2-19 勇者の危機
ユイは、白銀のドレスをいつの間にかサッと脱ぎ捨て、下着姿になっていた。
早くて見えない!
「ばかな!?」
「ふふふ、ダーリン、カモ~ン」
ユイは、手でこっちこっちをするが、冗談じゃないぞ。面談じゃないのか!
「ちょっと、待ってくださいまし。伝えたと思うんだけど僕は、記憶喪失であって」
「だいじょうぶ~~~! 記憶なんて、私との熱い時間を過ごせば、あっという間にもどるから~~~~!」
あま~い声でいいながら、じりじり近づいてくる!
僕は、何とか距離をとろうと、大きな柱を間に挟んですり足で動く。
「なんで~~~、逃げるの~~~?」
「だって、面談でしょ! これ、面談じゃない!」
「面談? ん~~~~、それはおまけで、こっちがほ・ん・ば・ん!」
サッと、ユイが目の前から掻き消えた!?
なにぃ!
まるで、影分身のように姿がスライドして消えた!
なんちゅー技だよ!?
「ほうら~~~捕まえた~~~! ちゅ!」
「ぎゃわー!」
いつの間にか背後に回っていたユイに、腕を取られほっぺにチューをされてしまった。
貞操の危機を感じて僕は、それを振り払う!
「っち!」
ゴロンと背後に転がって逃げたら、なんとベットの上に乗ってしまった。
「わ~~~~! そこが次の戦場ねっ!」
ぴょ~~~~んと、擬音が聞こえてきそうな勢いでユイがジャンプしてベットに飛び込んでくる!
おいおい、それって、だいたい男女逆の立場でやるやつじゃないの!
「躱す!」
「も~、う~ん」
ベットから逃れた僕は、仕方がない実力行使に出るしかない。
「はぁはぁ、それ以上襲い掛かってくるのであれば、魔法を使いますよ!」
「え~~~? 勇者ちゃん出来るの~~~~? 苦手じゃなかったっけ?」
言ってられない!僕は無視して魔法の詠唱に入る。
「エレメント・サラマンダー・マナ流動・ファイアー・ボゥュル!」
僕は最後の魔法の詠唱を巻き舌っぽく言うことで、ハリウッド映画の予告の人のようにイントネーションを上げた。
こうすることにより…気分が盛り上がるのだ!
「ん~~? 何も起きないね」
「う!!!」
やはりか。僕は左手を相手にかざしたまま、立ち止まってしまった。
巻き舌でごまかそうとしてたのだが、ダメでしたね。
「そもそも、エレメントの宝石もないし、この部屋結果が張られているから魔法使えないよ~~~。それも、忘れちゃったんだ」
「う!」
「記憶喪失って本当っぽいね。なんか前と性格がぜんぜん違うし」
「その通り!」
なんかよくわからないけど、信じてもらえた。
「それを言うのであれば、ユイ様も昨日と性格が全然違いますけど」
「そ・れ・は、勇者ちゃんの前だからだよ」
「ああ…そうですか」
前勇者との関係があったのですね、分かります。
とはいえ、そこは無視して話は進めよう。
「で、土地の話なんですけど」
「ぶー。その話は昨日したでしょ。頑張ったんだから、もっと、ほめて~」
撫で声で猫のように近づいてくる。
なんて動きのモーションが豊富な姫なのだろう。
恐れ入る。
「土地ってさあ、いい場所、いい建物だったらどんどん売れるんだよね~~~。だから、ユイ頑張って、売って売って売りまくったの! こうすることによりバルダイム王国の人口も増えていくって感じで~」
「でも限られた敷地内でやることだから、土地も奪い合いだし、建物だって、場所によっては高さとか限定されるのでは?」
「そこは~~~~。内緒~~~~~~」
やっぱりなあ。って感じである。
「ま、それは、それでいいじゃな~~~~い」
「それがメインで来ているんですが」
「それよりもさあ~~~~」
いつの間にか、近づいてきていたユニに首元を指で撫でられる。
「やること、あるでしょ~~~?」
「な、ないです!」
僕も男だから、血液が沸騰しそうではあったが、これは、ダメな気がするので回避だ。
男の勘である。
僕は体をひねって、逃げようとしたが、
「そっちに逃げると思ったよ~~~~~ん! 女の勘よ」
「うぎゃ!?」
あっさり敗北する漢の勘であった。
「それじゃ、まずは、キッスからね…ん~~~~~~」
「ふむーーーーーーー!」
僕は、唇を凧のようにして躱そうとしていたが、
『姫様! 失礼します!』
ガチャッと扉が開けられる! やばい、人が入ってくる!
その瞬間、目の前のユイ姫が視界から消え、いつの間にかドレスを着て椅子の前に立っていた。
え!? 早すぎる! もはや、イリュージョンレベルだった。
兵士が入ってくると、
「貴様、無礼であるぞ! 勇者様との面談中だと言ったであろう!」
「も、申し訳ございません! ただ、緊急事態でして…」
「なんだ! 申して見よ!」
「エルバディ様が、何者かに攫われてしまいましたっ!」
『なんだってー!』
僕とユイ様の息が今日初めてピッタリにあった。