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1-6 戦・闘・経・験

人影の正体は、女の子だった。村娘っぽい服装に、銀色に輝く穂をぎらりと光らせ、木でできた柄の槍を握りしめたままこちらに落ちてくる! どう考えても僕を突き刺す流れだ。


「危ない、勇者様!」

「うわわわわわ!」


僕は、後ろに飛び退いて、上部から振り下ろされた槍をかわした。顔の横をビュンと音を立てて、槍が地面に突き刺さる。


「ちぃ! かわされたか!」

「あんた、何やってんの!」


言いながら、ライカは懐からダガーを2本取り出し、それぞれ両手に装備すると、そのまま槍を弾き返した。

槍は地面から抜けダガーを受けとめると、回転しながらズサーッと、吹き飛ばされた女の子は、足で踏ん張って止まった。


いきなり仰天のファンタジーっぽい戦闘が目の前で展開された。


「私達は勇者御一行よ! それがわかっての襲撃なの!」

「当たり前よ! だからこそ、に決まっているわ!」


どう考えても、僕、元勇者が原因だろう。もはや、命を狙われる始末。というか、人生(?)で初めて命を狙われたー!!


「あなたは、誰ですか??」

「わ、わたしは、ワーイン村の村長の娘、デジットよ! って、自己紹介とかどーでもいいから!」


ジャキンと、音がしたような気がするぐらい、槍を僕に向かって構えると、デジットは叫んだ。茶色い髪に小柄な瞳だが、目は鋭く殺気立っている。たぶん、僕のせいで。


「とりあえず、そいつ、置いて行って! そいつに用があるから!」

「そういう訳にはいかないよ。今から、魔物討伐の仕事が・・・」

「そんなの、私には関係ないって!」


ビッケが割って入ったが無視されてしまった。


槍を片手に再度突っ込んでくる! これは、やばい。僕は、背中の剣を取ろうとして、体に巻き付けていた紐を解く。ドサッという音とともに、背中にくくりつけていた剣と盾が地面に落ちてしまった。


「わわ、しまった!」

「スキあり! 串刺しよ!!」


すごい勢いで槍が突っ込んでくる。とりあえずは、サイドステップで槍を交わすと、地面に落ちている剣に手を伸ばした。が


「お、重い・・・」


両手でガニ股で力を入れてもなかなか持ち上がらない。やっぱ、重いぞお!


「ちょっと、あんた、何やってんの!」

「馬鹿丸出しスキだらけね! やあああああ!」


再びデジットが突っ込んでくる。やばい、これは躱せないかも!!僕は、思わず目をつぶった。戦闘中やっちゃいけないことランキングでかなりの上位にランクインする行為だろうが、思わずやってしまった。人間とはそういうものだ。


だが、ガンッ! と音がして、ライカのダガーにより再び槍の突進は防がれた。


「いい加減にしなさいって、言ってるんだけど!!」

「あんた、勇者の何なの! 私は被害者なんだけど!」

「まあ、奇遇。それなら、ある意味、私も被害者かな!」


と言いながら、ライカはデジットのをドンと蹴っ飛ばし尻もちをつかせた。デジットのスカートが捲れ上がって、下着が見えた。この世界初のパンチラである。砂漠に見つけた一瞬のオアシスであった。


しかし、慌てて、デジットはスカートを直すと、再び立ち上がり槍を構えた。オアシスタイムはあっという間に終了した。


そして、飽きもせずにまたこちらに穂先を向ける。何度も何度も向かってくる努力家だった。ぜひ、努力の方向を世間様の役に立つところへ持っていってほしいものだ。


「あんた、そもそも戦う気があるならそんな普段着で来ないことね」

「うるさい! 今日、魔物討伐に行くって聞いたから慌てて追ってきたのよ!」


「いったい、どうされたんですか? 私達の勇者様がご迷惑をおかけしたんでしょうか?」

「したもした。したしたしたしたした!!」


舌噛みますよ。

そして、僕は、また本当にすみませんとしか、言いようがないのであろう。


「すみません。勇者様も多忙な身で、その件について、お忘れになっていると思いますので、ぜひ内容を教えてもらえないでしょうか?」


代わりにビッケが誤り質問する。なかなか接客業の素質を兼ね備えた立振舞だった。こ馴れているような気もするが。


「そ、そうなんだよなー。僕も忘れちゃって、ははは、教えてほしいな~」


、と僕も便乗する。

次の瞬間、ビジットはキッと僕を睨んだ。

そして、ビッケのフォローを台無しにする僕。


人生で初めて、殺気というものを学んだ。これで、これから、漫画で殺気の描写が出てきた時には、すごいリアルに感じることができるであろう。次に漫画を読むのが楽しみである。やはり人生は体験することがとても大事だ。


