1-9 魔・法・発・動
「勇者様、目をつぶって、私たちの存在を音ではなくて、生命力で感じてください」
「せ、生命力」
考えるな感じろとか何とか。
いい加減進展しないので、シールディがアドバイスをくれた。本当にすみません。
目をつぶって、3人の気配はだいたい感じ取れている気がする。果たして、でも生命力を感じていることなのか??
「そのまま、自分の体の中に感じるエネルギーを感じてください」
「じ、自分のエネルギー。。。」
今度はまじめにやろう。心を落ち着かせると、僕の心臓の鼓動が聞こえてくる。体に流れる微かな光の鼓動を感じた。これが、生命力、マナだろうか。
「そのまま、また、私たちの気配ではなく、自分の中にある全く同じエネルギーを探すようにして、探ってください」
「比較対象して、同じものを感じるなら、それが生命力、マナです」
今度は、感じ取れることが出来た。3つ、目の前に、自分の中にある同じ光を感じる。おお、これが、マナかー!
「今度は、魔法を使う為に、呼び寄せたシルフの精霊にそのマナを受け渡します。ゆっくりでいいです。精霊を感じ取って、その精霊の中にある流脈の1つに、自分の先ほどのマナを流し込む感じでイメージしてください。ゆっくりでいいですよ」
シルフの存在は、何となく分かった。目には見えないが、存在する気配を感じることが出来る。緑の指輪が光り輝いているので、サポートして教えてくれているかもしれない。
あとは、流脈というやつだが、確かに幾多の線がぼやけて感じ取れてはいる。だが、マナの受け渡しのやり方が不明だ。どうやって、自分のマナを移動するのか?
「流し込むイメージです。自分の体の中の光が、体から手へ指から飛び出していって、シルフのその流脈に入っていくイメージです。わかりますか?」
先ほどの自分の光をツツツツッ―と、動かしていく。動いているか。たぶん。そのまま、指先から飛び出してー、行かない。頼む、行ってくれ。行ってくれー!
で、出たー!!
「復唱してください『マナ流動』」
「『マナ流動』!!』
「あっ!? すみません、忘れていました。言いながら、スイッチングアクションを行ってください!」
「スイッチングアクション!?」
「マナ流動、つまり、マナの移動、受け渡しは、自分で決めたスイッチングアクションと呼ばれる型を決めていた方が、体に癖づいてより精度を増していくんです。一番初心者がやりがちなのは、目をつぶることです。集中しやすいので最初はいいですが、戦闘中に目をつぶる行為は危険を伴うのでやめたほうがいいですから別の型を行ってください」
デジットの顔が目に浮かんだが。ダメじゃん!
「あんたは、よく指でパチン! ってしてたわよ。忘れていると思うけど」
「指でパチンかー」
僕は、指パチンが苦手なのだ。そう、不器用なのだ。ちなみに、鉛筆回しも出来ない。もちろん、シャーペン回しもだ。
「ちょっと、気分を変えてみて別の型でいくよ」
「いいと思いますよ。では、続きをやっていきましょう」
「ようし! 『マナ流動』!」
僕は、左手の掌を開いた状態にして、右の手をグーにして叩いた。
パチン! と軽快な音がする。
中国拳法の挨拶みたいな形にしてみた。特に意味はない・・・。
おお、今度は自分の中のマナが、スーッと先ほどよりも早く移動していくのを感じる!
空を走り、シルフの流脈のパイプのような感じのところへ入っていく。
その瞬間、シルフの輝きが増した! 気がする!
「行けます!続けて『ウィンドウ・カッター!』」
「ようし! 炸裂! 『ウィンドウ・カッター!』」
僕は、両手を前にかっこよく出して叫んだ! 魔法が発動すると思って。
しかし、フゥーと風が吹いて、ライカ、シールディ、ビッケの髪の毛がなびいただけだった。
しーん。
もう、昼下がりになる。
「おううううう! 「ウィンドウズ・勝ったあ!』」
なんか、くやしいのでやけくそになって叫んだ。
次の瞬間異変が起きた。
目の前で、カチッ、カチッ、カチッっと、3回、金具の外れたような音がしたのだ。
「え?」
「あれ?」
「ええええ?」
そして、強風が突然吹き3人のベルトが、バァーっと吹き飛んで、ズボンが下にズレ落ちた!!
ビッケはおいておくけれど、ライカの白の下着と、シールディのピンクの下着が、僕の網膜に最高の解像度で映りこんだ!
異世界って、なんてパンチラ率の高い世界なんだ!! 少し来たかいがあるなあって思ったり。
「ちょっとおおおおおお!」
「はー」
「み、見ないでください!」
ビッケは知らないけど、ライカとシールディは慌てて下着を手で隠すようにしながら、何とかズボンを引き上げると、真っ赤な顔でこっちをにらんできた。そりゃそうだ。
「あんたねえ、魔法出来ないふりして、逆にちょっと難しそうな魔法やってんじゃ、ないわよっ!}
「い、いや、これは、偶然で、不可抗力でですね!」
「せ、せっかく頑張ったのに。酷いです、勇者様!! 思いっきり見ていましたね! 見ましたね!」
シールディにも嫌われてしまった! 弁解の余地なし。だって、見ましたもん!
「ぼ、僕は言われたとおりにやっただけだよ!!」
「たぶん、シルフへの流脈への流し込みが適切でなかったのと、魔法名がでたらめ過ぎたんで、おかしな発動が起きたんじゃないですかね」
ビッケが顎をさすりながら説明する。
さすが、僕。
ろくでもない魔法が発動したものだ。まったく、戦いじゃ使えない。目が疲れた時以外は。
「ったく! まじめにやりなさいよね」
すっ飛んだベルトを回収し、つけなおしながらライカが言った。
いや、1回目にしては上出来だとほめてほしいが。
「次は、まじめにやれば、本番で使えそうですね。さすが勇者様です」
こんなんでいいのか!?
かくして、女の子の下着を見ることで、僕への魔法の授業は打ち切られてしまった。
大魔法使いと呼ばれる存在がいるなら、この事態を見て叱ってもらいたい。