表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/38

1-4 衝・撃・事・情

というわけで、ビッケが教えてくれた情報をまとめると。。。


前勇者の名前はエックスバーランド・センチュリーマキシマムカッサウェイ。名前が長いので、本名で言う人は少ないらしい。そりゃそうだ。


前勇者は農家生まれで、そのまま農家になったんだけど、類まれ稀なる才能により戦いに優れていたため、魔王討伐の旅に出た。

その旅の途中で、魔法使いのビッケ、僧侶のシールディ、盗賊のライカ(盗賊と呼ばれて怒ったけど・・・)と知り合った。


魔王は前勇者1人であっさりと倒せたものの、世界に混沌は残っている。

というわけで、前勇者たちは『せかいだいちゅきれんごうぐん』と称し(?)、残党魔物退治や、各村や街の問題を解決して回っている、というわけだった。


全体の話はすんごいシンプルだが、それよりもそれ以外がとんでもない所が多すぎて、頭がまわらなかった。


「勇者様は憶えていないかもしれませんが、『勇者100の奥義』と言って、100種類のスキルを持っていました」

「100の奥義・・・? そんなに?」


「そうです。しかも、僕ら魔法使いは、マナの力をエレメントを介して力を発揮するのですが、勇者様は、エレメントを介さないで、自分の体で力を発動させていました。剣技や肉体強化など力を発動できる人はいますが、勇者様ほどの数のスキルを発動できる人は、見たことがないですね」

「そ、そうなのかー」


ライカが割って入ってくる。


「例えば、『アイアン・ボディ』肉体の筋力を通常の5倍にして戦えるの。それと・・・『カクサン・ダエキ』唾に爆破成分を込めて、吐き出すことで周辺を爆破するの。あと・・・『ショット・マグナムパンチ』相手のボディに鉄拳を叩き込んで肋骨を折るの」


めちゃくちゃだった。しかも、3つ目はただ殴っているだけっぽい。魔王とは、前勇者のことじゃないだろうか?


僕は、思わず両手を見るが、何ら変わりない普通の手だった。


「あんた、まさか、スキルも忘れちゃったとか、言うんじゃないでしょうね。結構それ、シャレにならないわよ」


ズバリだった。


「そうですね。今のところは何とも言えないです」

「ふーん。明日は、残党魔物狩りの日よ? 大丈夫かしら」


ま、魔物狩り。見たこともないものを狩りに行くのか…。


「大丈夫ですよ。この伝説の剣『ゴールデンフェニックスカリバー・プレミアム版』があれば。きっと楽勝です」


笑顔でシールディが、壁にかかっている剣の鞘を指さして笑った。


「勇者様曰く『この剣はどんなに体力がある相手でも、致命傷ギリギリで止めてくれるんだぜ。一見、使えないと思うだろ? しかし、俺にはかなり快適な能力なんだ。なぜかというと、その場で説教が出来るからだ! 戦っていると、相手と話ができないし、相手も聞いていないだろう? だけど、相手が致命傷ギリギリで倒れていたら、どうか? そう、説教し放題なわけよ。最高だろ! しかもその後倒さないで治療してあげると、何かいい人っぽい空気になり、俺のEQもあがるわけよ! これ、1石2鳥ね!! がっはははははは!』ておっしゃっていました」


誰も、突っ込まないのか。

今度は、ビッケが壁にかかっている盾を指さした。


「それを言うなら、こちらの伝説の盾『シルバーフィットネスシールド・プラチナ版』もありますしね」


この世界のネーミングセンスに頭がフラフラしたが、もしかしたら、翻訳がおかしいかもしれない。例えば、僕の世界になくて、こちらにあるものを説明する時には自動的に親しい言葉を選択しているのかもしれない。英語の翻訳サイトとかみたいに。そう、思うことにした。


