23 温泉と7階層ダンジョン探索
それは、母さんの一言から始まった。
「ねえ、ダンジョンには温泉は出ないの?」
「温泉って、出るわけないだろう。」
「残念ね。ここんとこ忙しくて、温泉にでもつかって疲れをとりたいわ。」
温泉かあ。
ダンジョンの中で見たことないが、もしかして【スキル索敵】で源泉を見つけることができるかもしれない。
さっそく、うちの敷地の中を探してみた。
そうだよな、簡単に見つかるわけないよな。
「達坊、なにうろうろしてるんだ。」
俺があっちこっちうろついていたので、隣の家の高田のじいちゃんが声をかけてきた。
「いや、温泉がないかなと思って。」
「ほおー、今度は温泉マジックか?コップから温泉をだすのか?」
「ちがーう!源泉がないか探しているんだ。」
魔法じゃなく、正確にはスキルを使って源泉を探している。
なぜマジックが出てくる?
「温泉かあ?そういえば佐々木のばあさんが昔どっかで出たと言っていたな?」
新情報を聞いたので、早速佐々木ハツばあちゃんに聞きに行った。
佐々木ハツばあちゃんはこの村で一番の古株の住民だから知っているかもしれない。
「温泉?今度は温泉饅頭を出すマジックかい?」
「ちがう!昔ここら辺で温泉が出た話をしただろう?どこらへんに出たか知りたいんだ。」
「そうさの、わしの死んだ母ちゃんが昔言っていた気がするが、うーん。」
佐々木のばあちゃんが考え込む。俺は、期待しながら答えを待った。
「思い出せん。」
ダメだったか。
「思い出したら、教えて。」
結局、振出しに戻った。
家に帰ると母さんが言った。
「達也、ハツさんから電話があって、高田さん家の山だって。」
高田のじいちゃん!!あんたんちかい!!!
「温泉があるらしいので、探させてほしいです。」
俺は高田のじいちゃんの家に行って頼んだ。
「ここはもう、達坊のもんだからかまわんぞ。」
そうだった。大地主のものだった。
「それにしても、じいちゃんは温泉あるの知らなかったのか?」
「俺たちはまだここにきて20年くらいだからな。」
「えっ、そうなの。」
「老後を大自然でっていうので、1000坪くらいの土地をそれぞれ個人で買ってみんな移り住んだ移住組だからなあ。
昔からいるのはハツばあさんのとこ位だぞ。」
「1000坪ってそれじゃあ、俺って5000坪の土地の地主なのか?」
「こんな辺鄙な土地だからなあ。1坪1000円もしないぞ。それに一口1000坪だから、わしんとこは5口だったかな?他の奴らもそれくらいは持ってるんじゃないか。」
「どんだけ!」
右往左往したが、あっけなく源泉は見つかった。
【スキル索敵】意外と使い方によっては万能だな。
もしかして、遺跡や埋蔵金なんかも見つけられるかも。
源泉は見つけたが、あとのことは考えていなかった。とりあえず、掘ればいいのか?
土魔法で掘ることは簡単だが、どうしよう。
温泉だけじゃ絶対騒ぐよな、母さんが。
元大工の高田のじいちゃんに相談しよう。
「じいちゃん、源泉見つけたけど、どうしたらいい?」
「もう見つけたのか?早いな、まだ2時間しかたってないぞ。
温泉ってそこらじゅうにあるのか?
ボーリングだったかのう、地下水をくみ上げるのと同じだったか?
