2-15 勝負は無情
僕は町であれを手に入れると、再び居酒屋の2階へ走った。
みんな待っていてくれた。
「はぁはぁはぁ、遅くなりました…」
「お腹は大丈夫ですか?」
「大丈夫です。無事、峠を越えたので。それでは、ハァハァハァ…やりましょうか!」
「いいですよ。望むところです!」
ぽよんと、エルバディが胸を張る! 跳ねる! 跳ねる!
みんな、そこに視線が集中し、時が止まる。
これが、時間が止まったように感じる瞬間か!
「勇者様も委員会の方もいい加減にしないとそろそろ…」
「ひぃ!」
「も、申し訳ございません!」
再び時を動かしたのは、シールディだった。
「ゴホン、それでは、双方、アホ毛キャップを装着!」
僕とエルバディにアホ毛キャップが装着される。
なかなかきついな。
「それでは、審判を始める…皆様方お静かにお願いします…」
そして、
「ジャッジメントおおおお!!」
2人のキャップがとられた!!
結果は、
「こ、これは!? 数えるまでもない、勇者様の圧勝です! 勝利です!」
「な、なんですって!?」
エルバディは驚愕の表情だった。
そう、僕の髪の毛は重力に逆らったかのようにほぼ天に向いている。
エルバディも一部分が確かに跳ね上がっているが、僕には到底及ばない。
「はっはっは! 見たか! 俺の力を!」
僕は胸を張っていった。特に跳ねるものはないが。
「い、インチキです! 何か、髪の毛についているです!」
「そんなことは、ないと思いますが…」
って、危ないぞ!
バチィっと言って、僕の髪に触れようとした委員会が手を引っ込める。
「い、今のは」
「まあ、そういうこと。要は静電気を発生させて、髪を逆立たせただけ」
僕は、服を脱いで中に来た毛糸のセーターを見せてネタ晴らしをした。
「毛糸のセーターを着たまま、全力ダッシュ! 静電気が貯まらないはずはない。しかも、僕はもともと髪が逆立っていたしね、勝機は上げるだけ上げさせてもらった」
「っく! なんて、卑怯な!」
僕は、ビシッとエルバディを指さして言ってやった。
「残念だが、すでにジャッジは終わっている! だよね、委員会の人」
「そ、そうです。すでに審議は決定しています。これは、やり直しはききません」
「っくー! くやしい!」
「そう、その悔しさを大きな胸にこれからも居酒屋の看板娘として頑張るが良い」
と、最後は勇者としてアドバイスをしてあげた。
委員会の用意した書類にお互いがサインをする。
「って、わけで、これからは、アホ毛決定権の代替は断ること! いいね」
「う、ううう」
「シールディ、行こう、これでとりあえず、解決だから」
「は、はい、それでは失礼します」
ベットで泣き続けるエルバディを置いて僕らは居酒屋を出た。
物理だけではなく、メンタルも大人になるがいいエルバディよ。
「いやあ、それにしても、まさか、勇者様のジャッジが体験できるなんて、どうか、記念にこの色紙にサインをください!」
「さ、サイン…。恥ずかしいなあ」
僕は適当にサインを書いた。
名前の下にチーム名「WLYU」と書く。なんか、バンドみたいだな。
「本部に持ち帰って、日々アホ毛委員会の活力となるよう、入り口に飾らせてもらいます!」
「え、いや、その、これからも頑張って…」
「はい! ありがとうございます! これで、失礼します!」
ビシッと敬礼をして、アホ毛委員会は去っていった。
「解決したでいいんでしょうか?」
「とりあえず、したということで、お城に戻ろう」
僕らは再び城に帰ろうとした時、
「見つけたでござるよ! 勇者エックスよ!」
聞きたくない声が聞こえた。