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サラリーマン賢者の異世界業務日誌~ダラダラしながら高給をもらえるように一生懸命頑張ります~  作者: 徳川レモン
一章 平社員編

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十話 ガーゴイル退治その1

 ドグリン鉱山。そこはエンタの町から北へ行ったところにある、この辺りでは有名な採掘場所だ。

 採れる鉱石はいくつかあるが、最も採掘量が多いのは黄鉄と炎の魔石だそうだ。


 聞く話によると、黄鉄は鉄の硬度で非常に電気が通りやすい性質の金属らしい。

 もし安価でゴールド並みに電気伝導が高ければ、我が社にとっては素晴らしい発見となることは間違いない。


 一方の炎の魔石は鉱石と言うには少し性質が違う。


 魔石というのは地面の中で魔力が結晶化した物質なのだとか。

 その為、魔力を持ちいらずともその属性の魔法が使えるらしい。ただ、便利ではあるものの出力は小さく、使えば使うほど小さくなって消耗していくと言う欠点も有している。

 この世界では生活をほんの少し助ける道具として、加工され利用されているそうだ。


 俺のやるべきことはこの二種類の鉱物のサンプルを採取し、広瀬さんの判断を窺った上で、安定した供給ルートを確保することである。

 なのでまずはサンプルの採取から始めるとする。


 ――なのだが、どうしてこんな重労働をさせられているんだ。


「オラ、もっと腰を入れて掘らねぇか!」

「もう疲れたよ。休ませてくれ」

「ごちゃごちゃうるせぇな新人! 給料払わねぇぞ!」


 ひたすらツルハシで壁を掘る。壁を掘る。壁を掘る。

 ずっとそれの繰り返し。ここ三日まともに空も拝んでいない。


「ふわぁ~、そろそろ飽きてきたでノリタカ」

「しるかっ! お前は端っこで遊んでろ!」


 ルルフェは離れた場所で石を積み重ねて暇を潰している。


 俺だってな、こんなことをする為にここへ来たんじゃねぇんだよ。

 ガーゴイルってのが出てくるって言うから、サンプル採取のついでに討伐しに来たんだ。

 なのに、肝心の魔物は一匹も出てきやしねぇし、サンプルも採取する時間がほとんどねぇ。

 これじゃあただの採掘員じゃねぇか。


 しかも現場担当のおっさんは俺をべらぼうにこき使うし。

 こんなの理不尽だ。早くビール飲みながらエアコンの効いた部屋でゴロゴロしたい。いつもやってるソシャゲでガチャ回したい。広瀬さん似の可愛い女の子の動画で――おっと、これは余計だったな。


 ガッキン。


 ツルハシが何かに当たった。

 なんだこの感触。


 担当のおっさんがやってきて、ハンドボールほどの塊を壁から掘り出した。

 そして、すぐさまルーペを取り出して表面を覗く。


「こりゃあ飛空石じゃねぇか」

「ヒクウセキ?」

「なんだ知らねぇのか。飛空石ってのは魔力を流すと接した物の重量を軽くするんだ。高純度の石だと持つだけで自由に空も飛べるって話だが……それはさすがに尾ひれが付いた話だな」


 おお、まさかのリアルラ〇ュタか。

 じゃあこの世界には天空の城があって機械兵がいるのだろうか。

 サングラスをかけた男が真の王になるのを待ちわびていると。

 心の中で懐かしいエンディング曲が流れ始める。


「ぼやっとしてねぇで次を掘れ!」

「はいはい、わかりましたよー」


 ザックザックとツルハシを振り下ろして再び手応えがあった。

 今度はデカい塊がごろりと出てきて、割れた箇所から美しい青が覗いている。

 

「どうもここには飛空石の鉱脈がありそうだな。責任者のニックさんに知らせるか」

「なぁ、あんまり驚いてないみたいだけど、飛空石って珍しくないのか?」

「そこまではな。けど、なかなか質は良いみたいだから高値で売れるんじゃないか」


 飛空石……これって会社の利益に絶対なるよな?

 だってさ、重量が軽減するなんてどう考えてもヤバすぎるだろ。たとえば重さで断念していた商品だって、コレを入れれば問題解決だし。使い方次第では日本の文明レベルが一段上がる可能性すらある。

 そうだこれだよ、間違いなくこれが金のなる木だ。


 おさっさんが現場を離れている隙に、新たな飛空石の欠片を掘り出し採取する。

 くふふ、これで出世間違いなし。ダラダラ適度に営業をするのも悪くなかったが、部下に仕事を任せてのんびりするのもなかなかいいよな。

 