100m1000万はかかるはずだから、1km掘るとして1億かかってほかの土砂移動やトラック配送で2億はかかりそうだのう。まあ金はあるからいいとして。うーん。」
ぶつぶつ言いだしたが、さすがに俺より詳しい。
「じいちゃん、温泉掘り出すのは俺の魔法ですぐ掘れるぞ。それと材木もあるからログハウスぽいのならすぐ建てられる。風呂はやっぱり檜だろう。露天風呂もいいけど、女達がうるさいから男女別に分けないと。あ、レオとライヤとも入りたいから家族風呂みたいなのもほしいかな。」
俺は要望を言ってみた。
「ほお、達坊のマジックは便利だのう。」
「マジックじゃなくて魔法だよ。
やっぱ細かなとこは指図してもらわないとだめだから、じいちゃん設計してよ。」
「おう、わかった。」
こうして、温泉計画を始めた俺はさらに多忙になり、まさしく、墓穴を掘った。
高田のじいちゃんと二人で内緒で始めた秘密基地はあっさりと母さんにばれた。
せっかくだから、会社の保養所にしようという事になった。
今日から7階層ダンジョン・デビューだ。
さて、どんなものが手に入るか、いや探索だ、気を引き締めて行こう。
魔法陣から出ると、そこは6階層と全く同じだった。
草原スペースだが、違うのは7階には空があった。雲一つない快晴の空だ。
ほんと、ダンジョンは不思議な構造をしている。
しばらくすると、青い木が10本ほど動いているのが見えた。
その上空を緑色と黒のコントラストの蜂みたいなものが5匹ほど飛び回っている。
この木も大きいが、蜂もでかい。1匹が50cmはある。しかも両手が大きな槍になっている。
おっと、この木は野球のピッチャーが投げるフォームで、蜂に向かって野球のボールくらいの青い実を投げている。
剛速球だ。次々に枝から実が投げられる。
対するキャッチャーの蜂は、その両手に投げられた実を刺し貫いて受け止めている。
バッターは飛蝗が・・・
さすがにいなかった。
1匹の蜂に後方から投げられた実があたった。実が破裂するとねっとりした液体が蜂にふりかかった。
羽の動作が鈍くなりそこへ次々に実が投げつけられ、とうとう蜂が落下した。
【鑑定】
種族:ミドリオリーブホーネット
レベル9
きわめて攻撃性が高くオリーブが好物。テリトリーを重視するため侵害されると攻撃する。
【鑑定】
種族:ネバディルッカオリーブ
レベル9
実つきがよく上質な搾油がとれる。ビタミンE、オレイン酸、βカロテン、ポリフェノールを多く含む。
オリーブ油だ!
極上のオリーブ油、欲しい。
俺は風魔法を使い大きなオリーブの木ごと巻き上げ、逆さにしてオリーブの実を落とす。
オリーブ油じゃなくオリーブを手に入れた。
蜂は両手の槍が魔核らしくドロップアイテムにすると、丸い薄いクリーム色のボール状になった。
たぶん、オリーブ油だ。
レオとライヤは興味なさそうだ。
オリーブを手に入れた。
もしかしたら蜂の巣があるかもしれない。大量のオリーブ油がいる。
楽しみだ。
先に進んだ。
すると、今度はゴマの木らしきものと燕らしきものと戦っていた。
見た目は燕だが、色が緑と白のツートンでやはり50cmはあり大きい。そして嘴が異様に大きく鋭く尖っている。恐い。
燕はものすごい速さで特攻している。ゴマの木はそれを華麗にかわしている。
燕がボールでそれをよけるゴマの木。今度はまるでドッチボールのようだ。
【鑑定】
種族:ミドリゴマスワロー
レベル9
細長い体型で時速100km/hで飛行する。ヤナギが好物。
【鑑定】
種族:ガマズミゴマヤナギ
レベル9
赤く熟した実が特徴。葉を揉むとより一層ゴマの香りがする。
ゴマもごま油になるな。ゴマ自体も流用できる。
レオとライヤはじゃれて遊んでいる。興味ないみたいだ。
ゴマをゲットした。ゴマの木は上手に魔法をよけるので少し本気になったのは内緒だ。
ちなみに、燕はレオが倒し、解体ナイフで解体し食べてみたらごま風味の肉だった。
しばらく行くと、5Km先に茶色の大きな獣が土を掘り返していた。
