18 同窓会に行こう
「それじゃ、行ってくるからあとはよろしく。」
「はいはい。仕事のほうもしっかりね。」
『パパ、いってらっしゃい。』
『パパ、いってらっしゃい。早く帰ってきてね。』
ああ、可愛い。できることなら、ポッケに入れて二人を連れて行きたい。
別れを惜しみ、泣く泣く俺は車にのり走り出す。まずは札幌だ。
きっかけは、俺宛の一枚の返信付はがきだった。
内容は、高校時代の同窓会の案内だった。開催場所は札幌市内のホテルか。
うーん。そういえば一年以上も、どこにも出かけていないな。行ってみるか。それに、都合がいい。
同窓会に行くと母さんに伝えると、早速、仕事もねじ込んできた。
どうせ、札幌に行くのなら商売の相手先に挨拶に行けと、仕事を仰せつかった。
なんと、野菜関係の5件とワイン関係の3件の計8件も行けとの社長(母さん)命令だった。
8件も行くのか、多いよ社長(母さん)。
まずは、仕事優先だ。今日の俺は、2年ぶりにスーツにネクタイをした、姿だ。
髪をなでつけセットした。ダンジョンに入るようになり、理想的な体型になった。
持っていたスーツは合わなくなったので、オーダーメイドで作った。スーツは以前に着ていた時の10倍はするお値段の高級スーツ店に依頼した。さすがに、フィットする。腕には、高級腕時計ロレックスをつける。
おおっ、さすがに高級スーツに高級時計、ブランドのネクタイをつけると、平凡男も出来る男に化ける。
財布と名刺も持ったし、よし準備はできた。
ビジネス靴買うの忘れていた。2年前に使っていた靴はカビが生えていた。市内に行ったら靴を買わなければ。
スーツにスニーカーはないだろう。
今日の車は、白いレクサスのスポーツタイプのLFAだ。限定車らしく、約4000万円で購入した。
ダンジョン様様だ。
「母さん、何この荷物。」
俺の車には、いろいろな荷物が詰め込まれていた
「もちろん、挨拶に行く相手への手土産よ。ワインと新作ケーキ、保冷剤付ね。はい、これ、行き先の一覧。」
俺は母さんから、リストを受け取ると確認する。
「これ、有名スーパーの社長の名前が書いてあるけど、たかが、いち卸御者なんかと会ってくれるのかな。」
「一応、専務が行くって連絡はしてるけど、会えなくても別にかまわないわ。あと、これは、野菜使ってくれてる日本料理のお店の場所。8時に予約入れといたから遥ちゃんと行きなさい。どうせ、会う約束だけして考えてなかったんでしょう。」
「!!!なぜ、知ってる!」
「フフフ、母は何でも知ってるのよ。嘘よ。あなた、膝にライヤちゃんのせて、メール見てたでしょう。ライヤちゃんが教えてくれたのよ。」
「なぜ、ライヤが字を読める。母さんに伝えられる。」
「あら、教えたのよ。ひらがなやカタカナと簡単な漢字なんかね。1週間前くらい前に意思疎通ができるようになったのよ。愛ね。」
「まじかあ。」
「遥ちゃん用のケーキもあるから渡してね。」
そして冒頭のシーンになる。
札幌市に入り、まずは大手スーパーの会社事務所に行った。社長室に通され、大歓迎を受けた。ケーキとワインを渡したら、喜ばれた。すぐ帰ろうとしたのに引き留められた。なぜだ?そのあと、行く先々で同じように歓待された。ケーキとワインを渡すと、忘れられない味だとか、なかなか手に入らないなど大喜びされ絶賛された。効率よく回ったつもりだったが、同窓会の開始時間を過ぎてしまった。
ホテルに着くと同窓会はすでに始まり、恩師が挨拶していた。
おっ、高校生時代によくつるんでいた森崎がいた。俺は森崎に近寄った。
同窓会は立食パーティだった。先生の挨拶が終わり、飲み食いが始まった。
「久しぶりだな。神崎。」
「おう、久しぶり。元気そうだな。」
「おまえ、逞しくなっていないか。ジムでも行ってる?今仕事何してんだ?」
「え、実家に戻ってちっちゃな牧場やってるけど。」
「肉体労働か。じゃこっちだな。」
「何のことだ?」
「今にわかる。ほら、きた。」
ショートカットのピンクのワンピースを着た女性が近づいてきた。
「神崎君よね。久しぶり。」
「えっと、高橋さんかな。」
クラス委員をしていた女子だ。
「そうよ。なんか、男前になっていない。」
「いや、高橋さんこそきれいになって見違えたよ。」
「誉めてくれてるの。ありがとう。今仕事は?」
「親父が亡くなって、実家にもどって牧場ついだんだ。」
「まあ、それはご愁傷様でした。結婚は?」
「いや、まだ独身。」
