2-18 長女ユイ
お城に戻ると、すでに兵士が待っていた。
どうやら、時間に遅れてしまったらしい。
「す、すみません」
「いいえ、大丈夫です。ささ、こちらです」
お城の中を案内される。
「まずは、長女のユイ様から面談となりますのでお願いします」
「OK!」
と、言ったものの何を話せばよいのやら。
シールディに聞いてみよう。
「とりあえず、困ったことはないかヒアリングしてみてはいかがですか?」
「ヒアリングかー。ユイは確か、土地や家に関しての担当か」
「実績は上げられているので、このままの調子で頑張ってもらえばいいのではないでしょうか?」
「う~ん、そこがなあ」
僕は腕組をした。
実は、気になることがあるが、シールディに言う必要はないか。
「ライカ達はまだ帰ってきていないようです」
「忙しいのかな」
「そのようですね」
通路を何回か曲がり、階段を上がると、どうやら目的地に着いたらしい。
これは、案内役がいないと、絶対に迷子になる。
パンでも道しるべに落として来ればよかったか。城を汚したら怒られるだろうけど。
目の前には大きな扉が構えている。赤と黄色で装飾されていて派手だった。
ここがユイの部屋というわけだ。
「勇者様、身体検査と武器の類をお預かりしても良いですか?」
「え? この前は検査もなかったし、武器も預かられなかったよ」
「あの時は大勢の前で、しかも皆様と座る位置も距離がだいぶ離れておりました。兵士もたくさん控えていました。しかし、今回は、勇者さまと姫様の2人だけの面談なのです。疑っているわけではないですが、防犯には協力してもらいたい」
「全然構わないよ。隙にして」
僕はズボンに手をかけ脱ごうとすると、
「ゆ、勇者様、ズボンは脱がなくてもいいです。服は着たままチェックしますので」
「そうなの? 分かった」
しまった、最近は裸に関わる事件が多かったので、抵抗がなくなっていた。
変態紳士の道を歩まないように気をつけなくては。
僕は、両手を上げて身体検査を受けた。
「大丈夫です。ご協力感謝致します」
「あとは、武器か」
僕は、鞘を握りしめていた伝説の剣とアイアンソードを用意されているカゴにポイっと投げ入れた。
ガン!
「ちょ、勇者様、物を粗末に扱い過ぎではないですか?」
「な!? ナイルみたいなこと言うな―」
確かに、僕にとっては伝説の剣はただの重い飾りと化しているので、全然大事にする気持ちはない。
「駄目ですよ。物には命が宿っているんです。大切にしていないと、罰が当たりますよ」
「まあ、確かに、命が宿るかもしれない。物を大事にとは、シールディが僧侶らしいこと言った」
「そ、僧侶ですから当たり前ですぅ!」
ぷっーと、シールディがフグのように頬を膨らませた。
ファンタジーだからとスルーしていたが、ナイルの持っている喋る妖刀重丸の存在は、相当異様なものだ。違う世界の人間の僕が自然と受け入れてしまったのも、ファンタジーのなせる業か!? ファンタジーってすごい。
「勇者様、エレメント召喚の指輪も回収します。あと、マジックアイテムと思われるものもお願いします」
「わ、分かったよ。ええと…」
僕は、指輪とアミュレットを、静かにカゴに入れた。
そういえば、風呂場で指輪を一個投げたことを思い出した。さすがに回収していないとまずいかな。
「これでいいですか?」
「大丈夫です。それでは、面談をお願いします」
「私も入れませんので、勇者様頑張ってください」
「は~い」
僕は、やる気がない返事をすると扉に入った。
部屋を進むと、
「む! 来たか、勇者エックス…」
声のする方へ振り返る。
真っ赤な椅子に足を組んで座っているユイがいた。
今度は鎧ではなく、白銀のドレスを着ている。
一応、お姫様相手なので、それらしいことを言おう。
「今宵は、お姫様に謁見を許可して頂きましてーあー、えー? なんだっけ?」
「黙っておれ。しばしま待たれよ」
ユイは、窓にむかうとサーッとカーテンを閉めた。
え?
さらに、扉のカギを閉める。
ん?
「こほん、これで、誰にも見られない」
「へ?」
次の瞬間、ユイは僕に向かってダイビングジャンプをしてきた!!
「エックス~~~! 待ってたんだよ~~~! もう、来るの遅いんだ・か・ら~~!!」
げげっ―!! この展開は!