「なんせこの盾は、物理攻撃、精神攻撃はもちろん、風邪のウィルスや病原菌、さらに、借金取りや、姑の嫌味攻撃も防いでくれるそうです!」


そうです!! って、真面目な顔で説明されるとツッコミが出来ない。

前半はまだしも、後半はもはや、どういう原理で盾が機能するか、想像もできない。


「それを言うならわ、これが一番よ!」


ライカが、床に置いてある革っぽいブーツを指さした。


「これは『レジェンドナイーキシューズ・夏季限定版』よ! 長く履いても蒸れない、疲れない、走りやすい! しかも価格も安い」

「ライカさん、それ、別に伝説のものじゃないですよ」

「あれ? えへへへ」


ライカは、お調子乗りなのかもしれなかった。


「あとは、そうですね・・・。魔王討伐後、いろいろな村を回っているんですが、正直解決方法が問題で」

「そりゃそうよ。絶対に恨み買ってるわよ」


どういうことだろうか?


「残党魔物討伐だったら、倒せば感謝されるんでいいんですが。例えば、アッザムの村では、村人同士の中が悪く、人間関係が良くないことで問題が多発していることに対しての解決策が「遊毛王」ゲームで決着をつけるべし、って規則を作ったんです」


聞き間違ったのか、聞いたことのあるカードゲームが出てきた。


「どういうこと?」

「つまり、村人同士がもめたら、「遊毛王」のカードゲームで決着をつけるんです。例えば、パン屋さんで買ったパンが腐ってました!! ってなって、お店側がパンは腐ってなかった、持って帰った後に腐ったんだ! って主張した場合、この結果は「遊毛王」カードゲームを双方が行い、買った方の言い分が通っちゃうわけです」


チョーやばいその村。


「まあ、最初はもめたんですけど、やっていくうちに、カードゲームをやる村人同士が仲良くなっちゃって。意外とうまくいっちゃってるという。弊害としては、そんなのに巻き込まれたくないと、アッザムの村の観光客が激減しました」


シーソーゲームみたいだった。


「後は、一番問題なのは、本人を目の前にして言うのは何ですが、女性関係ですね」

「女性関係・・・」


先程のライカとシールディのことからも嫌な予感しかしない。


「魔王討伐下という偉業を成し遂げたヒーローという点から、モテるのはわかるのですけど。その、誰でもかれでも手を出しすぎと言うか。大体1つの村に10人以上は手を出した女の子がいるんじゃないかと想定しています」

「1つの村に10人!?」


「そうよ! あんた、村に着く度に、だいたいいなくなって、後で聞いたら、女の子の家で遊んでた、ばっかりじゃないの!」

「そうですね。最近は特に酷いと思いますよ。テラの村の村長の娘さんも『旅に出るなんて嘘ついてたのね!! 絶対に許さないデススゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』 って怒ってましたもんね」


これは・・・。知らない相手から恨まれているかもしれない、ということか。


「せめて、どんな人と関係があったか、分からないんですか?」

「だって、あんた詳しい話、しないじゃん。私達だって、問題になってから知るまではわからないもん」


とほほ。これは、前途多難だ。女の子と付き合ったこともないのに、事後でしかも恨まれている状態から始まるってことじゃないのか、これって。


落ち込んできたが、とりあえずこの世界で生きていくと決めた以上、やるしかいない。人から借りた人生だ。そりゃ問題もあるさ。心を入れ替えていこう。


「と、とにかく、いろいろ分かりました。少しずつ、記憶が戻るかもしれないので、皆さん、協力をお願いします」


ペコリと、お辞儀をした。


「あんたね。それはわかったけど、その敬語をまずはやめたら?」

「そうですよ。そこがいきなり勇者様らしくないです」

「ふふふ。仲間じゃないですか。自然でいいですよ?」


言われた。なので、僕は緊張しながら言った。


「み、みんな、僕が記憶喪失になって迷惑をかけるかもしれないが、よろしくな!」


『僕』は直らなかった。


けど、3人は笑顔でうなずいてくれた。前勇者が少しうやらましく感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