「そう。それじゃ、またね。」
そういうと、違うグループに行ってしまった。
俺は森崎に聞いた。
「なに、今の尋問?」
俺の肩に手を置き森崎が言った。
「お前の事は、10分以内にここにいる女性に伝わる。お前は俺たち側だ。」
「何が何だかわからないんだが。」
俺はどのような意味なのかわからなかった。
森崎が説明してくれた。
「彼女たちにとってここは狩場だ。彼女たちは狩人だ。」
俺は突然に出た狩場と狩人という言葉に、思わず目を見張ってしまった。
ダンジョンを思い起こさせる。
「彼女たちは未来の旦那を探している。彼氏じゃないぞ。結婚相手だ。一番は医者とかの高給取りだな。二番が安定の国家公務員。三番が大手企業勤め。四番が長男じゃないサラリーマン。五番はその他だな。
見事、お前は五番だ。」
そういえば一人の男に、女性が三人くらいのいくつかのグループに分かれていた。
女性が六人位かたまっているグループもいる。
「あいつは、歯医者だ。あっちはIT会社の社員だ。同窓会=婚活会だ。」
すごいな。女子がいない俺たちはその他なのか。
「あれ、森崎は札幌市役所の公務員じゃないか?なぜ、モテない。」
「ふっ、俺には彼女がいるからだ。幹事だから彼女たちには俺の情報はダダもれ。」
そういうと、威張りだしていた。リア充、爆ぜろ。
確かにそのあと、その他の俺たちには、挨拶位をするが女性は寄り付かなかった。
結婚願望ないから、別にいいけど。負け惜しみじゃないぞ。
ちくしょう。
「神崎、二次会行くだろ。」
「悪い。この後約束がある。捌けるわ。」
「おいおい、つめたいな。久しぶりなのに。」
「また、今度の機会にな。」
俺は、その他の仲間たちに別れを告げ帰ることにした。
「俺、たばこ。そこまで、つきあうわ。」
森崎と俺は、同窓会の部屋を出た。
ホテルのロビーに行ったら、さっき会った高橋さんをはじめ、三人の女性がいた。
「あら、二人してどこ行くの。」
俺たちを見つけた高橋さんが聞いてきた。
「俺は喫煙。こいつは、約束があるから帰るって。」
俺を指差し森崎が説明した。
すると、後方から声がかけられた。
「神崎さんではないですか。」
俺が振り返ると、そこに、先ほど挨拶に行った大手の酒の卸元をしている二階堂社長さんと、同じ年くらいのおしゃれな人がいた。
偶然に驚いた。
「二階堂社長。先ほどはありがとうございました。」
仕事モードに切り替えた。俺にしては上出来だ。
「同窓会に行くと言っていたが、このホテルだったのかい。奇遇だね。ああ、こちらはこのホテルの副支配人の高森さんだ。道内では有名な元ソムリエなんだよ。昔からの悪友でね。さっき、神崎さんに頂いた『幻のワイン』を一緒に飲んだんだよ。」
「高森さん。こちらが先ほど話していた、ワイナリーのKANDANの神崎さんだよ。」
「今もソムリエだ。
初めまして。いやー実にすばらしい。きみが、あの『幻のワイン』のKANDANさんか。若いね。
あのワインの芳醇な香りと言い、舌触りが滑らかな甘酸っぱい熟した深い味わいと言い、若いがタンニンの滑らかさが口の中に広がり、濃縮感もある濃密な味わい、渋みのきいた年代を思わせる・・・」
握手を求められた後、ものすごく熱く語り始めた高森さんを、途中で止めてくれたのは、二階堂社長だった。
しかし、また『幻か』。母さんの販売戦略なのか、『幻』は。それとも名前なのか。
「申し訳ない。ワインについては妥協を許さない男でね。」
「すまない。つい熱くなってしまって。」
お偉い二人が、若造に謝ってくる。
「いいえ、こちらこそ、これをご縁にぜひとも、KANDANのワインをよろしくお願いします。」
俺は、あくまでも低姿勢で対応した。間違っていないよな。
「いやいや、こちらがお願いする方だよ。とにかく、喉から手が出るほどのワインだ。ワインのためならなんでも言ってくれ。ほんと、融通してくれたら忖度もいとわないよ。」
「いやうちだって、あのワインのためならいくらでも便宜を図ろう。」
「またまた。ハハハ。」
もう、笑ってやりすごすしかない。
「おや、友達を待たせてしまったね。それではこれで失礼するよ。」
そう言うと、ふたりは立ち去っていった。よかった。ふと、森崎たちを見ると顔をひくつかせている。
あれ、なんの話をしていたか忘れた。まあ、いいや。
「悪い。それじゃ、俺行くわ。」
俺は森崎に声をかけ行こうとしたが、引き留められた。
「ちょっとまて、神崎。お前んちってあの有名なカンダンなのか?」