 ここに来てようやく出世欲が出てきたぜ。目指すは我が社の幹部だ。


「たすけてくれぇ!」


 坑道の奥から数人の坑夫が逃げてくる。

 それを守るようにして後方では、男性の剣士と女性の斧使いが戦闘を繰り広げている。


「あんた魔道士だよな、ガーゴイルを倒してくれよ!」

「あ、ああ……」


 ガッと坑夫の一人に両肩を掴まれて懇願される。


 見れば敵は小さな悪魔のような姿をした石像だった。

 あれがガーゴイルか。

 坑道などを狙って繁殖し人間を餌にする魔物。


 俺はライトニングスパークをレベル五に上げて、二人の冒険者に下がるように指示を出す。


 雷撃は一匹のガーゴイルに直撃。

 だが、一度では破壊しきれなかったので二度ぶつけることとなった。

 やっぱり石材だと雷撃が効きにくいか。


「まだあと二匹いるぞ!」

「分かってるって!」


 男性の剣士に指摘されて怒鳴り口調で返事をする。

 俺は身体向上と防御障壁をレベル五に引き上げ、障壁を自らの身体に隙間なく覆うと、力任せでガーゴイルをぶん殴った。


 バゴンッ。


 思ったよりも弱かった。

 いや、これは俺が強いんだ。


 三匹の敵を倒したのもつかの間、さらに奥からガーゴイル共がわらわらと出てくる。


「ルルフェ、そろそろお前も手伝え」

「しゃーないな。手伝うで」


 幼女は一瞬でガーゴイルを数体始末する。

 俺も防御障壁を数体の敵にかぶせ一気に収縮させた。


 おお、割と余裕だな。

 名付けて障壁圧殺ってところか。


 ひとまず落ち着いたところで、俺はガーゴイルの肉体の一部をサンプルとして採取する。


 触った感触は完全に石だな。

 これが生物として繁殖しているのは驚きである。

 もしかして無機物に見えて有機物とか?


 数分遅れて冒険者の集団が駆けつけた。

 事情を知る二人の冒険者は俺を含めた全員に説明を行う。


「最奥の壁が崩落して新たな空間と繋がったんだ。恐らくガーゴイルはあの向こうからやってきてる」


 ふむふむ、ようするに俺達がいる坑道とは別に空洞があるんだな。

 そこでガーゴイルが繁殖してこちらに流れてきていると。


 そこへ鉱山の責任者がやってきて俺達に述べる。


「魔物の巣を潰してもらい為にあんた達を雇ったんだ。しっかり報酬分は働いてもらうぞ。ほら、分かったらとっとと行け」


 冒険者達は露骨に嫌そうな顔をした。

 そりゃあそうだ。雇われているとは言えあの言い方はない。

 どことなくウチの社長に似ているので無精にぶん殴りたくなった。


 俺達は奥へと警戒しながら進み、崩落した壁へとたどり着いた。


 奥へと偵察に行った奴らが戻ってきて報告をする。


「この先は天然の洞窟のようだが、いくつかのルートに枝分かれしているようだ。ひとまずパーティーごとに均等に割り振って進もう」


 俺達は三人パーティーの奴らと同行することになった。

 男性の剣士、女性の槍使い、女性の魔道士だ。


「俺達の足を引っ張るなよ。新人」

「変な格好。よくいるわよね、実力もないのに無駄に目立とうとする奴」

「あの首に付けてる布ってなんなんだ、めちゃくちゃ笑える」


 ずいぶん馬鹿にされてるな。

 だが、しょうがない。実際俺は新人だし変な格好だ。

 そもそもスーツ姿のサラリーマンが鉱山で働いているのもおかしい。


 数分ほど先を進んだところで十匹ほどのガーゴイルが出てくる。

 俺とルルフェは足を引っ張らないように見守ることにした。


「くっ、なんて数だ! 援護を頼む!」

「ファイヤーブレイク!」


 ボフンッ、爆発によって敵が爆散する。

 俺はそれを見ながら勉強していた。


 空中でこう言う文字を描いて……呪文は短いし覚えたと……あとはどの程度の魔力で発動するかだな。

 コレが使えれば雷撃以外の攻撃手段を手に入れられる。

 他の魔道士の活躍を見るってのもいいもんだな。知識が増える。


「これ以上は無理だ! 敵の数が多すぎる!」

「どうしよう、もう魔力切れだわ!」

「こっちももう抑えきれない! なんなのこの数!」


 あ、知らない間に三人がピンチに陥ってるぞ。

 では新しい魔法を試し打ちするとしよう。


 ファイヤーブレイクのレベルを三に引き上げ放つ。


 ボドォオオン。

 四十匹近くいたガーゴイルが粉々に吹き飛び通路に炎が走った。

 パラパラと石ころが頭に落ちてくると、三人は状況が飲み込めないのか揃って固まっていた。


 け、結構威力のある魔法だったんだな……。

 放ったはずの俺も驚いたよ。



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