2-14 弾力との闘い
「えーと、それだったら、その頼みを断ったらいいんじゃないでしょうか?」
「頼みを断るんですか? 私、人の頼みを断れない性格なんです」
「え? いや、断れば済むでしょう」
「いや、断るなんて、困っている人がいたら、助けるのが力のある者の務めだと思うんです」
は? やばい、この娘。
「ちょっと、待って。さっき、相手が可哀そうっていってたけど、だったら、そもそも戦いに参加しなければいいわけで」
「それは、結果論です。先に助けを求めてきた方を助けたら、相手が可哀そうになって」
「ん? さっき無理やりって」
「そうです。無理やりとは、無理やり助けを求めてきたんです。「エルバディちゃん頼むよ~」と泣きながら無理やりお願いされるわけです。私、断れません!」
ぷにょん。
まじかい。そりゃ、解決せんわ。なんだ、無理やり戦わされてるわけじゃないのね。
「それは、あなたが断ればもう、2度と発生しませんが」
「そんな! 私断れません! デートに誘われたらぜったに断れないのと、同じことです」
「いや、嫌だったらデートも断って」
「そ、そんな!? 私の魅力にメロメロになった殿方の願いを断れと! そんな無慈悲なことを出来るわけないじゃないですか!」
ぷにょん!
なんだ、この娘はシスターか何かか! 人類全部助ける、みたいな志か! 居酒屋の看板娘じゃないのか!?
「いや、断ってください。それで、悩みは解決しますから!」
「嫌です! それをすると、もっと悲しい人が増えます!」
「増えません! 貴方がその元凶です。貴方が動かなければ、被害は広がらない! ただ、それだけです!」
「嫌です! 私はみんなを助けたいんです!」
「助けるならもっと別の方法でお願いします! とりあえず、アホ毛の依頼が来たら、今度から断ってください!」
「なぜ、そんなことを!?」
「だあ~くどい!」
興奮した僕は、エルバディの襟首を掴みかかったが、
ぷにょーん! ガンッッッ!
「あ、いたたたた~」
「勇者様、何やっているんですか…」
あるものの弾力で弾き飛ばされ、タンスに激突した。エルバディの2つ目の才能も、かなり侮りがたし。天は2物を与えとるがな。
「いてて、もう怒ったぞ。意地でも解決してやるからな」
「私は、アホ毛の依頼は断りません。それ以外の方法ならやりますよ」
僕は、スタスタと歩き、窓を開けると叫んだ。
「それ以外はない! 来たれ、アホ毛決定権委員会!」
エコーがかかると、30秒ほどで足音がバタバタと聞こえてきた。到着が早い。
ゴンゴン、ガン! と、返事も待たずに扉が開かれる。
「アホ毛決定権委員会です! 今、呼ばれましたか!」
アホ毛決定権委員会が現れた。本当に来た。
「勇者様、どうするつもりですか!?」
シールディが慌てて聞いてくるが、
「簡単なことさ。アホ毛決定権の問題は、アホ毛決定権で解決する!」
「そ、そんな!? まさか」
そのまさかだった。
先頭の男が僕を見た。
「ん? これは、勇者様ではありませんか!」
「そうだ。勇者だ! 今からアホ毛決定権の審議をお願いしたい」
「も、もちろんですとも! そ、創造主の勇者様のジャッジが出来るなんて、光栄極まりない!」
無駄にかっこいい敬礼をされた。
「おや、しかし…勇者様、まさか、審議の相手はこちらの女性ですか!? それは勇者さまといえども勝ち目が…」
「こんにちは、委員長さん。今回も簡単なジャッジになるとは思うんだけど」
エルバディが笑顔で言う。なるほど、勝てるとふんで余裕ってわけだな。ええい、調子に乗りおってからに。
「そ、そうですか。ごほん。いかに、勇者様とはいえ、審議は公平に行いますが、よろしいでしょうか?」
「もちろんだとも。お願いします」
「はっ! 承りました」
再びかっこいい敬礼をすると、委員長は僕に聞いた。
「そういえば、審議内容は?」
「審議内容は、エルバディが今後、アホ毛決定権の依頼を受けても全て断ること! の審議だ。僕が勝てば、今後エルバディは、アホ毛決定権の代替の依頼はすべて断る。僕が負けたら、今後エルバディにアホ毛決定権について要求はしない、だ」
「構わないわよ。ほっほっほ」
笑うと同時に、ポヨンポヨンポヨン…。
こういう時、胸の大きさが相手にプレッシャーを与えることができるとは初めて知った。
しかし、僕は負けない!
「それでは、さっそく始めますか?」
「そうだな…。うっ!? 昨日食べたカエルのせいでお腹の調子が!?」
「? 大丈夫ですかな!? 勇者様!」
「ふん! 緊張のあまり、腹痛になったのね!」
「ちょっと、タイム!! すぐに帰ってくるから!!」
僕は扉を開けて飛び出した!
急がなければ、あれを手に入れる為に!