「有名?まさか、しがないただの小さな牧場だぞ。」
あれ、KANDANは会社の名前だけど、森崎は何言っているんだ。
「そ、そうだよな。道内では今や知らぬ者はいない有名な会社だもんな。それが、お前のうちのはずはないよな。
とにかく、き、気を付けていけよ。」
「お、おう、それじゃ、またな。」
俺たちが話している後ろでは、女性たちの内緒話が、聴覚もいいので聞こえてきた。
「お姑さん付の田舎の牧場主っていってたわよね。」
「かっこいいけど、相手にならないって。」
「まさか、違うわよ。勘違いよ。」
「でも、あの時計ロレックスじゃない。」
「・・・・偽物よ。」
同級生は怖い。
午後7時を過ぎていた、木下遥さんの勤務している札幌大病院に、車で迎えに行った。勤務あけらしいので、病院の前で待ち合わせをした。ほおー、こんな大きな大病院だったとは。建物も駐車場も広い。
病院前を待ち合わせにしたが、広いのでとりあえず車を正面に乗りつけた。
夜中だし人もまばらだから平気だろう。
いた、正面には病院の送迎用のベンチがいくつかおいてあり、そこに座っていた。
助手席の窓を開け、俺を見るとなぜか、目を丸くして驚いていた。
俺は、運転席を降り、声をかけた。
「お待たせ。」
俺は、助手席のドアを開け、遥さんを乗せドアを閉める。
「達也さん。かっこいい車ね。黒の大きな車かと思っていたら、白いスポーツカーにのっているから吃驚したわ。」
「田舎は黒の方が荷物も乗るし走れるから便利だけど、街ではちょっと大きすぎて。白は街用かな。」
「それに、スーツ着ているしいつもの達也さんじゃないみたい。そういえば、同窓会どうだった。」
女性が怖かったと同性の彼女に言うのをためらったが、正直に話した。彼女は笑って、わかる気がすると言っていた。もしや、彼女にも結婚願望があるのかと期待したが、彼女の職場の看護師らが似ているらしい。獲物は若くて親が開業医の独身医師が狙われるそうだ。どの世界でもあることだと、笑って話している。
会うのは1ケ月ぶりなので、新しい病院のことや近況を話した。
話しているうちに、母さんが予約してくれたお店についた。
なに、この厳かな店構え。日本料理と言っていたので小料理屋さんをイメージしていたが、これは料亭というものではないか。遥さんも無言になってしまった。
「とりあえず、行こう。」
声が上ずってしまった。
俺たちは、小さな庭園風になっている小道を通りお店に入った。
途中、普段着で大丈夫かしらと遥さんが言っていたので問題ないと言ったが、俺もこんな料亭きたことないのでわからない。
広い間口の玄関を入ると、和服の年配の多分おかみさんだと思う(黄色の着物をきている)人と、薄紫の和服を着た仲居さんらしき人が三人迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいませ。神崎様。」
「はり、はじめまして。いつも、お世話になっています。この度はよろしくお願いします。」
噛んでしまった。何言っている俺。遥さんが隣で笑いをこらえている。
「フフフ、神崎社長がおっしゃってた通りですね。こんなことをいってはいけないのだけど、落ち着きのない専務ときれいな御嬢さんがいらしてくださると言ってましたのよ。さあ、どうぞ。」
俺たち二人は、和風の個室に案内された。
すぐに料理が運ばれてきた。まずは前菜からだ。日本料理でよかった。テーブルマナーなんか知らない。
すごい、ホウレン草とゴマのおひたしかな、美味しい。次は、小皿によくわからないが三つの煮物がのっている皿が出された。これも旨い。遥さんを見ると、感動している顔をしている。
ひととおり食べた。母さんの料理の比ではない。料理って本物が作るとこんなにも美味しいんだ。
この後、料理長が挨拶にきてくれ、なぜか、熱くうちの食材について語り始め、おかみさんに止められていた。
さっきホテルで同じことがあったな。
遥さんも驚いていたが、料理に舌鼓をうち喜んでたのでいいだろう。
今回も、現実世界の話になります。冒険好きの読者様には物足りないかもしれませんが、お付き合いください。
たくさんの感想ありがとうございます。鋭いご指摘やご指南、暖かいお言葉本当にありがとうございます。下の評価欄で応援していただけると嬉しいです。
『俺のうちにもダンジョンができました』アルファポリスさん掲載始めました。こちらも応援していただけると幸いです。