」
冒険者達は硬い表情でニ、ニコッ……と微笑んだ。
なるほど彼らも手の平を返したのか。
なんて分かりやすい奴らなんだ。
しばらく離れていた現場監督が戻ってきて俺を呼ぶ。
「領主様が礼を言いたいと言っているんだ。疲れているところ悪いんだが、挨拶に行ってきてくれないか」
「分かりました。こっちも好都合ですし」
「??」
俺は外套を脱いで領主の元へと急いだ。
さぁ、ここからが営業だ。