2-17 ライバルとの激戦
「エレメント・ウィンディーネ・マナ流動・ウォーター・ガード!」
「っち!」
ナイルの放った一撃は、僕に到達する前に、シールディの魔法でできた水の障壁に拒まれた。
あぶない、あの炎の刃の技が僕に当っていたらどうなっていたことか!
たぶん、燃え死んでいたかもしれない。
シールディありがとうと感謝しつつ、
「あぶないだろうが! この!」
僕は、怒りに身を任せ勢いをつけて、ナイルにドロップキックをお見舞いした!
「なに、ぐわっ!」
「貴様! 剣で戦わんのか! 剣で!」
「ルールなんて決めてない。足でもいいだろ」
『剣士と言えねーな、こんちくしょー!』
「剣士じゃなくて、勇者だからな!」
ナイルは、むくっと起き上がると悔しそうにコチラを睨みながら言った。
「伝説の剣も使わないうえに、さらに普通の剣さえも使わんというでござるか…。屈辱、屈辱でござる…!」
「そんなに落ち込むことないのに…」
「落ち込むでござる! 俺は、あの技をもう一度見たいでござる」
「あの技?」
「そうでござる! 俺との決戦時に見せたあの技! 勇者・斬りでござる!」
「ゆ、勇者斬り…」
また、安直なネーミングだが、すでに別の事例により、前勇者のネーミングセンスが疑わしいことはよくわかっている。
「まさか、勇者斬りまで忘れたんでござるか!」
「その、まさかでござるな」
「なんとー!」
がくっと、ひざを折るナイル。いやー、感情表現が豊かでうらやましい。
「俺は、俺は、何のために今まで…」
「いやあ、すみません」
「そうだ! 頭を強く打ったら治るかもしれないでござる! 我が父上も記憶喪失になった時に、鍋で頭を強く打ったら、記憶が戻ったことがあったでござる!」
「その方法は、僕には適用できない!」
「決めつけは良くないでござる! さあ、さっそく、頭を出すでござる!」
「ばか、やめろー!」
今度は、僕が追われる側になってしまった。
「はぁはぁ、疲れるな。そうだ。これは、置いておこう」
僕は背中に飾りとして持っていたものを投げ捨てた。
「ん! って、おい! 勇者エックス! なんてものを、投げ捨てるでござるか!」
「投げ捨てたんじゃない、置いておいたんだ。後で取りに来ようと思って」
「伝説の剣を投げ捨てる勇者が、どこの世界にいるでござるか!? なんて、酷いことを!」
「お前に言われたかない!」
ナイルは、僕が放り投げた剣を、まるで赤ん坊のように抱きしめた。
「おおー! よしよし! ご主人が馬鹿でかわいそうでござるねー」
本当に、赤ん坊扱いしてやがる…。怖い男だった。
「この色、艶、肌触り、どこから見ても最高の剣でござるね…さわさわ」
今度は、剣に頬ずりし始めた。ぐぇーー。
僕たちの漫才を見守っていた人たちもこれには、遺憾の意を表明した。
「うわ…なにやってるのあれ?」
「こわ~い」
「ここが、柄でござるね。勇者が何度も握りしめた所。ここが一番、大事なところでござるよ…ひひひ」
伝説の剣の柄を何度もさわさわし始める。うえー!!
「き、気持ち悪いー!」
「見た目はかっこいい人なのに怖いわー!」
正しい町人の反応だった。
うむ。
「って、お前! いつまで、人の剣触っとるんだ! いい加減にしろ! 町の人が嫌な気持ちになっているだろう!」
「む!? 何を言っているでござるか! そもそも、お前が自分の剣を大事にしないことが良くない事でござる!」
『剣を大事にしろ―! バカヤロー!』
剣の気持ちがわかる剣だった。
「こうなったら、やっつけるしかないようだな! 行くぞ!」
「む! 来るか!」
『やっとか! なげーよ、チクショー!』
僕は、剣を構えるとダッシュで、ナイルの懐に走りこむ。
「なにぃ!」
「っと!」
ナイルの刀の切っ先をしゃがんで躱し、ながらの
「エレメント・シルフ・マナ流動・ウィンドウズ・ソサエティ!」
スイッチング・アクションからの左手をナイルの懐にそっと当てる。
そして、僕はガンマンのごとく、くるっと振り向いて静かに歩き出す。
「ぐわっ! って、何にも起きないでござる」
『なんなんだ、チクショー! ナイル気にするな、無防備な背中を切っちまえ!』
ナイルは、走り出そうとして、
「な、なんだと!」
服パラパラと脱げていった。
っふ。俺の十八番が炸裂だぜ。
「ふ、服がないぐらい、気にしないでござる!」
『男なら裸一貫よ! チクショー!』
「ばかめ。お前たちはそれでいいが、一般市民はちがうんだぜ」
そして、ナイルの大事なものを守っていた、ふんどしがはらりと落ちた。
「きゃーーーーー!」
「なんだ、あの男! 突然裸になったぞ!」
「衛兵を呼べ! 真昼間から露出狂が出たぞ!」
「ちょ、ちょっと待つでござる! ご、ごかいでござるー!!」
ナイルは、何処かえ走り去っていった。
勝ったぜ。
距離が離れていたシールディが、追い付いてくる。
「はぁはぁ。やっと追いつきました。あれ? ナイルは?」
「退治したよ」
「それは、良かったですね。あら? お城に急がないと」
「だね。じゃ、行こう」
僕は、伝説の剣の鞘の部分を持った。
「おや、なんで、柄をもたないんです?」
「いろいろあって、消毒が必要なんだ」
「?」
というわけで、お城に戻ろう。