2-16 ライバルはいつも元気さ
「どこだ!? どこにいる!?」
「ここでござる!」
ざっと、後ろを振り返ると、喫茶店の奥の椅子に座り、まんじゅうを口にくわえたナイルがいた。
「おうちゃくもの! 物を食べてから、人に話しかけろ!」
「うるさい! さきに声をかけないとお前たちがどこかに行ってしまうだろうが」
まんじゅうを食べきったナイルは鞘を手にとって立ち上がった。
「やはり、同じ展開か…」
「無論、私とお前がやることは1つでござる…」
ジャキンと、鞘からかっこよく刀を抜くとこちらに構えた。
『いくぜい! 勇者! てやんでい! 真剣勝負ってやつだ』
喋る妖刀『重丸』も健在である。
このタッグ、真昼間の町中でようやるなあ。
ていうか、今からこっちは謎の面談とやらをやらなくてはいけないんだぞ!
「まて! ここで、暴れられると町のみんなに迷惑がかかる! 暴力はやめるんだ」
「ふん。しらんでござる。我が戦いたい場所が、戦場に変わるまでの事」
ヒュンと、刀を容赦なく振り上げる。
まじですか! こいつ、周りの事考えていない! なんとなくはわかってはいたが。
「勇者様! これを!」
「ありがとう!」
僕は、シールディからアイアンソードを受け取ると、構える。
仕方がない降りかかる火の粉は払う!
「貴様、また伝説の剣を使わないでござるか!?」
「お前ごとき、伝説の剣は使わん! この、安ものの剣で充分だぜ」
『おお!!』
町の人たちが声を上げる。こ、これは!き、気持ちいい!
「何度でも言おう! この安ものの剣の錆がお前にはお似合いだ!」
剣を左手に持ち換えて、ポーズを変え、ビシッと決めて言った。
『おおお!』
やっぱり、き、気持ちいい! 勇者ってこういう時は最高だなあ。テレビで見ていたアイドルも同じ気持ちだったに違いない。
ちょんちょんと背中を突かれる。
「…ライカが勇者様のために、近くの町まで行って買ってきたのに、ひどい言い方です。後でライカに報告しますね…」
ぼそりと、背後でシールディの不吉なつぶやきが聞こえた。
や、やばいぞ!
「しかし、物の価値は、値段で決まるもんじゃない! ハートだ、ハートが大事だ! 安いとか安くないとかいうやつは素人だ! 分かるか、ハゲ侍! 剣は気持ちなんだ。ハートなんだ。僕らの熱い想いが大事なんだ、アンダースタンド!?」
『おおおお!』
町の人は何だっていいらしい。シールディの疑いは挽回できるのか!?
『勇者、分かってるじゃねえか! バロちきしょー』
「!? 何を言っているかさっぱりわからんでござるが、剣の価値は価格ではなく、心意気だといいたいでござるか?」
ナイルが意外と分かりやすくまとめてくれた。
「と、とりあえず! 話を戻すけど、ここでの争いはやめるんだー!」
もう、強引にごまかすしかなかった。
「ぬ! 知らんと言ったでござろう! はっ!」
右手で構えたナイルの剣先が僕に迫る、っち、どっちにしろやるつもりか!
僕は、剣の側面で、刀を弾き飛ばし、一歩下がり体制を整える。
剣を正しく持ち、剣先をナイルに向けた。
「行くぞ重丸。世界一の称号を手に入れるでござる!」
『てやんで―バローチクショー! やるのかい! あれを!』
「無論でござる! ゆくぞ! トランス!」
剣を上段に構え、刃を上にして剣先をこちらに向ける。
背中に悪寒が走る、殺気!
「マナ流動、暁・激!」
『いったれーだぜー!』
「うわわわ!」
一瞬で、紅蓮の炎に包まれたナイルの刀の切っ先が、僕の目の前に迫っていた。