目を凝らしてみると、どうやらイノシシぽかった。
だが、大きい。3mはある。茶色と黒の縦じまだがシマウマではない、イノシシだ。
アニメのもの○○姫に出てくるあのイノシシみたいだ。
大きな2本の牙を使い上手に土を掘り返している。
レオの目が輝きだした。
【鑑定】
種族:タテジマユリボア
レベル10
地中の植物なら何でも食べる雑種。地中の餌を掘り出すのが得意。常に走っているか穴を掘って食べている。
今度はマラソンランナーみたいだ。
でも、イノシシ=牡丹鍋旨そうだ。
あれ、あのイノシシが掘り出しているのは大きさが違うが昨日テレビで見たぞ。
【鑑定】
種族:オニヤマユリネ
レベル9
主成分は糖質でグルコマンナンが豊富。地中を移動しているので見つけづらい。
すごい、見た目はユリ根だが大きさが50cmはある。
ユリ根は育成に7年もかかり貴重品でめったに出回らないと昨日テレビで放送していた。
ここにいるとは思いもよらなかった。ダンジョン産ユリ根だから旨いに違いない。
俺が動く前に、レオとライヤがイノシシに襲いかかっていた。
俺は驚いたイノシシから、捕まえていたユリ根を素早く奪った。
「牙が魔核になっているぞ。」
二人の攻撃を受けてすでに弱っていたイノシシの牙を爪で一刀両断にへし折る。
イノシシが光の粒子となり消えていき、イノシシ肉と毛皮、魔石のドロップアイテムになった。
俺はユリ根とイノシシを収納し、地中の索敵を使い探した。
ユリ根がもっと欲しいから。
驚いたことに、土の中にはユリ根のほかにも“茗荷”や“生姜”が隠れて移動していた。
手当たり次第に土を掘り返して、こいつらを捕まえた。
レオとライヤも穴掘りが楽しくて手伝ってくれた。
なんとかユリ根を5つ見つけて、その日は家に帰った。
家に戻るとなぜかご近所一同が揃っていた。
母さんだけでなく、みなの勘がよくなっている。これもダンジョン産の効果か?
俺が巨大ユリ根を出すと皆驚いていた。
そこ、小声で言わない、マジックじゃないから。
さっそく母さんを筆頭に奥様方がユリ根を奪って、もとい持って行った。
俺はそこら辺に置いてある鉄を持ってきて、【スキル錬金】で大鍋を3つ作った。
ついでに大鍋用竈もつくり、大鍋をセットした。
その間、男どもは鍋用の野菜やスライム水・薪などの具材を大量に用意準備した。
鍋が完成した。
3つのグループに分かれた。
俺の鍋のメンバーは、俺に母さん、高田のじいちゃんとばあちゃん、佐々木ばあちゃんとじいちゃん、そしてレオとライヤだ。
レオとライヤはネコ科だからきっと猫舌のはずなので鍋は不利だ。それに俺がよそってやらないと食べられないだろう。
佐々木家のふたりは、80に近い70代のお年寄りだ。高田家も60代とはいえお年寄り。
敵は母さん一人だ。
牡丹鍋の肉があれよあれよという間に減っていく。
最初はみな取り皿によそいおとなしく食べていたが、いつのまにか大鍋を囲い鍋から直接肉を食べている。
レオ・ライヤ、猫舌はどうした?器用に爪1本を伸ばし鍋からすくって食べている。
他の誰一人として、なぜ突っ込まない。
みんな黙々と食べている。みんなが敵だった。
年寄りは野菜を食え。血糖値上がるぞ。
他のグループをみると皆同じようだった。
牡丹鍋大食い大会になってしまった。
あんなに牡丹鍋を食べたのにユリ根料理もきれいに食べつくした。
美味しかった。
レオに初鍋体験の感想を聞いてみた。
『鍋って戦いなんだね。食うか食われるかって母さん言ってた。』
ちがーう、鍋とは和気あいあいと楽しみながらみんなで仲良く鍋をつつく料理だ。
レオたちに鍋の変な先入観を植え付けてしまった・・・・・・・
ダンジョンも7階層探索になりました。
現実とファンタジー感を5:5にしたいと思っていますが、なぜか現実2ファンタジー4コメディー4になっているような気がします。
ぜひともスロー・マイペースにお付き合いいただき気軽にお読みください。