「憶えてない・・・・。許せない・・・・。本当に・・・・。あの時の言葉も???」

「あの時の言葉? なんだったっけ?」


自分で言ってて、相手を怒らせるだろうな、と分かってはいるものの、言葉が出てこない。だって、本当にわからないんだもの。せめて、選択肢の問題にしてほしい。


「言ったじゃない! この戦いが終わったら、いっしょになろうって! 君が必要だって!」

「なるほど。めっちゃ言ってそうね」


ライカがあっさりと納得した。

デジットは独白を続ける。


「そもそも、そいつは、この村に来た時に、私に声かけてきて、コケティッシュだね、っていってくれたから、デートしてみようかなって思って、いっしょにシェルの川で一緒に泳いで、お魚をとって、薪に火をつけて、一緒に食べて、星空を見て、あの星とこの星は、俺と私って言ってくれて、いっしょの布団で寝て、お互いのぬくもりが分かりあえて・・・それで、それで」


話す度に感情も思い出したのか、グスッ、グスッと、デジットは涙を流し始めた。


「それで・・・それで・・・・私、村長の娘だけど、特に得意なことなくって、家でも学校でも怒られてたから、どこにいても私の居場所はなんてなくって。でも、あんたは、私に『君のいいところは、その優しい心と前向きな努力の心、それがもうあるじゃないか。だから、もう無理して悩まなくていい。だってさ、もうすでに俺には君が必要になってる』って言ってくれたじゃない!」


居場所、必要・・・。それを求める感情には強く、共感できる。


「だけど、その後、いきなり別れの言葉もなく、いなくなって、私、ずっと待ってて、悲しくって、悔しくって、そして、帰ってきたと思ったら、隣の家の、チェキとデートしてたって、他の人から聞いて、もう私、悔しくって・・・」

「い、いつもながらに酷いですね」


汗をハンカチで拭きながらビッケが言った。


「だから、私、そいつが許せなくなって。復讐したくって。隣の家の武術の講師のバード先生に弟子入りして・・・」


なんか、展開が変わってきた。


「そしたら、君、脈あるね、ほら、特にこの筋肉の付き方、武術にむいているよ、とか言って腕をムニムニされて・・・」


セクハラが横行する世界だった。


「1日1000本ノックしたら、上達するよいわれたから、私信じて。雨の日も、風の強い日も。嵐の日も、練習して・・・そうしてたら、スキルも身について・・・」


本当に努力の子だった!


「で、噂で「せかいだいちゅきれんごう」が来ているって聞いたから、ついに来るべき時が来たかって、思って。だけど、昨日1000本ノックは終わっていなかったから、いけないわ。堕落は最大の敵よ! って思って、ノック終わってから行こうってわけで、終わって来たら、今の時間になったの!」


話し方下手! だいたい内容は伝わったが。そして、感情の波がすごい。荒波レベルだ。もう涙は見せてないし。自己修復機能もついてやがる。


「なので、話も終わり。さあ、私のスキルの餌食なってもらうわよ。私の恨みの努力は、受けてみよ!」


絶対に受けたくない!


「スキル・・・、本当にそうなら、すごいけど、そんな簡単に身につくものじゃない」

「万が一もありますし、勇者様もっと下がったほうが・・・」


ビッケが僕の前に立ちふさがろうとしたが、デジットは槍を回転させて柄の部分で体を吹き飛ばした。

ドカッ! 痛そう!


「あ、いた~!!!」

「どきなさい! もういい加減いくわよ・・・ 【トランス】・・・」


言った瞬間、デジットの体が一瞬、発光したかに見えた。そのまま、目をつぶり、


「・・・【マナ流動】・・・」

「!? これは、マナが集まってる! スキルを発動させる気です!」

「くるわよ! あんた、早く下がって!!」


って言われてもー!! 何が起こるの!?


「いっけええ!!! 【ストライク・ニードル!!】」


ヴォウン! という聞いたこともない衝撃音とともに、目の前に暴風が生まれたーーーーーー。


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